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「北欧モデル」から学ぶ、新時代の学力をはぐくむためのヒント(2)

対話と経験をとおした創造性の育成

――では、フィンランドの小学校ではどのような授業が行われているのでしょうか。

フィンランドでは7歳で小学校に入学します。先生が教壇に立ち、子どもたちは皆前を向いて整然と座っているという授業風景は日本とあまり変わりません。

ただ違うのは、子どもたちに「なぜ?」「どうしてそう考えたの?」と頻繁に問いかける点です。「どう感じた?」「それはどうして?」と、思考のプロセスを言語化させる実践が日本に比べると多いように思います。

また、調べ学習やグループワークの時間が日本よりも多いことも特長です。フィンランド人は、静かで忍耐強いという国民性があって、スウェーデンやノルウェーの人々と比べると、ディスカッションがあまり得意ではないようです。だからこそ意識して対話力を磨くのかもしれません。たとえば「渡り鳥」というテーマがあったら、数人ずつのグループに分かれて話し合い、自分たちは「渡り鳥」の何を調べるのか課題を決めるところから始めます。それぞれが違う観点から探究してまとめ、発表する。そうしたアクティブラーニングの機会が多いのです。

――そのほか、日本との違いはどこにありますか。

創造力や発想力を重視している点です。たとえば作文一つをとっても、日本ですと、事実に基づいたものを書かせることが多いと思いますが、フィンランドでは幼い時期からフィクションの物語をつくったりなど、イマジネーションを膨らませるような授業が行われています。以前見学した英語の授業では、詩を書く場面もありました。

また、これは北欧諸国の伝統でもありますが、手を使う工作というのを非常に大事にしていて、木工や編み物の授業もあります。フィンランドでは「アートこそが創造性をはぐくむ」という考え方があるんですね。ですので、木工などのもの作りも、北欧デザインにつながる創造性の基礎となる大切な学びだと捉えているのです。各地域の美術館や博物館では子ども向けのプログラムも充実していて、身近なところで創造性をはぐくむ機会にめぐまれているように思います。

そのほか、野外活動が重視されていることも特長的です。マイナス18度以上の場合は、外に出るといった校則も存在するほどです。教科学習のなかでも野外学習は重視されていて、算数の授業で外に出て木の幹の長さを図ってみたり、理科の授業で鳥を観察したり、外での学びというものが大切にされているように感じます。こうした実体験によっても創造性やコミュニケーション能力などがはぐくまれていくようです。

これから必要となる力を、親子のかかわりのなかではぐくむ

――北欧の教育実践を参考に、日本のわたしたちが家庭で実践できることは何でしょうか。

多彩な経験をするという意味では、自然体験をするのはよい方法ですね。できれば家族以外の方とも一緒に、キャンプや野外遊び、もの作りなど創造性をはぐくむ活動の機会をもたせることはいいと思います。アウトドアが苦手な場合は、地域のイベントに参加するのもいいでしょう。さまざまな人と触れ合うことは多様性を知ることにつながりますから、意識的に機会を増やしてあげたいものです。

また、本を読むことも大切だと思います。北欧は冬が長く、児童文学も充実しているためか、小さいころから読書習慣がついている子どもが多くいます。読書をすごく大事にしているんですね。

読書の際にも、ぜひ感想を話し合うことをおすすめします。「どう思った?」「どうしてそう思った?」と。先ほどフィンランドの小学校では自分の考えを言葉にすることが多いと述べましたが、これは家庭のなかでも同様なんですね。読書に限らず、映画や演劇を観たとき、美術館に行ったとき、あるいはテレビ番組を見たときなど、多くの場面において問いかけというかたちで子どもに働きかけ、その発言をしっかりと受け止めて、会話を楽しんでいます。日本のわたしたちも、和気あいあいとした雰囲気のなかで、そういった機会をもてるようにしたいですね。

――家庭での対話が重要なのですね。

新しい学習指導要領では、すべての教科において「主体的・対話的で深い学び」が重視されています。基礎学力は変わらず必要なのでもちろん軽視してはいけないのですが、基礎学力を身につけたうえでのプラスアルファの部分がこれからは重要になります。単に知識をインプットするだけの学力ではなく、学び続けようとする素養や意欲の部分ですね。具体的には、グループのなかでほかの人の意見を聞きながら、自分の考えをしっかりとまとめていくことや、多様な人と接するなかで自分の感情をコントロールする、などといったことも含まれます。

そうなると、家庭教育はますます大事になってきます。たとえば、家庭のなかでしっかりと対話をしていないと、学校でいきなり「ディスカッションをしましょう」と言われても、なかなか難しいものです。これからの社会で必要とされる力は、ご家庭での対話によって育成できる余地が大きいと思います。お子さまが考えたことを言葉にする機会を意識的にもたせてあげることは重要です。ぜひ親子でいろいろな経験を共有し、対話を充実させてほしいと思います。

――ありがとうございました。

プロフィール

澤野 由紀子(さわの・ゆきこ)

聖心女子大学文学部教育学科教授。日本生涯教育学会長も兼任。専門は比較教育学、生涯学習論。とくに北欧をはじめとするヨーロッパの生涯学習政策に詳しく、グローバルな視点から日本の教育課題に対する提言を行っている。著書に『揺れる世界の学力マップ』(共編著/明石書店)、『世界の学校』(共著/学事出版)などがある。

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