親と子の本棚

ごはんのファンタジー

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

カウンターの子どもたち

『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』より

写真絵本の表紙は、おすしやさんの白木のカウンターにすわっている子どもたちだ。職人さんが子どもたちに赤い魚を見せている。
表紙をめくった見返しでは、車の通らない石畳の道を3人の女の子は手をつないで、4人の男の子は肩を組んで歩いてくる。道の左右のシャッターのしまっている店先に赤ちょうちんがかかっていたり、ビールケースが置かれたりしているから、夜は、呑み屋街なのだろう。
さらにページをめくった、とびらの左側には紺ののれんをくぐる女の子がふたり、右側のカウンターのなかから、白衣の職人さんが「ヘイ! いらっしゃい!」と声をかける。おかだだいすけ文・遠藤宏写真の絵本『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』のはじまりだ。
子どもたちは、子どもたちだけで、やってきたらしい。子どもはみんな、おすしが大好きだけれど、カウンターのあるおすしやさんは、お酒を呑んだりする大人たちの世界で、子どもは、なかなか連れて行ってもらえない。ましてや、子どもだけで行くなんて。この写真絵本は、ファンタジーなのかもしれない。まだ昼の呑み屋街を通り抜けて、店ののれんをくぐったとき、子どもたちは、おすしやさんという夢の世界にまぎれこんだのだ。さて、そこでは、何が起こるのか。
職人さんは、さっそく、「さぁて、どれをおすしにしようか?」とたずねる。たくさんの魚のなかから、子どもたちが選んだのは、赤いキンメダイと、ニョロニョロしたアナゴ、そして、イカの三つだ。

散歩に出かけた魚

「すいぞくかんのさかなたちだって、たまにはノンビリまちにさんぽにでかけます。」――長新太『ノンビリすいぞくかん』のカバーのそでには、こう書かれている。たしかに、それぞれの話の魚たちは、水族館を抜け出して、どこかへ出かけたことを語る。最初の「ヒラメのはなし」は、「えーと、このあいだ やきゅうを みにいったんだけど、その日は、ジャイアンツのしあいでね、とてもこんでいたの。でもね、やっと、ぼくは すわれました。」とはじまる。つぎの「フグのはなし」は、テレビ局へ行った話。
「イカのはなし」もある。飛行場で飛行機を見ていたイカは、いつのまにか大きくなって、飛行機になってしまう。

ぼくのからだは、スマートでしょ。ちょっと、コンコルドという ひこうきに、にているんだよね。
きがついてみると、もう、そうじゅうしが、ぼくの からだの まえのほうで、むせんで なにかいったりしている。
「キーン」という おとをさせて、ぼくは、そらに つっこんでいった。

『おすしやさんにいらっしゃい!』では、アオリイカ、ヤリイカ、コウイカ、スルメイカの4種類が紹介されていた。「イカのはなし」のコンコルドに似ているイカは何だろう。スルメイカかな。

15の料理

フェリシタ・サラの絵本『ライラックどおりのおひるごはん みんなで たべたい せかいの レシピ』で、はじめに描かれるのは、道路に面した5階建ての建物だ。道路には、ライラックの木が植えられている。

ライラックどおり 10ばんちの たてものから、きょうも いい においが ただよってくる。
だれが なにを つくっているのかな?

最初の見開きの左ページ。――「この だいどころでは ピラールが、まっかな トマトを なめらかに なるまで まぜている。」右ページには、必要な材料の絵が描かれている。完熟トマト1キロ、ニンニクみじん切り1,2かけ分、塩小さじ1、エキストラバージンオイル100ml……。その下には、サルモレホ(トマトの冷製スープ)6人分のレシピが記されている。スペイン料理だ。
つぎの見開きでは、となりの部屋のムッシュー・ピンがブロッコリーを炒めている。おいのマルセルが「ちいさな もり」と名づけたブロッコリーごましょうゆ味、中国の料理だ。つぎは、おむかいのマリアのつくるワカモレ(アボカドのディップ)、メキシコである。こんなふうにして、世界の15の料理の材料とレシピが紹介される。

今月ご紹介した本

『おすしやさんにいらっしゃい! 生きものが食べものになるまで』
おかだ だいすけ 文、遠藤 宏 写真
岩崎書店、2021年
絵本のなかの職人さんは、文を書いた、おかださん自身だ。おかださんは、子どもたちといっしよに魚のからだを観察し、子どもたちの目の前で、それをさばいて、すしにする。――「へい、おまち!」「いただきま~す!! 生きものは 食べものになって、きみたちの からだの いちぶになる。わたしたちは たくさんの いのちで できているんだ。」

『ノンビリすいぞくかん』
長 新太・さく
理論社、1996年
全部で17の話が収められている。そのうち、七つは、コマ割りマンガのかたちだ。
散歩に出かけて、冒険をした魚たちは、おしまいには、かならず水族館に帰ってくる。

『ライラックどおりのおひるごはん みんなで たべたい せかいの レシピ』
フェリシタ・サラ 作、石津ちひろ 訳
BL出版、2022年
「イシダさんは なれたようすで、みりんの びんに てを のばす。」――日本の親子どんぶり2人分のレシピもある。それぞれの料理ができたら、みんなで庭に集まる。お皿を一枚手にとって、料理をシェアして、おひるごはんだ。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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