子どもと楽しむ料理の科学

外はこんがり、中はジューシー ステーキのおいしい焼き方

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

フライパンでおいしいステーキを焼こう

ごちそうの定番といえばビーフステーキ。分厚いお肉というのは、それだけでどこか特別な感じがしますよね。焼きたての香ばしいにおいや、噛み締めるごとにじゅんわりとしみ出す肉汁を想像するだけでお腹が空いてきます。

 自宅でステーキを楽しみたい場合、難しいのが焼き加減です。焼き過ぎるとお肉の繊維が縮んで水分が絞り出され、硬くパサパサとしてしまいます。かといって焼き方が足りないと、中が生っぽく、ぐにゃぐにゃとして噛み切りにくくなります。

ステーキの焼き方は、レアやウェルダンなど人それぞれ好みが分かれるところですが、今回はステーキを「ミディアム」くらいの焼き加減に仕上げるコツを紹介します。中まで火が通って歯切れ良く、それでいて赤みが残ってジューシーなステーキを目指しましょう。

 

ビーフステーキ

材料(2人分)
・ステーキ用牛肉 2枚(300g程度)
  今回は厚さ1.3〜1.5cm程度のものを使用
・塩、胡椒 少々
サラダ油

<付け合わせ> お好みで
・新じゃがいも 60g(小2個程度)
・ブロッコリー 50g(1/3株程度)
・ミニトマト 4個
・バター 10g

<ソース> お好みで
*醤油、みりん 各小さじ1
*水 大さじ1(大人の分は赤ワインに変えてもOK)

 

 

1.お肉を常温に戻す
ポリ袋に肉を入れ、しっかりと空気を抜いてから口を縛る。40℃程度のぬるま湯に5分程度つける。

ポイント

お肉は、加熱すると安全性が増すだけでなく、食感や味わいも良くなります。タンパク質が変性して歯切れが良くなり、タンパク質の間に抱え込まれていた水分が自由になるため、噛んだときにじゅわっと肉汁が染み出して、肉のうま味が口の中に広がります。一方で、加熱しすぎると、肉が縮んで硬くなり、水分が肉の外に搾り出されてジューシーさが失われてしまいます。
分厚いお肉を焼く際に難しいのが、中まで火を通しながら、外側が焼けすぎないようにすること。そのためには、内側と外側の温度差をなるべく少なくする工夫が必要です。
肉をフライパンにのせたとき、肉の表面は200℃近い高温にさらされます。ところが、肉の中心部には外側から徐々に熱が伝わります。そのため、冷蔵庫から出したばかりの冷たい状態でお肉を焼くと、内側が温まるのに時間がかかり、その間に外側が焼け過ぎてしまいます。したがって、肉は焼く前に常温に戻すという一手間が大切なのです。

しかし、冷蔵庫から出したお肉をそのまま置いておいても、なかなか常温には戻りません。空気は熱を伝えにくいからです。空気よりも熱を伝えやすい水を使いましょう。ポリ袋にお肉を入れて40℃くらいのお湯に5分ほどつけておきます。ちょうどお風呂の湯加減ですし、給湯器から出たお湯を使えば簡単ですよ。袋の外から肉に触り、中までぐにゃぐにゃと柔らかくなっていればOK。細菌が繁殖しやすい温度でもあるので、長時間放置するのは避け、すぐに焼くようにしましょう。

 

2.付け合わせの準備

じゃがいもは皮付きのままラップに包んで電子レンジ(600W)で2分加熱する。串を刺してみて、火が通っているか確認する。加熱が足りなければ追加で加熱する

ブロッコリーは小房に分け、電子レンジ加熱可能な容器に入れてふんわりとラップをし、1分加熱する。

 

ミニトマトはヘタをとって半分に切る。

3.お肉を焼く

お肉を袋から取り出し、表面についた水分をよく拭き取ってから塩と胡椒を振る。フライパンにサラダ油を入れて中火にかけ、しっかりと予熱してから肉を入れる。強火で両面を30秒ずつ焼いて焼き色をつけたら火を止める。こまめに裏返しながらフライパンの余熱で1分焼く(厚さ1.3〜1.5cmの場合。薄い肉は余熱での加熱時間を短めに、厚い肉は長めにする)。

ポイント

ステーキのおいしさを作り出すのは、肉のうま味だけではありません。こんがりとした焼き目の色や香りも、非常に食欲をそそります。これはメイラード反応という現象によるもの。肉を加熱すると、アミノ酸や糖が反応して、褐色の色素とさまざまな香りの成分を作り出すのです。この反応は温度が高いほど早く進みます。したがって、肉にしっかりと焼き目をつけつつ、火を通し過ぎないようにするためには、肉の表面を短時間で素早く高温にする工夫が必要です。

第一に、肉のドリップはしっかりと拭き取っておくこと。水が水蒸気になるのには多くのエネルギーが必要になります。肉の表面に水分が残っていると、蒸発する際に熱が奪われてフライパンの温度が下がり、なかなか焼き色がつかないままどんどん火が通ってしまいます。塩を振って時間が経つと、浸透圧によって肉の水分がしみ出してくるので、下味をつけるのは焼く直前にしましょう。

第二に、熱を多く蓄えられるフライパンか、大きめのフライパンを使うこと。肉を入れると、フライパンから肉に熱が移動するため、フライパンの温度が下がります。このとき、フライパン自身が蓄えられる熱の量が多ければ、温度低下の影響が少なく抑えられます。鋳鉄が良いと言われますが、多層構造のステンレスも蓄熱性が高いです。大雑把な言い方をすると、分厚くて重いフライパンは比較的蓄熱性が高いと考えるといいでしょう。

では、薄くて軽いフライパンではダメかというとそんなこともありません。ガス火用のフッ素加工フライパンなどは軽くて薄いものが多いですが、これでもステーキをこんがりおいしく焼くことは可能です。軽いフライパンは温度が下がりやすいということを意識して、肉を入れたら強めの火加減をキープして、焼き色がつくまでしっかりと熱を供給します。小さいフライパンに肉をギュウギュウに入れると温度が下がりやすいので、肉の大きさに対してやや余裕があるサイズのものを選びます。また、ときどき肉を横に移動させながら焼くと、常に熱い面で焼くことができます。

4.保温する

お肉を取り出してアルミホイルに包み、5分ほどコンロのそばに置いて余熱で火を通す。

ポイント

分厚い肉の中心部まで熱が伝わるのには時間がかかりますが、それまでフライパンに乗せておくと、今度は外側が焼け過ぎてしまいます。フライパンから出して、余熱で火を通しましょう。

 

5.付け合わせとソースを作る

肉を保温する間に付け合わせとソースを用意する。肉を取り出したフライパンを再び火にかけ、バター10gを入れてとかし、2のじゃがいもとブロッコリーを入れて表面に焼き色をつける。ミニトマトも加え、少し柔らかくなったところでお皿に盛り付ける。フライパンに*の調味料を加えてひと煮立ちしたら火からおろす。お皿にお肉を盛り付け、ソースをかけて出来上がり。

お皿を温めてもっとおいしく

 

ビーフステーキをおいしく味わうには、食べるときの温度も大切です。牛肉の脂の融点、つまりとける温度は一般的に40〜50℃くらい。鶏肉や豚肉に比べて高めで、常温に置いておくと、冷えて白く固まります。バターのように融点が人の体温よりも低い脂は、固まっていても口の中でとろけますが、牛肉の脂は体温でとけないので、ボソボソとして口当たりが悪くなります。

出来立てを急いで食卓に運んだとしても、お皿が冷たければ、お皿に接した部分からお肉はどんどん冷めてしまいます。ステーキを焼くのに並行して、お皿を温めておきましょう。

おすすめはオーブンを使った方法です。100℃に予熱したオーブンにお皿を入れ、2分程度加熱し、そのまま庫内に置いておきましょう。複数枚ある場合は重ねた状態で大丈夫です。お皿をオーブンに入れたところでお肉を焼き始めると、お肉ができあがった頃にお皿もいい具合に温まっていますよ。

オーブンがない場合や他の料理にオーブンを使うときには、熱湯で温める方法もあります。お皿を清潔なタオルや大判の布巾で包んで重ね、ひと回り大きいトレイなどに載せましょう。この上から熱湯を回しかけると、平皿でもしっかり温められます。お湯が溢れると危ないので、シンクの中で作業すると安心です。肉が焼けたら、火傷しないように注意してタオルを外し、水気を拭き取ってから盛り付けます。

4/27(木)更新の次回では、「調理によって変わる食感 大根七変化」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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