特集
今がんばっている習いごとの、上手な使いこなしかた(2)
2019.5.23
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夢中になることが、習いごとを充実させるコツ
――今取り組んでいる習いごとについて、技術を習得するだけでなく、何か別の素養を身につける機会にしたり、日常生活に役立てたりするためのコツはありますか?
それは欲張りな話ですね。大人が「仕事をしながら体力も鍛えよう」「飲み会を楽しみながら人脈も広げよう」と言っているようなものですから。
たとえば、チームスポーツをやっていれば、チームワークやコミュニケーション能力、役割分担の意識などが培われますが、それは、とにかく夢中になって、没頭して取り組んだ結果として身につくもの。意識しながら取り組むことではありません。意識した時点で習いごとがつまらなくなると思いますよ。
――では、保護者の方が、「これ以上習いごとは増やせないけど、今の習いごとを通してもう少し別の力もつけさせたい。何か保護者の声かけで子どもの意識が変わったりするかな」などとあれこれ考えるのではなく、お子さま本人が気に入って続けているなら、見守ることが大事でしょうか?
そうです。その習いごとを深く愛して、没頭して取り組めば、技術だけでなく付随する力もついてきます。
そもそも、習いごとの目的の一つは、夢中になることです。夢中になると上達して、何かを達成しますよね。達成すると楽しいからどんどん練習して、技術の向上も見られる。でも、どこかで必ず壁にぶち当たり、そこで初めて「やめたいな」とか「さぼりたいな」などのネガティブな気持ちに気づく。それを乗り越え、克服することで「物ごとをやり切る力」が身についていくんです。僕はこれを、「夢中→達成→挫折→克服の4つのサイクル」と呼んでいます。
この4つのサイクルを回せていれば、技術を習得するだけでなく、使う道具も大切にするようになるだろうし、時間も守るようになるだろうし、約束も守るようになるだろうし、目標を達成できないことに対する悔しさも学ぶでしょう。なので、習いごとの内容はなんでもいいし、取り組む際もひたすら没頭して、余計なことは考えないほうがいいですね。
――保護者としては、習いごとを通じて何かしらの能力を引き出したい、開花させたいという思いが強いように思います。
習いごとによって身につくスキルに気を取られてはいけません。たとえば、平泳ぎができるようになったとして、平泳ぎができること自体はそれだけのスキルですが、平泳ぎができるようになるまでのプロセス、たとえば、上手に泳いでいる子を観察してまねをしたり、先生に言われたとおりにやってみたり、自分なりに試行錯誤して少しでもうまくなろうとしたプロセスは、かけっこにも、縄跳びにも、勉強にも、仕事にも応用できます。
このプロセスを経験すること自体が習いごとから得られる最大のものであり、これによって非認知能力が鍛えられます。非認知能力とは、物ごとをやり抜く力や勝ちたいと思うハングリー精神、コミュニケーション能力、思考力や表現力、協調性など、学力テストでは測れない能力全般のことで、種目が変わっても応用が効く基礎体力みたいなもの。習いごとをとおしてこの非認知能力を鍛えておけば、将来、いろいろなことに挑戦してやり切ることができる素地が作られます。
プロフィール
おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学外国語学部英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートで雑誌編集に携わったのち、2005年に独立。育児・教育誌などの監修・編集・執筆を務め、現在は、育児や教育、夫婦のパートナーシップなどに関する書籍やコラム執筆、講演活動を行っている。著書に『習い事狂騒曲』(ポプラ新書)、『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)など。