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学校でも、ご家庭でも! ICTで広がる学び(1)

小学校の教育現場にICTが広がっている―。
「苦手な話題……」と思われる方もいるかもしれません。「そもそもICTって何?」「スマホやゲームはできるだけ子どもに与えないようにしているのに、学校で使うということ?」など、戸惑う声も聞こえそうです。ICTによる学習支援の第一人者、森本康彦先生に、子どもたちの学びを深めるためのICTの活用についてうかがいました。

(取材・文 松田 慶子)

目次

  • 学校でのICT活用
  • ご家庭でも! 学びを深めるICTの活用法

学校でのICT活用

 

よりよい授業のためにICTを利用する

――そもそもICTとは何でしょうか。

Information and Communication Technology の略。パソコンや、iPadのようなタブレット端末、スマートフォンなどのコンピュータを使って、情報を活用したり相互のコミュニケーションをとったりする技術のことです。

最近では、情報活用能力の育成を目的にするのではなく、授業でアクティブ・ラーニング――学びの場で子どもが受動的になるのではなく、能動的に学ぶことができる学習方法――を実践するためにICTを利用しようという動きが広がっています。「ICTを使えるようになる」ことが目的ではなく、「よりよい授業のためにICTを利用する」というわけです。

 

――子どもにデジタル機器を使わせるのは必要最小限にしたいと考えているご家庭もあると思うのですが、これからはICTがどんどん学校で活用されるようになっていくのですね。

はい。ICTを授業に取り入れることで、「主体的・対話的で深い学び」、いわゆるアクティブ・ラーニングが非常にやりやすくなるんですよ。

2002年の指導要領改訂のころから、知識を暗記して終わるのではなく、得た知識を使って自ら考えることが必要だと言われるようになりました。さらにこの数年で、知識や学力といったものの捉え方が大きく変わったんですね。知識は与えられるものではなく、「あっ、わかった!」を繰り返して自ら獲得していくものだと考えられるようになったんです。

したがって、教師の役割も、教え込むことではなく「いかに気づかせるか」「いかに学びを支援していくか」に変わってきています。「あっ、わかった!」という子どもの気づきに対して、「いまわかったことは何?」「どうやったらできたの? 説明してみて?」「○○くんのやり方と君のやり方はどこが違うと思う?」などといった声かけをすることで子どもの考えを深めながら、授業をつくっていく。これがまさに、「対話的な学び」であり、アクティブ・ラーニングにつながります。

 

受身的に知識を頭に入れるのではなく、自分で考え、他者に説明し、他者の意見を聞いて考えを発展させ、答えを出していく。アクティブ・ラーニングは、子どもたちが主役になる学びともいえます。これを実現させるために、ICTは実に有効なんですよ。

 

ICTはアクティブ・ラーニングをより効果的にするための道具

――具体的には、どのようにICTを役立てているのでしょうか。

いちばんわかりやすいのが、タブレットの写真や動画を撮る機能です。

たとえば、体育の跳び箱の授業を例にしてお話ししましょう。アクティブ・ラーニングを実践する授業では、先生が模範を見せて「手をここにつくんだよ」と教えることはしません。子どもたちが跳び箱に挑戦する様子を動画に撮り、「動画を見て何か気づいたことはある?」と声をかけます。すると、子どもたちは跳べる子と跳べない子の動画を比較して「手をつく位置が違う!」などと気づいたことを話し合ったり、自分ができているかどうかを動画を見て確認したりすることができます。

先生の指示どおりのやり方で跳び箱を跳ぶのは、子どもたちにとって、答えを暗記することに近いですよね。しかしアクティブ・ラーニングでは、子どもたちの力で問題解決ができるんですよ。

 

――確かに、動画を使うだけで対話が生まれますね。

アクティブ・ラーニングにおける教師の役割は、問題の解き方をただ教えるのではなく、子どもたち自身に考えさせ、話し合いをさせること。子どもたちは活動をとおして、何かを発見したり、互いに説明を聞いて学び合いながら知識を獲得していきます。そのときタブレットが真ん中にあると、みんなで覗き込むので、自然に対話が生まれるんですね。考えた過程を写真に撮って電子黒板に大きく写すこともできるので、1つの考えをクラス全員で共有することも即座にできます。

 

――授業風景が大きく変わりますね。授業にICTを使うというと、パソコンなどの操作技術を学ぶ授業を想像してしまうのですが。

いってみれば、ICTは新しい文房具のようなもの。たとえば、鉛筆の代わりに、もっと便利なシャープペンシルを使っている人は多いですよね。それと同様に、ICTをより便利な道具として使いこなす時代が来たんだと考えてください。実際にICTの活用が進んでいる学校では、タブレットを使った学習が特別なものではなく、子どもたち自身が必要だと思ったときに自由にタブレットを使っていて、ICTが学習の中に溶け込んでいますよ。

 

ICTを効果的に使うことで、算数の授業でもアクティブな対話が生まれる!

――先ほどは体育の例を教えていただきましたが、算数のような教科ではどのように授業が進むのでしょうか。

たとえば、先生が出した問題に対し、子どもたちはその解き方を考えて、手元のタブレットでアプリ画面に書き込みます。そして、「わかった!」と思ったら画面のキャプチャを撮るんですね。または、紙のノートに書いたものを写真に撮る場合もあります。先生はその内容をリアルタイムで見られるようになっていますから、「△△さんがおもしろい発見をしたから、説明してもらおう」と、1人の子の考えた内容を電子黒板に写して説明させたり、さらに「みんなは今の説明をどう思う?」と意見を募ったりする。そうすることで、授業がどんどんアクティブになります。

 

――子どもに答えさせて、○か×かを先生が判断する授業とはまったく違うのですね。

そのとおりです。対話によって、「なるほど、だからこのやり方がいいんだな」と納得しやすくなるんですね。

しかも、「わかった!」の瞬間を切り取って保存しておけるのがICTの優れた点。前回の授業でわかったことを次の授業のはじめに画面で見せ、「前回、△△さんがこんなことを言ってくれたよね」と思い出させることで、学びと学びをスムーズにつなげることができます。

つまり、子どもたち自身のリアルな発見が、そのまま教材になるということです。「どうしたら解けるんだろう、そうか、ポイントはこれだ!」という瞬間を記録しておけば、何度でも振り返ることができる。だから頭に残るのです。

 

さらにタブレットを家に持って帰れば、学校の授業と家庭学習もつながる。理解したことを生かしたり、組み合わせたりすることで、新たな知識をつくり出していけます。学びがどんどん深く長くつながっていくというわけです。

子どもたちが主体的に学び、自ら考えるようになるには先生からの声かけや子どもたちどうしのコミュニケーションが不可欠。その、人間にしかできないやりとりに、ICTという道具が加わると学びが深まるというのがおわかりいただけたでしょうか。

⇒次ページに続く ご家庭でも! 学びを深めるICTの活用法

プロフィール

森本 康彦(もりもと・やすひこ)

東京学芸大学情報処理センター教授。博士(工学)。1991年学習院大学理学部数学科卒業後、企業の情報技術研究所にてソフトウェアの開発に従事。その後、中学校、高校、大学で数学や情報の教鞭をとる。2007年、長岡技術科学大学大学院工学研究科後期博士課程情報制御工学専攻修了。2009年、 東京学芸大学情報処理センター准教授に。2017年より現職。教員や児童、学生を対象に、ICTを使った学び方を紹介する講演やセミナーも多数実施している。

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