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未来を自分で選ぶ力をつけるには〜小学生の選択力を高めるヒント〜 (2)

選択を自分のものにするために

――さまざまな選択肢を検討し、最終的に何かを選ぶにあたって、納得のいく決断・選択をするために大事なことはなんでしょうか?

決めたことを自分ごとにすることです。選択したあとに「親に言われたから」「先生に言われたから」「あみだくじで決まったから」などと自分の外側にある理由を話す子もいますが、嫌ならもう一度選択の場面に戻って選び直せばよい話で、自分の外に理由があったとしても、その選択を受け入れると決めた以上は自分のものにしないと後悔ばかりが残ります。

自分ごとにする方法としておすすめするのが、「選択の理由を自分の言葉で語ること」です。「なぜその選択をしたのか」「なぜそれに決めたのか」ということを、自分の言葉で人に説明する。それによって、自分の選択が意味づけされ、強化されます。これも日常の中で練習が必要なので、折に触れて「なぜそれを選んだのか」を言葉にする機会をもつように保護者の方が働きかけるといいと思います。

 

子どもの「選択」にかかわるよくあるお悩みQ&A

Q

子どもに「やりたい」と思えることがないようです。どうすればいいでしょうか?

A

わからないなら、まずは味見することが大事だと思います。やってみると「おもしろかった」「おもしろくなかった」というものは出てくるので。

たとえば、「読みたい本がない。どれがいいかわからない」のであれば、まずは⽬の前の本棚から1冊、どれでもいいから選んでみましょう。タイトルで惹かれるものがなければ、一番上の左の端でも、本当にどんな選び方でも構いません。
そして、最初の30~100ページを必ず読むと決めて読んでみましょう。おもしろければそのまま読み進めて、おもしろくなければまた別の1冊を選んで100ページ読む。そうして2冊ほど読めば、自分の興味の方向がわかってきて、次の見通しが立ちます。食に関する本と建築に関する本を100ページずつ読んで、食の本の方がおもしろかったと思えば、食に関連する本をさらに読んでいくなど。

このように、行動すると、さらに前進するか、別の方向に行くかなどがわかってきます。でも、何も行動しないままだと、3カ月経っても1年経っても見通しが立たない。だから、わからなくても、やりたいことがなくても、まずは何かやってみることが重要です。

Q

中学受験をするかどうか決めるときや、受験すると決めた場合の受験校選びなどで、留意すべきことがあれば教えてください。

A

中学受験は早い段階で訪れる人生の選択ですが、私は中学受験に限っては、「子どもが自ら選択したものだ」としない方が良いのではないかと思います。

中学高校の6年間をどんな学習環境で過ごすかについて、⼦どもだけで決められるかというと、なかなかそうはいかないですよね。
たとえお⼦さんから「受験したい」と⾔い出したとしても、それは周りの⼦が受けることを聞いたからだったり、保護者の⽅に「どこがいいと思う︖」などと私⽴校のパンフレットを⾒せられたので、その期待に応えることで喜んでくれると思うからだったりします。

お⼦さんの「選択する⼒」が⼗分備わっていないであろう時期に中学受験をするかどうかを決めることになりますので、途中で勉強のモチベーションが続かなくなったり、悩んだりしたときに、「あなたが決めたことだから頑張らなきゃ」などと声かけしてしまうのはおかしくて、子どもの自由意思による選択というには無理があるかもしれません。
この自覚は重要で、中学受験については⼦どもの選択として扱うのではなく、保護者の⽅が「⾃分の経験や、⾃分が⾒ている世界から考えると、今はこの選択がいいと思う」などと、⼤⼈が選択した上でのアドバイスの一つにすぎないことを、お⼦さんに率直に説明する⽅が良いのではないでしょうか。

また、保護者の方が学校を選択する際の「ものさし」が、今の時代のものにアップデートできているか点検することも大切です。もし自信がないなら、ちゃんとそのことをお子さんに話したほうがいい。「私たちの時にはこれでうまくいったし、私たちはこれがいいと思うけれど、今通用するかどうかはわかる部分とわからない部分がある」と。
そして、お子さんに親のアドバイスを鵜呑みにさせないという関係を、日頃から築いておくがことが大事なんだと思います。

Q

進路や人生における大切なことを、将来自分で選択できる子になるために、保護者の方が今からできる声かけのポイントを教えてください。

A

日常生活の中で、お子さんに「なぜ?」ではなく、「どのように?」と問いかけていくことをおすすめします。

「なぜ?」は、相手を試すような質問になりがちです。たとえば、「なんで宿題しないの?」の「なんで」には、「宿題をやりなさい」という反語的な意味が込められていますよね。問われた方も答えに窮しますし、問うた方も理由を説明されても腹が立つだけです。それよりも、「どうすれば明日宿題を提出できる?」と問うた方が、次のアクションを考えられます。このような、次のアクションにつながるような問いかけを増やしていけるといいですね。

自分にもまだ答えはわからないけれど、相手に投げかけることで相手の考えが変わり、相手から出てきた言葉を受けて自分の考えも変わるという、創造的な対話を生み出すのが「質問」でも「発問」でもない「問い」というものです。そのような問いかけを、親子の間でもできると、お子さんの思考はもっと広がっていきますし、選択肢の定まらない問題に自分で向き合う力につながっていくと思います。

プロフィール

塩瀬隆之(しおせ・たかゆき)

京都大学総合博物館准教授。1973年生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門はシステム工学。ロボット研究に取り組むうちに哲学や人とロボットとのコミュニケーションなどに関心をもち、コミュニケーションデザイン研究に取り組む。2012年7月より経済産業省産業技術政策課にて技術戦略担当の課長補佐に従事。2014年7月より復職。小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、ワークショップ多数。平成29年度文部科学大臣賞 (科学技術分野の理解増進)受賞。近著に『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』(学芸出版社)。

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