親と子の本棚

ママとの夜、とうさんとの夜

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

妖精たちの看病

『真夜中のちいさなようせい』より

シン・ソンミ『真夜中のちいさなようせい』は、韓国の絵本だ。本のとびらのすみには、小さな文字で、こんなふうに書き込まれている。

ちいさなようせい……
とても ちいさくて、そっと うごく ようせいです。
わたしたちの すぐ そばにいますが、
おとなの 目には よく みえません。

「ある 真夏の 日 ねつに うなされていた あの夜」――最初の見開きでは、寝ている男の子のひたいをママがタオルで冷やしている。
「男の子は まくらもとから きこえる ちいさな こえに 目を さましました。」――男の子が目をあけても、ママはうたたねをしている。「ん? マ……マ……」
「しぃーっ! おこさないで」「あたしたちが ママのかわりに かんびょうしてあげる」――だれかと思えば、それは、妖精で、男の子のまわりに数人もあらわれたのだ。「うーんと…… まずは くすりを のまなきゃね」
妖精たちは、男の子の世話をし、つかれたママを寝かせる。――「しばらく あわないうちに すっかり ママらしくなって」妖精たちは、ママを知っているという。ママが子どもだったころには仲良しだったというのだ。

七ひきの子どもたち

「とうさん、ぼくたち もう みんな ベッドに はいったよ。」
ねずみの おとこのこたちが いいました。
「おねがい。おはなしを 一つ してよ。」
「もっと いい ことを して あげるよ。」
とうさんねずみが いいました。
「おはなしが おわったら、すぐ おねんねするって やくそくするなら ひとりに 一つずつ、ぜんぶで 七つも おはなし して あげよう。」

アーノルド・ローベル『とうさん おはなし して』のはじまりだ。とうさんは、ほんとうに、つぎつぎとお話をしてくれる。
最初は、「ねがいごとの いど」。「あるとき、おんなのこが いてね、」――女の子は、願いごとをかなえてくれる井戸を見つけて、お金を投げ込んで、お願いをした。すると、井戸が「いたいよ!」といったのだ。翌日も、その翌日も、同じことが起こる。
二番めの話は、「くもと こども」。子ねずみが、かあさんねずみといっしょに散歩に出かける。ふたりで丘の上にあがって、空をながめると、雲のなかにお城やうさぎやねずみの形があらわれる。かあさんが花つみに行って、子ねずみがひとりで雲を見ていると、雲は、どんどん大きくなって、ねこになる。子ねずみのほうへ近づいてくる。「たすけてよ!」 

まだ夜中

マリー・ドルレアンの絵本『夜を あるく』は、表紙も見返しもとびらも濃い青だ。とびらを開けると……。

ママが ぼくたちの ねている へやの ドアを あけた。
まっくらやみに あかりが さす。
「ふたりとも、おきて」ママが ささやく。
「やくそく、おぼえてる?」

「ぼくたち」というのは、「ぼく」と姉だろうか。まだ夜中だけれど、起き出して、いそいで着がえる。「ぼく」は、わくわくして、あまり眠れなかったようだ。
ママを先頭に、子どもたちふたりとパパとで家を出る。――「なつの 夜の くうきは アヤメと スイカズラの におい。」4人は、まだ眠っている町を静かに歩き、山のふもとにたどり着く。

今月ご紹介した本

『真夜中のちいさなようせい』
【絵と文】シン・ソンミ、【訳】清水知佐子
ポプラ社、2021年
やがて、ママも、目をさます。ママが子どものころに妖精たちにあげた花の指輪を見て、「あら、この ゆびわ……」「なつかしい……」。四つに分割された画面のなかで、指輪を手にしたママがだんだんに少女にもどっていく。この見開きの表現が何とも見事だ。

『とうさん おはなし して』
アーノルド・ローベル 作、三木 卓 訳
文化出版局、1973年
七つのお話を語り終えた、とうさんは、「まだ ねむって いない こは いるかな?」とたずねる。返事はない。――「ぐっすり ねむるんだよ。あさに なったら また あおうね。」

『夜を あるく』
マリー・ドルレアン 作、よしい かずみ 訳
BL出版、2021年
「ぼくたち」は、広い道路からはずれて、山に入る。「とほうもない しずけさ」「ひっそりとした 森のなか」を進む。めざしているのは、山の朝だ。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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