子どもと楽しむ料理の科学

家族で楽しくチーズフォンデュ

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

いつものチーズフォンデュをさらに美味しく

卓上の鍋で煮とかしたチーズを、パンなどに絡めて食べるチーズフォンデュ。チーズを熱してドロドロにしただけの料理、というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、実はそれだけではあのとろーりなめらかなソースにはなりません。あの食感を作り出し、保つため、煮とかす際に加える材料や手順にさまざまな工夫が隠れています。  

たとえば白ワインの役割は、チーズをちょうど良い濃度にときのばしたり香りをつけたりするだけではありません。酒石酸という成分により、チーズの主成分であるカゼインの状態を変化させるはたらきがあります。

今回は、チーズフォンデュをよりおいしく、失敗なく楽しむための科学のコツや、それぞれの材料の役割を解説し、ワインで作るレシピと牛乳で作るレシピを紹介します。

ワインで作るチーズフォンデュ

材料(2〜3人分)

ピザ用ミックスチーズ 200g
白ワイン(辛口) 100ml
コーンスターチ 小さじ2 (または小麦粉 大さじ1)
ニンニク 1/2片
こしょう、ナツメグ 少々
お好みの具材(フランスパン、ゆでた野菜など)

1.下準備 

ボウルにチーズを入れ、コーンスターチを加えてまんべんなくまぶす。 

小鍋の内側にニンニクの切り口をこすりつけ、香りを移す。

2.加熱する

鍋にワインを入れて火にかけ、沸騰したら弱火で1分ほど煮てアルコール分を飛ばす。

 

チーズを3〜4回に分けて少しずつ加え、よくかき混ぜながらとかす。

ポイント

 チーズを加熱するとやわらかくとけますが、これをただの水や牛乳で伸ばしてもなめらかなチーズソースにはなりません。あえてワインを使うのには理由があります。

 チーズの主な成分は牛乳などの乳に由来する「乳脂肪」と、「カゼイン」というタンパク質です。牛乳の中では、カゼインが集まって小さな粒を作っています。これらはさらに「リン酸カルシウム」という成分によって結びつけられ、カゼインミセルという塊を作ります。チーズでは、このカゼインミセルの結合が少しゆるんで網目のような構造になり、その内側に脂肪の粒が包み込まれた状態になっています。  

 チーズを加熱すると、冷えて固まっていた乳脂肪が液状になり、カゼインミセルの網目から染み出してきます。また、カゼインミセルは、熱を加えると緩んで動きやすくなるため、チーズはやわらかくなり、種類によっては液状にとろけた状態になります。ところが、脂肪もカゼインミセルも水とは混ざり合わない性質があるため、このまま水に入れてもバラバラに分離してしまいます。カゼインミセルの網は、細い糸やガムのような状態で残るため、口当たりも良くありません。  

 そこで活躍するのがワインに含まれる酒石酸です。酒石酸は、カゼインの粒を結びつけていたリン酸カルシウムを奪って、粒同士の結びつきを切るはたらきがあります。これによってカゼインミセルの網目はバラバラになり、ソースの中に塊ではなく細かい粒として分散できるようになります。

 

 また、小さな粒の状態に戻ったカゼインは、水と相性の良いパーツと、油と相性の良いパーツの両方を持っています。そのため、本来混ざり合わない水分と乳脂肪を取り持って、なめらかで一体感のあるソースにできるのです。この現象は「乳化」と呼ばれ、卵黄のタンパク質が、サラダ油とお酢とを混ぜ合わせてマヨネーズにするのと同じ仕組みです。チーズが十分にとけたら、マヨネーズを作るようなイメージでしっかりとかき混ぜると、乳化してなめらかなソースになりますよ。

 

3.仕上げ 

チーズとけたらこしょうとナツメグを加え、とろりとなめらかになるまでしっかりとかき混ぜる。 

 4.食べる

卓上コンロやホットプレートで温めながら、バケットや野菜に絡めて食べる。チーズをつける際、具材で鍋の底からかき混ぜるようにすると、チーズが焦げ付きにくく、長く楽しめる。

ふだんのお料理に使う料理酒などと同様に、ワインのアルコール分は加熱によって揮発するため、ほとんど残りません。
それでも、お子さんやお酒に弱い方など、アルコールを使うのが心配な場合は牛乳で代用するとよいでしょう。ワインの香りが苦手な方にも食べやすいです。牛乳を使う場合、ワインの酒石酸の代わりに、クエン酸を含むレモン汁を少量加えます。

牛乳で作るチーズフォンデュ

材料(2〜3人分)

ピザ用ミックスチーズ 200g
牛乳 100ml
コーンスターチ 小さじ2 (または小麦粉 大さじ1)
ニンニク 1/2片
レモン汁 小さじ1/4
こしょう、ナツメグ 少々
お好みの具材(フランスパン、ゆでた野菜など)

1.下準備 

ボウルにチーズを入れ、コーンスターチを加えてまんべんなくまぶす。 

小鍋の内側にニンニクの切り口をこすりつけ、香りを移す。

2.加熱する

鍋に牛乳を入れて火にかけ、ふつふつとしてきたらチーズを少しずつ加え、よく混ぜながらとかす。

 

3.レモン汁を加える 

チーズがとけたら、レモン汁を加え、全体を乳化させるようにしっかりとかき混ぜる。

こしょうとナツメグを加え、とろりとなめらかになるまでよく混ぜる。

ポイント

 牛乳を使うレシピの場合、後からクエン酸(レモン汁)を加えるため、カゼインの変化の様子がよくわかります。見比べたり食べ比べたりしてみましょう。

 まず、レモン汁を加える前のチーズをすくい上げるともっちりと弾力があり、非常によく伸びます。このまま食卓に出すと、鍋の周りが伸びたチーズだらけになってしまうかもしれません。ここにレモン汁を加えると、トロトロとしたソース状になり、ほどよく伸びますが適当なところで切れるようになってきます。レモン汁を入れすぎるとトロトロを通り越してサラサラになってしまうので気をつけましょう。

 また、レモン汁を加える前のチーズソースを一口食べてみると、カゼインがガムのように固まって口の中に残るのがわかります。ここにレモン汁を加えてよくかき混ぜると、カゼインと水と脂肪が一体となり、なめらかなソースに変わります。

 

4.食べる

卓上コンロやホットプレートで温めながら、バケットや野菜に絡めて食べる。具材にチーズをつける際、具材で鍋の底からかき混ぜるようにすると、チーズが焦げ付きにくく、長く楽しめる。

チーズにコーンスターチをまぶす理由

コーンスターチは、とうもろこしのデンプンを取り出して粉にしたもの。料理のとろみ付けや衣に用いられるほか、ブラマンジェなどのお菓子作りにも使われます。フォンデュを長時間加熱していると油脂が分離してしまうことがありますが、コーンスターチを加えることで程よいとろみがつき、分離を防ぐ効果があります。  

コーンスターチがない場合は、薄力粉で代用しましょう。薄力粉は小麦を粉にしたもので、デンプンの他にタンパク質などの成分も含みますが、コーンスターチと同様、デンプンによるとろみをつける効果があります。  

コーンスターチの代用は、料理によっては片栗粉が使われることもありますが、チーズフォンデュにはあまり向いていません。片栗粉に使われるじゃがいものデンプンは、少量でもとろみがしっかりつくという長所がある反面、長く加熱すると、とろみが失われやすいという短所もあります。一方、とうもろこしや小麦のデンプンは比較的加熱に強く、長時間とろみを維持することができるので、チーズフォンデュにピッタリです。

 

2/23(木)更新の次回では、「混ぜると固まる!? 簡単バナナプリン」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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