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「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(2)

子どもと科学を楽しむために、家庭内でどんなことができる?

———子どもの「なんだろう?」「どういうことだろう?」といった疑問に保護者はどの程度答えられるといいのか?と悩まれる方もいらっしゃいます。この点についてはどう思われますか?

お子さんの性格にもよると思いますが、必ずしも保護者の方がお子さんの疑問に対して一から十まですべて答えたり、教えたりする必要はないのではないでしょうか。

たとえば、私は子どもの頃はあまのじゃくでして(笑)。何か疑問が生まれたときに、親に答えを与えられるととたんに興味を失ってしまうタイプでした。このような場合、親が答えや知識をあれこれ教えるのではなく、「なんでだろうね? お母さんも知りたいな」とお子さんの疑問に同調してあげる程度の方が、疑問に対する興味を持続させる上ではよいのではないかと思います。

他方で、大人の話を素直に聞いて、そこから自分で考えを発展させ、さらに問いを繰り返していくようなお子さんなら、少しヒントとなる情報をあげてもいいかもしれないですね。

———子どもが「これはなんだろう?」「これはすごい!」と心を動かされる経験をするために、家庭でできることは何かありますか?

「家庭内で特別な経験をさせなくては」と身構えてなくても、虫めがねを一つ持って、一緒に自然散策をするのでも十分な気がします。身のまわりにある自然には、科学という原理や現象があるだけでなく、必ず生命も存在しますよね。たとえば、公園の苔むしたところに行って虫めがねで観察してみると、ふだん歩いているだけでは見えなかった生物がたくさん見えてきます。それを見つけて観察するだけで、たくさんの発見や驚きはあると思うのです。

また、磯遊びもたくさんの発見があっていいと思います。干潮時の海辺や、干潟、岩場などには、本当にたくさんの生物がいます。保護者の皆さんも「この生き物は見たことがない!」「潮の満ち引きは不思議だな」と改めて自然科学に対する驚きや発見があり、お子さんと一緒に夢中になれると思います。

———さまざまな生物に出会ったり、現象を目にしたりすることで心が動き、「ほかにどんな生き物がいるんだろう?」「なぜここにいるんだろう?」といった疑問に発展していくということですね。

そうですね。そうした疑問が生まれた際、調べることへの障壁も、昔よりずっと低くなっています。たとえば生き物の名前を知りたいとき、撮影した生き物の写真を使ってインターネット検索ができます。そういったものを利用すると、お子さん一人でも同定がしやすいと思います。そうして、写真から種の名前がわかり、名前から生態がわかり、生態から分布がわかり……と自分で調べていくと、どんどんのめりこんでいけるのではないでしょうか。

また、自然の中を散策することで、「動植物の営みは私たちが暮らす人工物に囲まれた世界のすぐ隣にあるけれど、自然には自然の営みがあるんだ」ということを知る楽しみもあると思います。「自分たちのくらし」だけでなく「虫めがねでしか見えない虫のくらし」「海の小動物のくらし」と大小さまざまな世界がある……子どもにとって、もっと立体的に深くものごとを見られる感性につながると思います。

この先も、科学への興味・関心をもち続けるには

———小学生のときは理科が好きでも、中学生以降、だんだんとその気持ちを失っていく子どもがいることが、国際調査でわかっています(※)。理科や科学の事象について、子どもがワクワクする気持ちや「なんでだろう?」と疑問をもち続けることを、保護者の方はどのようにサポートしていくといいのでしょうか?
※国際数学・理科教育調査TIMSS(TIMSS2019)によると、「理科の勉強は楽しい」と答えた日本の児童・生徒の割合は、小学校では92%、中学校では70%、「理科は得意だ」と答えた日本の児童・生徒の割合は、小学校では86%、中学校では47%だった。

難しい課題ではありますが、一つ、手として考えられるのは、「まだここがわかっていない」といった情報にお子さんが触れられるようにするということです。すると、「大人でも知らないこと・わかっていないことがあるんだ!いつか自分が解き明かしてみたい!」と思うお子さんもいると思います。研究者も挑戦しているような未解明のことについて、わかりやすく話してもらえる機会を見つけていけるといいかもしれませんね。

———「調べてみたい」「探究してみたい」といった気持ちを呼び起こせるといいですね。

そうですね。逆に、「わからないんだ。ふーん」で終わった場合は、その分野については関心がないということなので、素通りしていいんだと思います。

でも、なにか一つでも、興味がある・解き明かしたいというテーマが見つかれば、それをじっくり調べてみると、その子が成長してからも、宝物のような経験になると思います。

次ページに続く 科学的なものの見方をどう身につける?

プロフィール

瀧澤 美奈子(たきざわ・みなこ)

東京理科大学理工学部物理学科卒業後、お茶の水女子大学理学研究科物理学専攻修了・修士。天文学を学んだ。大学を離れてから科学と社会とのかかわりに関心をもち、科学ジャーナリストに。科学のおもしろさを豊かな文化として多くの人に紹介し、科学を知っていただくことを通して社会に貢献したいと考えている。単行本の執筆のほか講演も行う。慶應義塾大学理工学研究科で非常勤講師としてサイエンスライティングの授業を担当。日本科学技術ジャーナリスト会議副会長。内閣府、農林水産省、文部科学省などの審議会・懇談会委員も務めている。
おもな著書に『150年前の科学誌NATUREには何が書かれていたのか』(ベレ出版)、『日本の深海』(講談社)、『アストロバイオロジーとは何か』(ソフトバンク・クリエイティブ)、『地球温暖化後の社会』(文藝春秋)、『植物は感じて生きている』(化学同人)など。

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