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「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

小学3年生から学習が始まる理科。学習を通じて、身のまわりの自然科学についての知識だけでなく、物事を科学的に見る態度なども身につく教科です。子どもが理科を学ぶことを楽しみ、科学への関心をもち続けたり、科学的なものの見方を身につけたりするために、保護者はどのようなことを心がけたらよいのでしょうか。科学ジャーナリストの瀧澤美奈子さんにお話を伺いました。

目次

科学のここがおもしろい!

———瀧澤さんは、科学のおもしろさはどんなところにあるとお考えですか?

科学のおもしろさには、大きく3つあると私は思っています。

1つめは、心の中に「不思議だな」や「なんだろう?」という「はてなマーク」が生じたときのワクワク感と、それについて考えたり調べたりしていくうちに「わかった!」「そういうことか!」と「びっくりマーク」に変わる瞬間のアハ体験。これらの感覚を得られることが、科学のおもしろさの1つだと思います。

未知の物事・現象を目にしたときに「なんだろう?」と感じ、それを知りたいと思う知的好奇心は、本来誰もが生まれながらにもっているものです。「?」が「!」に変わると、これまで知っていたことと、考える過程で得た知識を一緒にして世界を眺められるようになります。そうしてまわりを見渡すと、世界が今までとはまた違った見え方をして、改めて「世界はすごいな、美しいな」といった感覚が生まれるんです。これってとても楽しいことだと思います。

———瀧澤さんご自身も、そのような体験をされたことはありますか?

子どもの頃の体験で、大人になった今でも強く印象に残っているものもありますよ。

私が子どものころ、父が運転する小さな幌付きトラックの荷台の中に入れてもらったことがありました。そのとき、荷台の運転席側に、外の景色が逆さまになって映っていて、トラックが動くと映った逆さまの景色も一緒に動いていたんです。それを見て「なんだこれは!!何の仕掛けもないのに!」と子ども心に本当にびっくりしました。これ、実は幌にごく小さな穴が空いていたようで、ピンホールカメラの原理で外の風景が映っていたんですね。今でこそ「光の性質によるものである」と、理由や原理がわかるのですが、これを目の当たりにした当時は予備知識などがまったくない状態だったので、「これはなんだろう? 私が知らない自然の仕組みかあるに違いない、それを知りたい!」と、とても好奇心がかき立てられました。

子どもの頃は、知識がない故の驚きや発見がありますよね。理由を知りたいけれど、わからないところがまたおもしろいといった、魔法のような楽しさがありました。

———すてきなご経験ですね。では、2つめのおもしろさというのは、どんなおもしろさでしょうか?

2つめは、地球・宇宙といった世界の広がりを意識したときに「自分は今、広い宇宙のいったいどこにいるんだろう?」とか、「自分はなぜここにいて、何者なんだろう?」といった根源的な問いに、科学は答えてくれようとすることです。

これらの問いはすべて、私が子どものころ、「地球が太陽系の第三惑星であること」や「太陽系は銀河の一部であること」を初めて知ったときに、星空を見上げて思ったことなのですが、科学はこういった問いも解き明かそうとしているんですね。

というのは、17世紀ごろ、それまでは宗教がすべてだったところから、自然科学が哲学として頼りにされるようになりました。ガリレオやニュートンの時代です。敬虔なキリスト教徒だった彼らは、創造主の意図を探るためには、「真実の自然の姿とはどうなっているのか?」という問いに答えなければならないと考えました。それには、ものごとを観察したり実験したりすることで、その問いに対する一番確からしい答えにたどり着くだろうと考えたところから、科学が始まりました。

それは現在も続いていて、たとえば宇宙論であれば、今現在も宇宙ができたばかりのころの様子を知るために最新鋭の望遠鏡で宇宙を観察・観測し、どのようにして宇宙が始まり、「今」があるのかということを学者たちが解き明かそうとしています。

このように、私たちの根源的な問いに答えてくれるのが、科学のもう一つのおもしろさかなと思います。

———なるほど。科学史を知ることも、2つめのおもしろさをより深めてくれそうですね。では、3つめのおもしろさは何でしょうか?

3つめは、科学は私たちの未来を作っていく上での大きな武器になることです。これは、科学そのものというよりは、科学が間接的に影響している、と言った方が近いかもしれませんけれど。

わかりやすい例で言えば、地球温暖化の問題が挙げられます。学者たちが大気中の二酸化炭素の濃度を何十年も計測して、「どうも濃度が上がっていっている、気温や海水温の上昇の原因はここにあるのではないか」ということを突き止めました。そして、スーパーコンピュータによるシミュレーションなどによって、実際の観測データや計算を統合し、もう一つの地球を仮想的に作り、さまざまな条件を入れることで何十年後の地球の姿も予測できるようになりました。これらの科学的データををもとに、世界各国で気候変動の危機的な状況が共有されて、よりよい未来をつくるためには私たちはどうしていけばよいのか、解決策についての議論が進んでいますよね。

———たくさん科学者たちの努力が課題解決につながっていっている、というのも科学のおもしろさの一つですね。そういった科学のおもしろさへの入り口の一つに、小学校の理科があると思います。保護者は、小学校の理科をどのような教科だととらえておくとよいでしょうか?

小学生は、好奇心の土壌になるような豊かな感性や、科学的なものに気づく感受性を育てる時期にいると思いますので、理科の学習も、そういった感性や感受性を育てる機会になるのではないでしょうか。

子どもたちにとって、初めて見るものや触れるものは、すべて驚きです。小学校での理科学習を通して、子どもたちが何かに気づいたり、心が動かされたとき、保護者の皆さんはその気持ちに寄り添い、同じ目線に立って一緒に感動したり驚いたりできるといいのかなと思います。

次ページに続く 子どもと科学を楽しむために、家庭内でどんなことができる?

プロフィール

瀧澤 美奈子(たきざわ・みなこ)

東京理科大学理工学部物理学科卒業後、お茶の水女子大学理学研究科物理学専攻修了・修士。天文学を学んだ。大学を離れてから科学と社会とのかかわりに関心をもち、科学ジャーナリストに。科学のおもしろさを豊かな文化として多くの人に紹介し、科学を知っていただくことを通して社会に貢献したいと考えている。単行本の執筆のほか講演も行う。慶應義塾大学理工学研究科で非常勤講師としてサイエンスライティングの授業を担当。日本科学技術ジャーナリスト会議副会長。内閣府、農林水産省、文部科学省などの審議会・懇談会委員も務めている。
おもな著書に『150年前の科学誌NATUREには何が書かれていたのか』(ベレ出版)、『日本の深海』(講談社)、『アストロバイオロジーとは何か』(ソフトバンク・クリエイティブ)、『地球温暖化後の社会』(文藝春秋)、『植物は感じて生きている』(化学同人)など。

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