特集

苦手でも楽しめる!子どもの運動能力を高めるポイント(1)

運動は、健康な体をつくるための基礎となる活動だと言われています。ただ、お子さま自身が苦手意識を抱いていると、なかなかやる気になりづらいもの。そこで、運動に苦手意識をもつお子さまへの寄り添い方や、日常生活のなかでもできる「動ける体」のつくり方などについて、東京学芸大学で体育の授業研究に取り組まれている鈴木聡先生にアドバイスをいただきました。
取材・文=浅田 夕香

目次

 

子どもの運動能力の現状は?

――小学生の運動能力の現状について、どのようにとらえていらっしゃいますか?

統計的な面でいうと、文部科学省とスポーツ庁が毎年実施している「体力・運動調査」、いわゆる体力テストの結果を見る限りは、最も数値の高かった1975年生まれ(現在43歳)の代に比べると低い、というのが現状です。よく言われていることですが、「時間」「空間」「仲間」の3つが減少したことが大きいでしょう。習いごとなどに時間をとられて体を動かす時間が減った、公園などの遊ぶ場所が減った、安全面を考慮すると子どもたちだけで遊ばせづらくなった、ということです。

ですが、長年課題となっていた「体力テストの平均値の低下」に関しては、直近の約20年間で緩やかに向上しています。それは喜ばしいことだととらえています。

――なるほど。では、運動能力に関してそれほど心配はしなくてよいのでしょうか。

ただ、一人ひとりの子どもたちを見ていくと、幼いころから特定のスポーツに取り組んでいる子どものなかで、そのスポーツ以外の遊びや運動を好まない子が増えてきているように思える点は気になります。例えば、以前、小学校の教員をしていたとき、サッカーを習っていて、始業前も昼休みも放課後もサッカーをして遊んでいる1年生の子どもたちがいたのですが、その子たちに体育の時間に「マット運動をやろう」とうながしても「できない」「やったことがない」と嫌がられることがありました。今、都内の小学校の授業研究会に講師として招かれることがありますが、やはり、特定の動きには秀でているけれどそれ以外はぎこちない、という子どもたちを目にします。

就学前から小学校にかけては、多様な動きをして体のさまざまな部位を動かすことで「動ける体」をつくることが、運動をする上でも、健康を維持する上でも重要です。特定のスポーツをすること自体は悪いことではありませんが、それ以外の遊びや運動にも幅広く取り組むことが大事だと思います。

 

「動ける体」をつくる重要性

――多様な運動に取り組み、「動ける体」をつくることが、小学生のうちは大事ということですが、その「動ける体」とはどういうものだと先生はお考えですか?

「動ける体」は、運動やスポーツを行う上での下地になるものです。人の体には、経験しないと技能として身につかない面があり、例えば、幼いころにたくさん転がった経験がある子どもは、小学校の体育でマット運動をするときにスムーズに体を動かせますが、そうではない子どもは、マットを前にして体が動かなくなることがあります。すると、マット運動が嫌いになり、嫌いになると遠ざけてやらなくなり、動けない体のまま育ってしまう、という悪循環が起こります。

また、体の内面の発達と体の動きはリンクしていて、脳に代表される、リズム感などをつかさどる神経系の器官・機能の発達は、9歳ごろまでに完成すると言われています。幼いころに自転車や一輪車に乗れるようになれば、長いブランクが空いても乗ることができるのも、この神経系の器官・機能の発達と関係しています。

したがって、小学生のときに多様な動きをたくさんして、動ける体をつくることが、これからさまざまな運動をしていく上で、とても大事になるのです。

また、動ける体がつくられていれば、現時点で運動が嫌いでも、将来、例えば学生期を終えてから何かスポーツにチャレンジしたいと思ったときに、スムーズに取り組めます。ところが、動ける体が育っていないと、なかなかうまくできず、「やっぱりスポーツは嫌だ」となってしまうのです。スポーツは文化の一つとして、我々の人生を豊かにしてくれるもの。将来、スポーツを楽しむ選択肢を子どもに残してあげたいですね。

――基本的な質問になりますが、そもそも、体を動かすことには、どのような効果があるのでしょうか。

大きく2つあると思います。1つは、体を動かすことで得られる達成感や、「できた」という喜びによって自信や自己効力感が生まれること。一度、できるようになっていく経験をすると、新しい動きや新しい運動に取り組むときも、「自分はできるようになるだろうな」とか「仲間と一緒にやっていけば多分うまくいくぞ」と思えるようになりますし、「こうすればうまくできるはず」という結果の予期もできるようになります。この好循環が生まれると、さまざまな場面で自信をもって物ごとに取り組むことができるようになるでしょう。

もう1つは、協調性が育まれることです。これは、チームで取り組む運動や遊びの場合ですが、作戦を考えたり、役割を決めたりと、仲間とのコミュニケーションをとるなかで培われるもので、実生活にも生きてくると思います。

また、スポーツをすることでストレスも発散できますし、体力の一要素である「防衛体力」、すなわち、免疫、温度調節、適応、ストレス抵抗力なども伸ばしていけるので、健康でいるためにも、体を動かすことにはぜひ取り組んでいってほしいと思います。

⇒次ページに続く 動ける体をつくる「多様な動き」とは

プロフィール

鈴木 聡(すずき・さとし)

東京学芸大学 教育学部 芸術・スポーツ科学系 健康・スポーツ科学講座 体育科教育学分野准教授。博士(教育学)。東京都世田谷区立玉堤小学校、東京学芸大学附属世田谷小学校勤務を経て、2012年より現職。専門は、体育科教育学、教育心理学、学校教育学。平成28・29年度スポーツ庁全国体力・運動能力、運動習慣等調査に関するワーキンググループ委員や、都内各地の小学校の研究発表会の講師なども務める。

関連リンク

おすすめ記事

スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)

特集

スッキリ片づけて新学年に! 「選ぶ」から始める子どもの片づけ力UP!(1)

「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

特集

「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう(1)

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)子どもの思春期を上手に迎えるために(1)

特集

子どもの思春期を上手に迎えるために(1)


Back to TOP

Back to
TOP