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「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(3)

科学的なものの見方をどう身につける?

———日々の生活において、科学的な知識をもって情報の真偽を判断することが必要な場面は多々ありますね。たとえば新型コロナウイルス対策などは、その顕著な例だったように思います。

そうですね。誰かが「正しい」「安全だ」と言っている情報についても、きちんと科学的な裏付けをもった人が発信しているかどうかといったレベルでの情報の見分けができるといいのではないかと思います。これは情報の真偽を見分ける力、すなわち情報リテラシーの領域ですね。

さらにいえば、「科学の確からしさはどのように確かめられているのか」という仕組みをある程度知っていることも、情報を判断する上で有意義だと思います。

たとえば、先ほどもお話しした地球温暖化についても、原因は何か、実はさまざまな議論があります。それでも、国際的にも国内的にも、どうも二酸化炭素が真犯人らしいとされているのは、世界中の何千、何万のピアレビュー、すなわち、専門家同士の高度な査読や検証論文がその事実を支えているからなんですよね。それに対して、二酸化炭素は原因ではないという言説は、根拠が極めて脆弱です。

科学というのは、このように、「どうしてそれが正しいと言えるのか」を、世界中の科学者がさまざまな観点から検証し、データを積み重ねてきた学問なのです。

———なるほど。そうした仕組みを知っておくことも、情報の真偽を見きわめる力につながりますね。ほかに、子どもたちが判断力を身につけていくためにできることはあるでしょうか。

仮説を立てて調べ、考察し、その考察をもとにさらに新しい仮説を立てて……という繰り返しで真理に近づいていくというのが、ガリレオの時代くらいから発達してきた科学的方法論です。この科学的方法論を意識して、何か情報を得たときにも「それが正しいなら、この条件ではこのような結果になるはずだ」などと仮説を立て、それを検証する手段を考えてみるといいですね。

その際、感情を優先して考えるのではなく、なるべく目の前で起こっている現象の理屈を考えることが重要です。そうしたものの見方ができるようになっておくと、この先、未知の感染症などが発見されたときなどにも、正しく怖がること、対策することができるようになると思います。

「感じる心」を大切に

———では改めて、子どもが科学に関心をもち続けるために、保護者はどのように子どもを支えていくといいでしょうか?

やはり、お子さんの心が動くような経験を重ね、それを保護者の方も一緒に楽しむことが一番ではないでしょうか。

私の好きな本に、海洋生物学者、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』という本があります。カーソンが、5歳の甥っ子を森に連れて行って自然散策をしたときの情景や、その時の甥っ子の反応を綴った本で、いかにして自然科学的な感性を伸ばすかについてヒントになることが書かれています。

その中に、「『知る』ことは、『感じる』ことの半分も重要ではない」という言葉が出てきます。その意図として、「未知のものに触れたとき、感激や驚嘆といったさまざまな感情がひとたび呼び覚まされると、次は対象についてもっと知りたいと思うようになる。そうして見つけ出した知識はしっかりと身につく」という趣旨のことをカーソンは記しています。

この言葉からも、やはり、「心が動く」ということが一番大事なんじゃないかと思います。保護者の方々としては、たとえば、「わあ、すごい!」「自然って不思議!」といった感情が喚起されるところにお子さんを連れて行って、保護者の方も一緒に「すごくきれいだね」とか「なんでだろう? 不思議だね」などと共感してあげる。すると子どもは、「お母さんも、お父さんも、自分と同じ気持ちなんだ!今目の前で起こっていること、目の前にあるものの正体は、一体何なんだろう?」とその先が知りたくなってきます。ですので、保護者の方ができるはたらきかけとしては、いかにして子どものたちの情動を呼び覚ましてあげるか、また、感性を刺激してあげるかが大事だと思います。あるいは、そのときに、少し会話をしてヒントを出せば、子どもたちは自然と知識を求めていくと思います。

プロフィール

瀧澤 美奈子(たきざわ・みなこ)

東京理科大学理工学部物理学科卒業後、お茶の水女子大学理学研究科物理学専攻修了・修士。天文学を学んだ。大学を離れてから科学と社会とのかかわりに関心をもち、科学ジャーナリストに。科学のおもしろさを豊かな文化として多くの人に紹介し、科学を知っていただくことを通して社会に貢献したいと考えている。単行本の執筆のほか講演も行う。慶應義塾大学理工学研究科で非常勤講師としてサイエンスライティングの授業を担当。日本科学技術ジャーナリスト会議副会長。内閣府、農林水産省、文部科学省などの審議会・懇談会委員も務めている。
おもな著書に『150年前の科学誌NATUREには何が書かれていたのか』(ベレ出版)、『日本の深海』(講談社)、『アストロバイオロジーとは何か』(ソフトバンク・クリエイティブ)、『地球温暖化後の社会』(文藝春秋)、『植物は感じて生きている』(化学同人)など。

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