親と子の本棚

つぎつぎと、つぎつぎに

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

連鎖する課題

イタリアのむかしばなし『プッチェットのぼうし』より

中脇初枝再話・アヤ井アキコ絵の絵本『プッチェットのぼうし』のとびらには、ぼうしが一つ描かれている。小さなひさしのあるぼうしで、「キャスケット」というのだろうか。
とびらを開けると、男の子がひとり。とびらに描かれていたぼうしをかぶっている。――「プッチェットはすてきなぼうしをかぶっていました。」
ページをめくると、つぎの見開きでは、男の子の頭にぼうしがない。――「ところが、プッチェットはぼうしをなくしてしまいました。」
そのつぎの見開きには、若い男の人が登場する。――「チョッケットはプッチェットのぼうしをみつけました。」
ページをめくると、若い男の人がぼうしをかぶっている。――「こんどは、チョッケットがプッチェットのぼうしをかぶりました。」
さらにめくると、男の子が若い男の人に話しかけている。――「プッチェットはチョッケットに言いました。/「チョッケット、ぼくのぼうしを返してちょうだい」/すると、チョッケットは言いました。/「パンをくれなきゃ、ぼうしはあげない」」
また、ページをめくると、男の子がパン屋の店先で女の人に話しかけている。

プッチェットはパンをもらいにパン屋のところへ。
「パン屋さん、パンをちょうだい。パンがないと、チョッケットがぼくのぼうしを返してくれないんだ」
ところが、パン屋は言いました。
「ミルクをくれなきゃ、パンはあげない」

ここまで読んで、わかった。男の子につぎつぎと課題があたえられていく話だな。そして、これは、「パンをくれなきゃ、ぼうしはあげない」―「ミルクをくれなきゃ、パンはあげない」と、連鎖する課題なのだ。

吹き飛ばされることば

「かぜが つよいから うちで まっててね。かいものして すぐ もどってくるから」――昼田弥子シゲリカツヒコの絵本『かぜがつよいひ』のとびらには、そういって出かけるおかあさんが描かれている。おかあさんは、みだれる髪をおさえて、風にむかって歩き出す。おかあさんが肩にかけている買い物袋も、家のベランダの洗濯物も、強い風で大きくゆれる。玄関のドアを開けて、「うん、わかった」「いってらっしゃーい」といっているのは、小さな女の子ともっと小さな男の子だ。
ふたりは、姉弟なのだろうか。絵本のとびらを開けると、ふたりが、木が強風にふかれている庭の見えるサッシの前に向き合ってすわっている。――「ね、そとは あぶないから、うちの なかで あそぶよ」「うーん、じゃあ しりとり」「いいよ、わたしからね。はじめは……」
ページをめくると、「んぶん」。見開きの絵は、庭のほうから、サッシごしに、女の子と男の子を描いている。庭では、新聞紙が風に吹き上げられている。新聞は『尻取新聞』、第1面の大見出し「記録的暴風」も読める。
つぎの見開きは、「」―「りざ」―「」―「しめが」。どこかの家の洗濯物だろうか、庭には、白いシャツが吹きよせられるだけでなく、釣り竿もおうむも虫めがねも飛んでくる。しりとりのことばが風に吹かれてやってくるのだ。しりとりは、ことばの「音」のつながりで遊ぶもので、「意味」のつながりはない。だから、つぎつぎに、思いもよらないものが飛ばされてくる。

バクの好きなぼうし

「マンゴー・ナンデモデキルは、なんでもできる、かしこい女の子です。」――これは、ポリー・フェイバー『バクのバンバン、町にきた』の第一話「マンゴーのたいへんな一日」の書き出し。マンゴーは、この第一話で、町に迷い込んできた、ちょっと気弱なバクに出会い、家につれてくる。バクの名前は、バンバンだ。
水が大好きなバンバンは、マンゴーといっしょに町のプールに行くのだが、係の人に「ぼうしなしで、プールに入ってはいけません!」といわれて、水泳帽をかぶる。(第二話「バンバン、プールにいく」)
バンバンがプールだけではなく、水泳帽も好きになったので、マンゴーとパパがいろいろなぼうしを貸してくれる。バンバンは、かぶるぼうしによって、ちがう気分になれた。マンゴーが学校からなかなか帰ってこない日、バンバンは、いさましい気分になれるぼうしをかぶるのだが……。(第三話「バンバンのぼうし」)
ところで、『プッチェットのぼうし』の男の子、プッチェットは、なくしたぼうしを取り戻すことができただろうか。

今月ご紹介した本

イタリアのむかしばなし
『プッチェットのぼうし』

中脇初枝 再話、アヤ井アキコ 絵
あすなろ書房、2023年
プッチェットのぼうしは、ニット帽なのか、布製か。全体は茶色だが、前のほうは白地に赤や緑、黄色の刺繡がしてある。赤い毛糸のボンボンのついた、ずいぶんきれいなぼうしだ。

『かぜがつよいひ』
昼田弥子作、シゲリカツヒコ絵
くもん出版、2023年
絵本にはさみこまれている4ページのパンフレット『絵本のたから箱』の1ページには、作者のことば「風が運んでくるもの」が掲載されている。――「子どもの頃、ビュービューと風が強い日は、みょうに気持ちがそわそわしていました。この風が自分の知らない不思議なことを運んでくるんじゃないかと、心のどこかで期待していたように思います。……」
2~3ページは、絵本に出てきた『尻取新聞』の紙面だ。「思わぬ飛来物 けが人なし」とあって、暴風の尻取市内のことが報道されている。
さて、買い物に出かけたおかあさんは、風のなかを帰ってくることができただろうか。

ふたりはなかよし マンゴーとバンバン
『バクのバンバン、町にきた』

ポリー・フェイバー 作、クララ・ヴリアミー 絵、松波佐知子 訳
徳間書店、2016年
イギリスの作家、画家のコンビの作品。おしまいの第四話は「マンゴーの発表会」。あすの「まちのビッグコンサート」で、マンゴーは、クラリネットを吹くことになっている。緊張しているマンゴーに、「ぼく、おてつだいできると思う」といってくれたのがバンバンだ。
続編に『バクのバンバン、船にのる』(2017年)がある。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

関連リンク

おすすめ記事

絵姿のゆくえ絵姿のゆくえ

親と子の本棚

絵姿のゆくえ

家出と留守番家出と留守番

親と子の本棚

家出と留守番

落語と昔話落語と昔話

親と子の本棚

落語と昔話


Back to TOP

Back to
TOP