子どもと楽しむ料理の科学

混ぜると固まる!? 簡単バナナプリン

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

バナナと牛乳でできる 卵不要のプリンの作り方

バナナは、一年中お手頃な値段で手に入り、剥くのも食べるのも簡単なので、朝食やおやつに便利な果物ですよね。常に買い置きをしているというご家庭も多いのではないでしょうか。

そのまま食べてもおいしいですが、スイーツの材料にもしばしば用いられます。今回は、バナナを使って作る簡単プリンを紹介しましょう。一般的なプリンは、卵液が加熱によって固まる性質を利用して固めますが、今回紹介するバナナプリンは、バナナに含まれるペクチンの性質を利用しています。作り方はとても簡単で、ちぎったバナナを電子レンジで加熱し、他の材料と合わせてブレンダーやミキサーでドロドロにするだけ。ぜひお子さんと一緒に作ってみてください。

 

バナナプリン(プレーン)

材料(プリン容器2個分)
・バナナ 皮を剥いた状態で90g(中1本または小1.5本)
・牛乳 90g(バナナと同量)
・レモン汁 小さじ1/3
・砂糖 小さじ2
・薄切りのバナナやミント(飾り用) お好みで

1.バナナを加熱する

バナナは皮を剥いて一口大にちぎる。

電子レンジ加熱可能な容器に入れてレモン汁をまぶし、ふんわりとラップをかける。600Wで1分〜1分30秒程度加熱する。全体がやわらかくなり、少し水気が出てくる程度になればOK。

ポイント

バナナプリンを作るのに絶対に必要な材料はバナナと牛乳の2つだけ。砂糖は甘味を補うために加えているので、甘さ控えめに作りたい場合は入れなくても大丈夫です。

レモン汁を加えるのは、バナナの変色を抑えるためです。バナナは切ったりすりつぶしたりすると、ポリフェノールが酸化して褐色の色素を作り出すため、色が悪くなります。レモン汁にはこれを抑えるはたらきがあるので、加えたほうが見栄えがよくなります。また、バナナは甘味が強く酸味が弱い果物なので、レモン汁を入れて酸味を足すことにより爽やかでフルーティな味わいのデザートになります。

2.混ぜ合わせる

全ての材料を合わせ、ミキサーやブレンダーでなめらかに撹拌する。器に注ぎ入れ、ラップをして1〜2時間冷やす。お好みで薄切りのバナナやミントなどを飾ってできあがり。

ポイント

加熱したバナナと牛乳を合わせて撹拌すると、ゼリー状に固まります。これはLMペクチンという成分の性質による現象です。

ペクチンというと、ジャム作りをイメージする人もいるでしょう。「ジャムがとろりとする仕組み」で詳しく説明していますが、果物に砂糖を加えて加熱すると、とろりとしたジャムになります。これは、果物に豊富に含まれるペクチンによる現象です。ペクチンは細長い繊維状の成分で、酸と大量の糖があると、ペクチンの繊維同士が引き寄せられて網目を作ります。この網目の中に水分が閉じ込められることでゼリー状に固まるのです。

この、ジャム作りで活躍するペクチンは、正確には「HMペクチン」と言います。HMとは「High Methoxyl」の略で、ペクチン分子の中に「メトキシル基」というパーツが多いことを表しています。

一方、今回のバナナプリンで重要なはたらきをしているのは、「Low Methoxyl」、つまり分子の中に「メトキシル基」というパーツが少ない「LMペクチン」というペクチンです。このペクチンは、糖や酸ではなく、カルシウムによって結びつけられ、網目を作ります。バナナプリンの場合、牛乳に含まれるカルシウムによってLMペクチンが網目を作り、ゼリー状に固まるというわけです。LMペクチンは常温で、比較的早く固まり始めるので、混ぜ合わせたらすぐに器に流し入れましょう。

なお、市販のデザートで、フルーツソースに牛乳を加えて混ぜ合わせるとぷるぷると固まるという製品がありますが、これもLMペクチンの性質を利用したものです。また、HMペクチンでジャムを作る場合は大量の糖が必要でしたが、LMペクチンを使うと糖が少なくても固まるため、糖度の低いジャムを作るのにも活用されています。

バナナプリン(ココア味)

材料(プリン容器2個分)
・バナナ 皮を剥いた状態で90g(中1本または小1.5本)
・牛乳 90g(バナナと同量)
・ココア 小さじ1
・砂糖 小さじ2
・薄切りのバナナやミント(飾り用) お好みで

1.バナナを加熱する

バナナは皮を剥いて一口大にちぎる。電子レンジ加熱可能な容器に入れてふんわりとラップをかける。600Wで1分〜1分30秒程度加熱する。全体がやわらかくなり、少し水気が出てくる程度になればOK。

ポイント

ココアを加える場合は、バナナの変色を気にする必要がないので、レモン汁は不要です。ココアの苦味があるので、砂糖は小さじ1〜2杯程度加えたほうがおいしいと思います。

2.混ぜ合わせる

全ての材料を合わせ、ミキサーやブレンダーでなめらかに撹拌する。器に注ぎ入れ、ラップをして1〜2時間冷やす。お好みで薄切りのバナナやミントなどを飾ってできあがり。

バナナの追熟とシュガースポット

 

バナナプリンを作る際は、よく熟したバナナを使いましょう。

写真左のバナナのように、軸や先端に青みの残る未熟なバナナを使うと、うまく固まらないことがあります。これには、 ペクチンエステラーゼという酵素が関係していると考えられます。これはペクチンのメトキシル基を分解する酵素で、HMペクチンにこの酵素が作用することで、メトキシル基が減ってLMペクチンができます。ペクチンエステラーゼはバナナが熟するにつれて増加するため、未熟なバナナでは酵素が少なく、LMペクチンが足りないのでしょう。

スーパーの店頭にあるバナナは、日持ちするようにやや未熟な状態のものが多いので、しばらく室温に置いて追熟させます。バナナの状態や気温にもよりますが、概ね2〜3日で皮の表面に、写真右のような茶色い斑点が出てきます。これは「シュガースポット」と呼ばれる完熟の目印で、ここまで熟したバナナは甘味や香りが濃くなりますし、プリンもしっかりと固まります。

なお、冷蔵庫に入れて保管したバナナも皮が黒っぽくなりますが、これは低温障害による変色で、シュガースポットではありません。追熟に適した温度は15〜20℃とされるため、十分に熟すまでは室温で保存し、冬場はリビングなどの暖かいところに置いておくとよく熟します。逆に、夏は追熟が早く進むので、なるべく涼しいところで保存し、十分に熟したところで冷蔵庫に移すのがおすすめです。

3/23(木)更新の次回では、「外はこんがり、中はジューシー ステーキのおいしい焼き方」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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