特集

今がんばっている習いごとの、上手な使いこなしかた(3)

  

保護者の方のよくあるお悩みQ&A

ここからは、習いごとに関して保護者の方が感じることの多い質問に答えていただきました。

Q

<習いごとの回数を増やすときは?>
高学年で複数の習いごとをしています。そのうち1つについて「通う回数を増やしたい」と本人が意思表示したとき、単純に通う回数を増やすのか、回数を増やした分ほかの習いごとを減らすのか、どのようにバランスをとるのがよいでしょうか?

A

一度、本人の望むとおりにやらせてみるのも一つの手です。

これは個々人の価値観がかなり入ってくるところになりますが……僕なら、純粋に通う回数を増やす方法で一度やらせてみます。それで本人がきついと思えば「ちょっと無理だった」と言ってくるでしょう。そうしたら「そうか、よく気づいたね。じゃあ、どういうふうに調整する?」と本人の意思を確認します。こうして子どもが自分で決めるからこそ、自分の判断に責任をもてるようになるし、自らトライ&エラーができる子になります。

だから、大人から見て「単純に回数を増やすのはちょっときついんじゃないかな」とわかっていたとしても「ほら、やっぱり」とは決して言わないでください。それを言ってしまうと、本当に苦しいときに「やっぱり無理だった」と言えず、意地でも続けようとするでしょう。あるいは、最初から挑戦しようとしない子になってしまうかもしれません。

Q

<習いごとに興味を示さない場合は?>
子どもが習いごとに興味をもちません。親としては、英語やプログラミングなど、将来役に立ちそうな習いごとをやってほしい気持ちもありますし、そうでなくても、何かしらやってもいいのでは?と思います。

A

その子の興味を尊重し、伸ばしてあげましょう。

習いごとに興味を示さない子に無理やり何かを習わせても無駄でしかありません。「本を読み続けるのが好き」「ゲームに没頭したい」など、その子にはその子の世界や別の興味があるはずですから、それを伸ばしてあげるのが、本人のいいところを引き出すいちばんの方法です。

ゲームばかりしていることについては意見が分かれるところだとは思いますが、「eスポーツ」という言葉が話題になったように、ゲームへの見方が変わってきているのも事実です。記録を出したい、将来ゲームの制作にかかわりたい、など、本人が本気なら、背中を押してあげていいと思いますよ。

Q

<なんでもやりたがる子への対応は?>
いろんなことに興味をもつ子で、「あれもやりたい」「これもやりたい」となんでもやりたがります。どのように対応するのがよいでしょうか。

A

すぐに応じるのではなく、少し時間を置いて、熱が高まるのか、冷めるのか様子をみましょう。

まずは本気度を測るために、すぐに始めさせるのではなく、少しの間我慢させてみましょう。それで熱が高まるのか、ころっと忘れてまた別のことをやりたいと言い出すか。前者であれば、やらせてみてよいのではないでしょうか。

習いごとを始めるときには、始めた習いごとについては、常に目標を設定しておくことをおすすめします。たとえば、「学年が上がるまで続ける」「3級をとるまで続ける」など。そして、新しくやりたい習いごとが出てきたときも、すでに取り組んでいる習いごとは目標を達成するまでは続ける。「今やってる習いごとはここまではやるって言ったよね?」と声をかければ、その目標を達成するまでは本人もがんばれると思います。そこに新しい習いごとを加えるのか、すでに取り組んでいる習いごとを終えてから新しい習いごとを始めるかは、お子さまとの話し合いで柔軟に決めるとよいでしょう。

目標を設定しておくよさは、新しい習いごとと入れ替えるタイミングがつくれることだけではありません。さまざまな事情で辞めることになっても、必ず目標を達成してから辞めることになるので、ポジティブに終えることができます。

Q

<保護者の事情で習いごとを諦めさせるときには?>
金銭面や送り迎えの大変さなどの保護者の事情で、「これ以上の習いごとは無理!」となったときは、どうすればいいでしょうか?

A

真摯に事情を説明しましょう。

金銭面や送り迎えの大変さなどの保護者の方の事情で習いごとを辞めるときは、家庭の事情として説明するしかありません。低学年であっても、「こっちの習いごとの方が楽しそうだよ」などとごまかしたりするのではなく、「こういう理由でできない・増やせない」と切々と、誠実に説明する。悪いなと思うなら、「ごめんね」と素直に謝る。そうして保護者の方が素直に本当の気持ちを伝えれば、お子さまは聞いてくれると思います。

Q

<きょうだい間の習いごとのバランスは?>
きょうだいのうち、上の子の習いごとが生活の中心になっている現状があります。もう少し下の子たちのやりたいことも尊重してあげないと、とは思うのですが……

A

「不平等な状態を平等に割り振る」くらいの意識で、結果としてバランスがとれればOKです。

きょうだいの中で1人にだけ意識が向いてしまい、ほかのきょうだいがさみしい思いをするのはままあること。その中で「バランスをとってあげよう」という意識をもつこと自体がとてもフェアだと思います。

そのときにおすすめなのが、「不平等な状態を平等に割り振る」という発想です。下の子の意思を尊重してあげようという気持ちと、そうなると上の子が寂しがるので寄り添ってあげようという気持ちは、常に揺れ動くものです。「ゼロかイチか」で決めるものではありません。

だから、「今は上の子に偏ってるな」と気づいたときは、下の子に意識を向ければいいし、それが続きすぎていることに気づけば、また上の子に意識を向ければいいんです。そうやって常に揺れ動く振り子のようにバランスをとっていれば、結果的にバランスがとれているものです。

Q

<勉強がおろそかになりそうなときは?>
習いごとに夢中になりすぎて、勉強がおろそかになりそうです。どのように修正していけばいいでしょうか?

A

結果が出るまで見守りましょう。

これは本当ににべもない答えになってしまいますが、おろそかになった結果が見えたときに一緒に対処法を考えればよくて、保護者の方が「おろそかになりそう」と思っても、その時点で手を打つのは適切ではありません。というのは、子どもは失敗しないと気づかないし、学ばないからです。失敗して「勉強がおろそかになるとこうなるんだ」ということを学び、そこで初めて「失敗する前に手が打てる子」になるわけです。

それに、「最近ちょっと勉強がおろそかになってない?」という声かけでは説得力がなく、「そんなことないよ」と言われればそれで終わるか、堂々巡りをするだけです。勉強でよくない結果が出て「前回はあんなに成績がよかったのに、今回のこの結果はなんで?」「いやー、サッカーが忙しくて勉強にまで手が回らなくて」「じゃあちょっとやり方を考えようよ」というやりとりをして初めて説得力が生まれます。

したがって、「子どもはコントロールできない」という大原則を受け入れ、ここは耐えて、見守りましょう。失敗を見守れるようになれば、保護者として成長しているということですし、子どもが将来巣立っていくときにも上手に手を離すことができるでしょう。

  

習いごとから得られる財産は、技術だけではない

――ありがとうございました。最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

先ほども申し上げましたが、習いごとをとおして何かを好きになって夢中になる経験こそが、技術が身につくこと以上に財産となるものです。培われるのは、非認知能力だけではありません。他人や世の中を思うこともできるようになると思います。

というのは、好きになって、夢中に取り組んでいると、だからこそ傷つく瞬間や嫌になる瞬間があったりもします。たとえば、「一生懸命練習しているのに、レギュラーを外された」など。そうした、無意識に自分の心の奥底にもっていた本音や汚い気持ちに対峙する。その経験を積み重ねていけば、自分で自分を欺くことはできないことがわかるし、自分以外の人にも心があって、それを無下にしたり、傷つけたりできないことがわかってきます。そうすると、将来、家族や友人を大事に思うことができる、また、世の中のことを思って仕事ができる人にもなれると思います。

あれもこれもと広く浅く取り組むのではなく、本当にやりたいことに絞って、夢中になる。習いごとをとおして、ぜひこの経験をしてほしいと思います。

プロフィール

おおたとしまさ

育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学外国語学部英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートで雑誌編集に携わったのち、2005年に独立。育児・教育誌などの監修・編集・執筆を務め、現在は、育児や教育、夫婦のパートナーシップなどに関する書籍やコラム執筆、講演活動を行っている。著書に『習い事狂騒曲』(ポプラ新書)、『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)など。

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