親と子の本棚

森で川で山で手に入れたもの

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

季節のことば

『ひみつの もりの いちねん』より

柴田晋吾・竹上妙の絵本『ひみつの もりの いちねん』は、夏のある日からはじまる。

おじいさんと あらたが やまみちを あるいていくと、あかるい ばしょに つきました。
どこからか ことりの こえも きこえてきます。
あらたが いけに てを いれて あそんでいると、おじいさんが しずかに いいました。
つたえたきことのかずかずかぜかおる

「いまのは なあに?」とあらたが聞くと、おじいさんは、「はいくを つくったんだよ」とこたえる。「ぼくでもさ おとなになれば つくれるの」とあらたが更にたずねると、おじいさんは、「おや あらた、いまのは はいくだよ。」という。たしかに五七五になっている。おじいさんは、「できれば きせつの ことばを いれてね。」ともいう。
あらたは、大きな木の下で指を折って、五、七、五と数えながら、こういう。――「きのみきはむしがあつまるレストラン」おじいさんは、「いいじゃないか!」といって、自分ももう一句。――「みつわけておおむらさきもかなぶんも
こうして、そこは、あらたとおじいさんの「ひみつの もり」になった。あらたとおじいさんは、また「ひみつの もり」に来て、俳句を詠むことにする。ふたりは、秋にも冬にも、そして春にも森をおとずれる。

いのちの重さ

おとうさんと川にむかったのは、最上一平・伊藤秀男の絵本『いのちが かえっていくところ』のたもんだ。――「朝やけだ。みるみる 夜が あけてきた。あかるくなると、とおくに、まだ ゆきを かぶった 山が みえてきた。」
おとうさんが、たもんに釣りを教えてくれる。まず、びょうぶぶちの下流の石の下にいる虫、オニチョロをとる。これをエサにするのだ。
エサをつけた糸を上流のほうに入れて自然に流すようにする。魚は、上流のほうをむいて、エサが流れてこないかと見ている。たもんは、何度もエサを投げ入れるけれど、なかなか釣れない。あきらめかけたとき、急に、さお先がまがる。近くで釣っていた、おとうさんがすっとんでくる。

「おおきいぞ! あわてるな! さおを たてろ!」
 さかなは グイグイ ひっぱる。さおのさきが、すいめんに つきそうなぐらい、まあるく しなった。
  (中略)
 あたまが カアーッと あつくなった。しんぞうが ドッキン、ドッキンする。

『ひみつの もりの いちねん』のあらたが手に入れたのは季節をつかまえることばだが、いま、たもんが引きあげようとしているのは、魚のいのちの重さそのものだ。それなら、飯野和好の絵本『ぼくとお山と羊のセーター』の「ぼく」が手にしたのは何か。

「メエーヘヘヘ」と「ホイホイ ソレソレ」

『ぼくとお山と羊のセーター』のとびらには、茅ぶきの家に帰ってきたランドセルの男の子が描かれている。――「これは ぼくが 小学生のころの おはなしです」
本のとびらを開けると、男の子が「ただいまー」といって入った土間にはかまどがあって、板の間をあがったところには、自在かぎのある、いろりも切られている。
ページをめくると、男の子が土間から裏へ抜ける戸を開けている。「ンモー メエーヘヘヘ メエーヘヘヘ コーコココココ」――家の裏には、牛もヒツジもニワトリもウサギももいるのだ。
また、ページをめくると、男の子が裏山にむかって「とうちゃーん かあちゃーん おじいちゃーん」とさけぶ。「おおーっ かえったかー それじゃあ 羊をなあ ちょっと上の草場に うつしといてくれやー」――おとうさんが、そうこたえる。
つぎは、男の子が「ホイホイ ソレソレ」とヒツジたちを追って、山を登っていく場面だ。ニワトリたちもついてきた。家で飲むお茶の葉を乾燥させる倉の前がヒツジたちの好きな草場だ。――「よし よし いっぱいたべな」 
夜の食卓で、おとうさんが男の子にいう。――「カズ 来年にゃあ あの羊の毛で こんどは おまえのセーター つくれるな」

今月ご紹介した本

『ひみつの もりの いちねん』
作 柴田晋吾、絵 竹上妙、俳句 本井英
くもん出版、2022年
絵本にはさみこまれている小冊子『絵本のたから箱』の作者のことば「四季を味わう」には、こうある。――「都市にくらす多くの子どもたちにとって四季の楽しみとは、「夏休み」や「クリスマス」といった年中行事が中心となっているかもしれません。それでも季節とは本来、大地が一年を通じ顔つきを変えてゆく、そのうつろいそのもののはず。」
作中の俳句は、俳人・本井英による。

『いのちが かえっていくところ』
作 最上一平、絵 伊藤秀男
童心社、2022年
たもんが釣りあげたのは、大物の美しいイワナだ。ほおずりしたくなるほど、いとおしい。
おとうさんが火をおこして、イワナを串にさして焼いてくれる。――「イワナの いのち
を とったんだから、きれいに たべろ」「そうすれば、きっと、イワナの たましいは かえっていくべ」たましいは、どこにかえっていくのだろう。

『ぼくとお山と羊のセーター』
飯野和好
偕成社、2022年
「セーター セーター ぼくのセーター 羊のセーター どんな形にしようかな」――「ぼく」は、ウサギのエサの草とりをしながら考える。春になれば、毛糸屋さんがやってきて、ヒツジの毛刈りをしてくれるのだ。
作者は、太平洋戦争後間もないころに埼玉県の山のなかで生まれて、少年時代をすごしたという。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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