親と子の本棚

島に眠る宝

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

嵐のなかの座礁

『パフィン島の灯台守』より

ベンジャミン・ポスルスウェイトは、何十年もパフィン島の灯台守をつとめてきた。あかりを絶やさず、霧の夜には霧笛を鳴らす。パフィン島のあるイギリス南西部の沖合は、航海の難所なのだ。

けれど、ときとして、灯台がどんなに明るく照らしても遭難を防げないことがありました。
 ある大嵐の夜のことです。大西洋ウェスタンアプローチ海域を航海していた四本マストのスクーナー船ペリカン号が、荒れくるう波に襲われてシリ―諸島沖で座礁する事故が起きました。ニューヨークからリバプールに向かう乗客と船員、あわせて三十人が乗っていました。

マイケル・モーパーゴ『パフィン島の灯台守』は、こんなふうに語りはじめられる。
灯台から、ペリカン号が座礁するのを見ていたベンジャミン・ポスルスウェイトは、すぐにボートを出して救助に向かい、島と海とを5往復もして、30人全員を島にはこんだ。5歳だった「ぼく」と母さんも、このときに助けられたのだ。ベンジャミンは、みんなに毛布をくばり、熱くてあまい紅茶とビスケットをふるまった。
灯台の家の壁は、どこもかしこも、さまざまな船の絵で埋められていた。どの絵にも、BENと署名されている。「ぼく」が気に入って見ていた1枚を、翌日、救命艇で島をはなれるときに、ベンジャミンは手渡してくれる。「ぼく」は、その絵を長く身近に置いていた。「ぼく」と母さんの命を救ってくれたベンジャミン・ポスルスウェイトへの感謝の気もちをいだきながら。

島をめざして

父さんが落馬事故で亡くなって、「ぼく」と母さんは、父さんの両親をたよって、ニューヨークからイギリスに行ったのだ。でも、屋敷に住む祖父母に冷たくされて、新しい暮らしにはなじめなかった。「ぼく」は、パフィン島のベンジャミンに手紙を書くけれど、返事はない。
「ぼく」がふたたびパフィン島をたずねたのは、12年後、寄宿学校を卒業してからだった。すでに灯台が閉鎖されたこともあって、苦労して島に渡ると、ベンジャミンはいう。――「あのときの男の子だな? ペリカン号の。来ると思ってたんだ」
さて、瀬戸内海に面した漁港で、のんびりハゼ釣りを楽しんでいたモーちゃんに、こんな声が聞こえてくる――「あんたも、しつこいなあ。その金じゃあ、船はだせんよ。油代にもならんもの。」ハンチングの男がどこかの島に行きたいようだが、漁師に断られている。那須正幹『謎のズッコケ海賊島』のはじまりだ。モーちゃんは、ひどくおなかを空かせている、その男に、おにぎりをあげてしまう。男は、「この恩は一生わすれん。」「きみの名前をきいておこう。もし、わたしが大金持ちになったとき、きみのところにお礼にいこう。」といって、モーちゃんの連絡先を書き留める。
しばらくのちの夜、男からモーちゃんに電話がかかってくる。――「すまんが、会いにきてくれんか。」「今でないと、もう、まにあわんのだよ。」モーちゃんがハチベエとハカセをさそって、指定された駅のうらの児童公園に行ってみると、けがをした男が苦しい息の下からいうのだ。

「わたしはね、いま、ばく大な金を手にいれかけているんだよ。ところが、悪いやつにおそわれて、こんなすがたになってしまった。きみに、恩返しをしたかったんだが……。」

「こ、これを、きみにあげよう。いいかね……。これは、海賊の……宝もの……。場所を、説明……。」

モーちゃんが受け取ったお守り袋に入っていた書き付けの暗号をハカセが解読すると、「女島の南」という文句があらわれる。三人組は、女島をめざして船にのる。島の洞穴には、江戸時代の海賊がかくした宝物が眠っているらしい。

鳥にかえる魔法

『パフィン島の灯台守』のパフィンとは、ウミスズメ科の鳥で、日本名はニシツノメドリという。ところが、百年もの昔から、パフィン島には、パフィンが一羽もいない。
12年後に島をたずねた「ぼく」は、ベンジャミンの「ふしぎなもんだ、今日来るとは。ふたりめのお客だよ。」ということばに迎えられる。ひとりめの客とは、灯台の燈火室のガラスにつっこんで、けがをした一羽のパフィンだった。
デイヴィッド・アーモンドローラ・カーリンの絵本『ナンティー・ソロ 子どもたちを 鳥に かえたひと』の表紙には、数多くの鳥が飛んでいる。その書き出しはこうだ。

町に、ひとりの女が やってきました。
なまえは、ナンティー・ソロ。
じぶんは、子どもたちを 鳥に かえられるのだと いいました。

今月ご紹介した本

『パフィン島の灯台守』
マイケル・モーパーゴ 作、ベンジー・デイヴィス 絵、佐藤見果夢 訳
評論社、2023年
「ぼく」は、ベンジャミンに何度も手紙を書いていた。一度も返事がなかったのは、彼が文字が読めなかったからだった。島に行った「ぼく」は、彼に文字を教え、ふたりでいっしょに絵を描く。ふたりで介抱した一羽のパフィンが仲間をつれて戻ってきて、やがて、島は、パフィンでいっぱいになる。「ぼく」は、船やパフィンの絵を描く芸術家になるのだが、それは、もう少し先の話だ。その前に戦争が起こって、「ぼく」は、海軍に入隊することになる。

ズッコケ文庫
『謎のズッコケ海賊島』

那須正幹・作、前川かずお・絵
ポプラ社、1990年
『ズッコケ三人組』シリーズの第16作。今回は文庫版で紹介したが、もとの単行本は1987年刊。
作者の那須正幹さんは、2021年に急逝した。亡くなった1年あまりのちに、那須さんの追悼本『「ズッコケ三人組」の作家・那須正幹大研究 遊びは勉強 友だちは先生』(藤田のぼる・宮川健郎・津久井惠・ポプラ社編集部編、2022年)を刊行した。

『ナンティー・ソロ 子どもたちを 鳥に かえたひと』
作/デイヴィッド・アーモンド、絵/ローラ・カーリン、訳/広松由希子
BL出版、2023年
ナンティー・ソロが地面に何か模様を描いて、子どもの耳に何かささやくと、ほんとうに鳥になってしまう。ひとっとびすると、また、子どもにもどるのだが。ナンティー・ソロは、子どもたちに次々ささやき、ある日の午後、町の空は、鳥になった子どもたちでいっぱいになる。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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