親と子の本棚

水をもとめて

子どもには本好きになってほしいけれど、どう選べばよいかわからない……。そんなときはこちらの「本棚」を参考にされてみてはいかがでしょうか。

村に水を引く

『どうぶつみずそうどう』より

「むかしっから いきものの くらしには みずが ひつようじゃ。」――かじりみな子の絵本『どうぶつみずそうどう』のとびらには、こう記されている。
だるまがえるのとうきちは、家族みんなで米を作って暮らしている。これも、用水路のおかげだ。なまずのたいしょうや、いしがめのがんじいと手を組んで、川からたんぼに水を引く用水路を作ったのだ。用水路ができて、住みやすくなったから、引っ越してくるものがふえて、新しい村も生まれた。

そんな あるひのこと、しんざんものの いたちむらの おりょうが、かにむらの もくずに はなしを もちかけた。
「ねえ、あたしたちの むらにも、みずを ひきたいよねえ」
「ああ ひきてえ! いちいち はこんじゃ いられねえよ」
「あたしに いいかんがえが あるんだ。ごにょ ごにょ ごにょ……」

ある朝、とうきちが、たんぼに出てみると、水が来ていない。――「んげげ! ひからびちまって、どうしたこったい」がんじいも、あわててやって来て、いしがめむらにも水が来なくなったという。用水路をしらべると、途中でせき止められて、流れを変えられ、かえるむらや、いしがめむらには水が来ないようになっていた。――「これは だれの しわざじゃ?」

砂漠で生きのびる

赤い 土の さばくが、どこまでも つづいています。空には 雲ひとつ なく、太陽が じりじりと てりつけています。

オーストラリアが舞台の絵本、松井孝爾『さばくのカエル』の書き出しだ。
この乾いた大陸にも、まれに雨がふる。砂漠のあちこちに水たまりができ、草や木が急に生き生きしはじめる。すると、赤い土のなかから、たくさんのカエルがはい出してくる。ミズタメガエルだ。雨を待ちわびていたトカゲもバッタもすがたを現す。
長いあいだ土のなかにいて、お腹がすいているカエルは、バッタやゴミムシ、シロアリなどをつぎつぎに食べる。メスのミズタメガエルは、水たまりに、たまごを産む。強い日ざしがもどってくるが、水が干上がってしまう前に、たまごは、オタマジャクシになり、10日から15日くらいでカエルになる(日本にすむカエルは、30日から40日かかるという)。
ミズタメガエルは、水のある場所に行って、からだに十分水をため、また土にもぐる準備をする。土のなかには、しめったところがあって、そこで、つぎの雨を待つのだ。

夜の三人きょうだい

『どうぶつみずそうどう』はたんぼの水争いの話だけれど、カレン・ヘスとウェンディ・ワトソンの絵本『じゃがいも畑』の三人きょうだいは、じゃがいもどろぼうだ。母さんが夜勤の仕事に出かけたあと、姉さんのメイベルは、弟のジャックとエディにこういう。

「母さんは働きづめなんだから」と、メイベルは言った。
「母さんの手助けをするのよ。
ケニーさんとこの畑からあたしたちがとらなかったとしたらさ、じゃがいもはきっとくさっちゃうんだから。うん、絶対そう。それって、すごくもったいないことだわ。でしょう、エディ?」

メイベルは、何日も、ケニーさんの畑の取り入れのようすを観察していた。収穫し残しのじゃがいもを取りに行くのは、まさに、その晩だった。3人は、畑にしのびこみ、暗いなかで、じゃがいもをさがす。たくさん収穫した。
ところが、家にもどってみると、持ち帰ったふくろの中のほとんどは、石ころだった。ジャックは、台所の床にすわりこんでしまう。――「これ、じゃがいもなんかじゃないんだ、メイベル。石ころだよ! ぼくら、石ころを収穫したんだぜ!」

今月ご紹介した本

『どうぶつみずそうどう』
かじりみな子
偕成社、2023年
とうきちたちは、どの村にも水が行くように、用水路を作り変える。だが、さらに村がふえ、日照りもつづいて、また水が足りなくなる。とうきちが、みんなに損得なく水を分ける仕組みを思いつき、動物たちは、力をあわせて、その円いしかけを作り上げる。絵本の奥付のページにある説明では、そのしかけは「円筒分水」「円形分水」といわれるもので、大正時代に発明され、昭和のはじめから使われたという。全国に200か所くらいある。

『さばくのカエル』
松井孝爾ぶん・え
新日本出版社、1993年
本文より。――「オーストラリアでは、長いあいだに陸地がかわいてゆき、川やみずうみが、どんどんなくなっていきました。/カエルは、あまりとおくへうごけないため、さばくにとりのこされ、そこですむしかありませんでした。いまいきている10しゅるいほどのカエルは、きびしいかんきょうにたえられるように、かわってきたのです。」

『じゃがいも畑』
カレン・ヘス 文、ウェンディ・ワトソン 絵、石井睦美 訳
光村教育図書、2011年
帰ってきた母さんは、三人きょうだいのやったことを全然喜ばず、取ってきたものをケニーさんに返してくるようにという。3人の話を聞いたケニーさんは……。
この本は、現在、手に入らない。図書館でさがしてください。

プロフィール

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)

1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。日本児童文学学会会長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

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