特集

苦手でも楽しめる!子どもの運動能力を高めるポイント(3)

運動は、健康な体をつくるための基礎となる活動だと言われています。ただ、お子さま自身が苦手意識を抱いていると、なかなかやる気になりづらいもの。そこで、運動に苦手意識をもつお子さまへの寄り添い方や、日常生活のなかでもできる「動ける体」のつくり方などについて、東京学芸大学で体育の授業研究に取り組まれている鈴木聡先生にアドバイスをいただきました。
取材・文=浅田 夕香

 

子どもの運動能力を伸ばすために、保護者ができること

――子どもが運動に苦手意識を持っていたり、実際にうまく体が動かせなかったりする場合もあると思います。そのようなときは、どんなことから始めるとよいでしょうか?

何を目指して取り組むかは、お子さまの状況や気持ちによるので、「ここを目指してほしい」といった到達点や「運動能力を上げる特効薬はこの活動」といった正解はありません。

その前提で例を挙げるとすると、そもそも運動することに乗り気でないお子さまであれば、まずは散歩にでかけるなど、屋外に出る機会をつくることが大事でしょう。また、苦手意識をもっているお子さまであれば、今もっている力でできることを楽しむことも大事です。ゲームなどと同じで、自分ができる範囲で楽しんでいると、そのうちに充足されて物足りなくなり、「次のステージに行きたい」「もう少し頑張りたい」といった意欲が出てきます。その循環をうまくつくってあげることが大事かなと思います。保護者の方が無理やりさせるのではなく、本人が主体的にやってこそ身になるものですから。

――その循環をうまくつくるには、保護者の方はお子さまにどのようにかかわっていくのがよいでしょうか?

一番大切なことは一緒に楽しむことですね。一緒に散歩に出かけるのでも、公園に出かけるのでも構いません。何かをさせるというよりも、一緒に楽しむ。もちろん、一輪車でも鉄棒でも、公園でお子さまが何かに挑戦してできたときは、瞬時に褒めたり、一緒に喜んだりしましょう。また、できないときには一緒に悔しがる。ささいなことでも、一緒に楽しむことが大切です。ですから、公園に連れて行ったけれど、子どもに注目せずに親はスマートフォンを見ている、などというのはやめてくださいね。

もう一つ、避けてほしいのは、「うちの子をなんとかしなきゃ」と思うことです。それではタスクになってしまって、「楽しむ」ということができません。まずは親子で一緒に楽しんで、「体を動かすことって楽しいよね」「価値のあることだよね」と感じられるようになっていただきたいですね。体を動かすことによる「快」を知ることってすごく大事で、その気持ちよさがあるからこそストレスも発散されるし、継続して取り組めるのだと思います。

――保護者の方自身に苦手意識がある場合はどうすればよいでしょうか?

できる/できないという考えは置いておいて、体を動かす楽しさや気持ちよさをお子さまと一緒に感じることを大事にしましょう。少しジャンプするだけでも、爽快感ってあるものです。テーマパークを1日歩き回るのも運動だと考えたって構いません。そうしてお子さまと一緒に「体を動かすって気持ちいいね」と感じてもらえるといいなと思います。

 

体の動きに関する知識を得れば、運動がもっと楽しくなる

――高学年など、成長が進んでからでも運動能力を高めることはできますか?

もちろんです。運動を始めるのに遅すぎるという時期や年齢はありません。先ほど、神経系の器官・機能の発達は9歳ごろまでに完成すると申し上げましたが、そうはいっても、健常なお子さまであれば、日常生活を過ごしていて、まったく運動しないまま高学年になることはありません。下地はつくられていますから、時間はかかりますが、できるようになります。実際、私が大学で教えている学生の中にも、大学の授業で生まれて初めて側転ができるようになった学生が何人もいます。

学年が上がってから運動を始める際のポイントは、その運動に必要な技術を、適切な手順で、スモールステップで教わること。きちんと教えてもらえる教室に行くのも一つの手ですが、今は、インターネットに丁寧に教えてくれる動画が複数ありますので、それらの中からお子さまに合ったものを探して活用するのもオススメです。

――何か技術的な助言をしたいと思ったときはどうするのがおすすめでしょうか?

例えば、高くジャンプするには、膝のバネだけで跳ぼうとせず、腕を振ってその推進力で跳ぶとより高く跳べます。縄跳びの後ろ跳びをするときのように、腕を前方にぐっと引き上げるイメージです。また、より速く走るには、腕を横に振るのではなく、脇を閉めて前後に振るなど。あるいは、ブランコの立ちこぎは、適切なタイミングで膝でぐーっと踏み込むことで高くこげるなど、遊びにも、運動にも技術が必要です。

このように、「体のどこをどう動かせば、体がどう動くのか」ということを書籍やインターネット上の動画などを使って情報収集するとよいでしょう。その上でお子さまに情報提供していけると、より動ける体が作られていくと思います。ポイントは、得た情報をまずは保護者の方が、自分の体を動かして確かめてみること。保護者の方自身が納得できると、説得力をもってお子さまに伝えられますし、もっといろんな知識を得て、子どもに伝えたい!という意欲も生まれてくるのではないでしょうか。

――ありがとうございました。最後に、保護者の皆さまへのメッセージをお願いします。

この特集の主旨からそれてしまうかもしれませんが、運動やスポーツは「する」ばかりがすべではありません。「する」以外にも、「見る」「支える」「知る」というかかわり方もできます。実際、2020年からの学習指導要領では、この4つの観点でスポーツとのかかわりを教えていくことになっています。例えば、バスケットボールの授業で、バスケにはゲーム分析をしたり、チーム戦術を考えたりといったかかわりかたもできることを教えるなど。

したがって、どうにもこうにも「する」のは好きじゃない、というお子さまの場合は、「見る」「支える」「知る」といったかかわり方から入るというアプローチもあると思います。そうしてスポーツの面白さを知れば、最終的には「自分もやってみようかな」となる場合だってあります。先述したとおり、運動やスポーツは内発的な動機から主体的に取り組まないと身が入りませんから、まずは楽しむことや「快」を知ることから始めましょう。

プロフィール

鈴木 聡(すずき・さとし)

東京学芸大学 教育学部 芸術・スポーツ科学系 健康・スポーツ科学講座 体育科教育学分野准教授。博士(教育学)。東京都世田谷区立玉堤小学校、東京学芸大学附属世田谷小学校勤務を経て、2012年より現職。専門は、体育科教育学、教育心理学、学校教育学。平成28・29年度スポーツ庁全国体力・運動能力、運動習慣等調査に関するワーキンググループ委員や、都内各地の小学校の研究発表会の講師なども務める。

関連リンク

おすすめ記事

スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)

特集

スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)

「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

特集

「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)子どもの思春期を上手に迎えるために(1)

特集

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)


Back to TOP

Back to
TOP