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算数を嫌いにさせないために (1)

「算数は苦手」。お子さまのそんな言葉を聞き、なぐさめるつもりで「わたしも苦手だから、しかたないわね」「似ちゃったのね」と声をかけることはありませんか? 
 でも、それは要注意。保護者の方が苦手だと宣言してしまうと、子どもはますます苦手意識を膨らませかねません。
 そこで今月は、算数を学ぶ意味と、お子さまを算数嫌いにしない工夫を数学者の芳沢光雄先生に聞きました。

目次

結果重視の算数教育が算数嫌いを助長!?

――ほかの教科に比べ、算数は「苦手」という子どもがめだちます。理由をどうお考えですか。

いくつかありますが、算数や数学で答えを出すには、一歩一歩論理的に思考を積み上げていく必要があります。それに慣れていない子どもは、難しいと感じてしまうのでしょう。
また、親御さん自身が算数が苦手だと、「わたしの子どもだから、できなくともしかたないわね」とか、「もう忘れた。使わないから」と子どもに言ってしまうことがありますね。それらは子どもから算数を学ぶ意欲を奪いかねません。できなくてもしかたがない、将来役に立たないと思うかもしれないからです。

――しかし、算数が苦手な大人は多いものです……。

子どものころに受けた学校教育が、算数嫌いをつくってしまったのかもしれません。答えを早く出すことばかりを求め、途中の手順を重視しない。その結果、生徒は「こういう問題はこの式にあてはめる」と暗記するだけで、「なぜそうするのか」考えなくなってしまう。「分数÷分数」で、なぜわる数をひっくり返すのか十分考えずに、「ひっくり返せばいい」と暗記していると、少し複雑な問題になると歯が立たなくなり、「苦手」となってしまうのです。
しかも、問題を機械的に解いているだけでは、算数が実社会で役立つという実感を得られません。その結果、つい「算数は嫌い」「忘れた」と子どもに言ってしまうのです。

算数は客観的に思考する手段 過程を経ることで力がつく

――実際に日常生活のなかで、わたしたちは単純なたし算やひき算、かけ算くらいしか使っていません。なぜ長い時間をかけて算数や数学を学ぶ必要があるのか、子どもにどう説明したらよいでしょうか。

第一に、数学はものごとを客観的に把握したくさんの人と共有するための、人類が編み出したいちばん強力な道具だからです。たとえばモンゴルの大平原に暮らしている人と超高層ビルで働いている人が、「高い建物」について話しあってもかみあわないかもしれない。でも数字で地上何mと話せば、同じ高さを認識しあえます。価値観の違う人と意見を交換し物事を解決していくためには、数字や数学を使うことがいちばん確実なのです。
第二に、数学は数を扱う学問であると同時に、筋道立てて結論を導き出し、わかりやすく説明する学問だからです。つまり数学を学ぶということは、これとこれの関係がこうだからこうなると、論理的に答えを導き出し伝える訓練でもある。
たとえば子どもは「みんなが持っているから欲しい」という言い回しをしますが、数学的な思考を身につけると、「クラスの何割が持っている」「どう役立っている」など、客観的な根拠を示して説明できる。

――いずれ社会に出て仕事をするうえで、必ず役に立つ力ですね。

そうです。数学では多数決で結論を出すことはありません。正しい手順をふんで導いた答えが「正解」だからです。数学的に導き出した答えは、たとえ99人に「反対」と言われても、筋道立てて説明することで議論をひっくり返すことができる。プレゼンテーションの力にもなります。
だからこそ、丁寧に手順をふんで答えを出す経験を重ねなくてはいけないんだよ、と伝えてあげてほしいですね。
小学生のうちから算数の問題にじっくり取り組み、好きになることが、中学高校の数学の土台になります。小学生時代に、じっくり考える経験を積んでおくのは、そういう面でも有効です。

⇒次ページに続く 「身近な話題に結びつけ 親子で算数を楽しもう」

プロフィール

芳沢光雄(よしざわ・みつお)

理学博⼠。専⾨は数学・数学教育。1953年東京都⽣まれ。慶應義塾⼤学商学部助教授、城⻄⼤学理学部教授、東京理科⼤学理学部教授を経て、2007年より桜美林⼤学リベラルアーツ学群教授。
算数・数学教育の重要性を説き、苦⼿意識を克服させる指導の必要性を訴求。地⽅の⼩中学校への出前授業も
数多く⾏うなど、わかりやすい数学の指導を精⼒的に展開している。『AI時代を切りひらく算数―「理解」と「応
⽤」を⼤切にする6年間の学び』(⽇本評論社)、『算数が好きになる本』、『新体系・中学数学の教科書(上・
下)』、『新体系・⾼校数学の教科書(上・下)』(以上、講談社)他、著書多数。

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