親と子の本棚

鳥を待つこと

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

おじいちゃんの家

『庭にくるとり』より

石川えりこの絵本『庭にくるとり』の最初の見開きには、玄関のとびらを開けるおじいちゃんの後ろ姿と、とびらが開いたから顔が見える、母さんと「ぼく」が描かれている。――「ぼくは母さんが生まれた家でくらすことになった。おじいちゃんがひとりですんでいるんだ。」
つぎの見開きでは、「ぼく」が、机の上のランドセルから荷物を出している。

母さんの子どものときのへやが、ぼくのへやになった。
ぼくは、友だちからの手紙のたばを、つくえにおいた。
「すぐになれるさ」
庭にいるおじいちゃんがいった。
ぼくは、へんじをしなかった。

「ぼく」が、どんないきさつで、おじいちゃんの家で暮らすようになったのかはわからない。転校することにもなったのだろう。「ぼく」が取り出した手紙のたばは、前の学校の友だちが書いてくれたお別れの手紙だろうか。
「ぼく」が母さんとふたりで新しい学校に出かける朝、玄関を出たとたんに、ギョーギョーという声がする。「あれはヒヨドリだ。」とおじいちゃんがいう。
学校から帰ると、おじいちゃんが庭の木にのぼって、鳥のエサ台をつくっている。「ぼく」は、すぐに鳥が来るのかと思って、部屋から見ている。おじいちゃんがいう。――「そりゃ、すぐには来ないさ。この庭があんしんだとわかるまで、とりはずうっと、ようじんするんだよ。エサ台に、ハトムギとカボチャのタネをおいといたぞ」つぎの日も、つぎの日も、鳥は来ない。

山のなかの小さな家

「ぼくは 山のなかの 小さな家に すんでいます。」――鈴木まもるの絵本『鳥の巣みつけた』は、こう語りはじめられる。見開きの2ページに木の茂る山が描かれ、山のふもとには小さな小屋があって、小屋の前にある畑を耕しているのが「ぼく」だ。

ぼくは 木がすきなので、家のまわりに 木をうえています。
ある日、木をうえていたら やぶのなかで 古い鳥の巣をみつけました。
それは かれ草でできた 小さな鳥の巣でした。
このなかに いくつたまごをうんで、何羽のヒナが巣立っていったのだろう、と思うと うれしくなりました。

「ぼく」が家のまわりをさがしてみると、ヒナが巣立ったあとの鳥の巣をいくつも見つけることができた。どんな鳥がどんなふうにして巣を作ったのか、調べてみる。
モズ,メジロ、ウグイス、カワガラス、キセキレイ……、かれ草や根、コケ、ササやススキの葉などを使っている。かたちは、おわん型、カップ型、球体、ドーム型、皿型などだ。

沼地に来る雁

『庭にくるとり』の「ぼく」とおじいちゃんは、鳥が来るのを待っている。雁の群れを待ちかまえているのは、椋鳩十『大造じいさんと雁』の大造じいさんだ。

 ことしも、残雪は雁のむれをひきいて沼地にやってきました。
 残雪というのは、一羽の雁につけられた名前です。左右のつばさに一かしょずつまっ白なまじり毛をもっていたので、狩人たちからそうよばれていました。
 残雪は、この沼地にあつまる雁の頭領らしい。なかなかりこうなやつで、なかまが餌をあさっているあいだも、ゆだんなく気をくばっていて、猟銃のとどくところまでけっして人間をよせつけませんでした。

大造じいさんは、残雪が沼地に来るようになってから、一羽の雁も手に入れられなくなって、いまいましく思っている。残雪がやってきたと知ると、じいさんは、「ことしこそは」と、前から考えていた特別なしかけを作る。
何年もにわたる、大造じいさんと残雪の知恵くらべの物語である。

今月ご紹介した本

『庭にくるとり』
石川えりこ
ポプラ社、2022年
「ギギーギギー」――大きな鳥の声で目がさめる。エサ台にやってきたのは、ヒヨドリの夫婦だった。エサ台の下に落ちていたヒヨドリのふんには、小さな黒いつぶが混じっていた。グミの種だ。おじいちゃんと「ぼく」は、庭でグミの種を育てることにする。ビワの種も。「庭に実のなる木をいっぱい植えたら、いろんなとりが食べにくる?」――「ぼく」が聞くと、おじいちゃんは、「来るさ、いっぱい来るさ」とうなずく。
庭に来る鳥を待つ「ぼく」とおじいちゃんは、少しずつ心をよせていく。モノクロだった絵本の画面に、だんだん色がついていく。

『鳥の巣みつけた』
文と絵 鈴木まもる
あすなろ書房、2002年
日本にいる鳥がみな日本で巣を作るわけではない。外国で巣を作る渡り鳥もいるようなので、「ぼく」は、調べに行く。マガンの巣は、シベリアの草原にあった。ハシボソミズナギドリは、オーストラリアの近くの島の地面に穴を掘って、巣を作っていた。「ぼく」は、世界中の鳥たちの巣も調べることにする。巣は、自分の子どもを育てる大切な場所だ。
画家の鈴木まもるさんは、鳥の巣研究家でもある。このほかにも、『鳥の巣の本』(岩崎書店、1999年)など、多くの著書がある。『鳥の巣みつけた』のとびらの絵は、ヒヨドリの巣だ。

1年生からよめる日本の名作絵どうわ
『大造じいさんと雁』

椋鳩十・作、網中いづる・絵、宮川健郎・編
岩崎書店、2012年
「大造じいさんと雁」は、いまの小学校国語教科書全部の5年生にのっている。「大造じいさんと雁」には、いくつかの本文があって、教科書の本文も出版社によってそれぞれだが、この本は、『動物ども』(三光社、1943年)という作品集に収められた本文によっている。「知りあいの狩人にさそわれて、わたしはいのしし狩りに出かけました。いのしし狩りの人びとはみな栗野岳(鹿児島県にある山)のふもとの大造じいさんの家にあつまりました。」(カッコ内原文)という書き出しの「まえがき」のある本文だ。わかりにくいことばを脚注で説明するなど、1年生から読める工夫をした。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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