子どもと楽しむ料理の科学

おでんをもっとおいしく!「80℃煮込み」

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

味がしみこむ、おでんのコツ

 寒い季節にはあったかい鍋物が食べたくなりますよね。お鍋から上がる湯気や熱々の具に、体がほかほかと温まります。今回はそんな鍋物の一つ、おでんのコツについて紹介します。
おでんは、一般的な煮物・鍋物に比べて具が大きく、しかもつゆの味はあまり濃くないので、なかまでしっかり味をしみ込ませることがおいしさのポイントになります。一方で、味をしみ込ませようと一生懸命煮込んだ結果、大根やじゃがいもなどの野菜が煮くずれてしまったり、卵が固くなってしまったりといった問題も起こります。
基本的には、温度が高ければ高いほど味がしみ込みやすいので、100℃でぐつぐつ煮込めばより早く味がしみます。一方で沸騰状態では、野菜がやわらかくなる反応もよく進むため、味がしみるまで煮込んでいたら煮くずれしてしまったなんてことも起こり得ます。煮くずれさせず、できるだけ早く味をしみ込ませたい。そんなときにぴったりなのが「80℃煮込み」です。

煮くずれせず、味がしみ込む絶妙な温度

野菜を加熱するとやわらかくなる、というのは皆さまもふだんのお料理で実感されていることだと思います。しかし、実際には「80℃以上で加熱するとやわらかくなる」という方が正確です。
野菜の細胞の外側は細胞壁という壁で覆われています。野菜を加熱するとやわらかくなるのは、この壁を補強したり、壁同士をくっつけたりしている「ペクチン」という成分が分解され、溶け出すためです。この反応は80℃以上、とくに90〜100℃でよく進みます。
一方「味がしみ込む」という現象は温度が高いほどよく進みますが、低温でもゆっくりと進みます。80℃で加熱した場合は、100℃で加熱した場合の7割程度、60℃でも半分程度のスピードで味がしみます。
したがって下ゆでした野菜を、80℃程度を維持したつゆのなかでじっくり煮込むと、野菜のやわらかさは変わらず、味だけがよくしみ込みます。厚切りの大根など、おでんの根菜類なら45分程度が目安です。80℃の目安は、小さい気泡がぷつり、ぷつりと上がるくらい。

一般的に、土鍋や鋳物の鍋など厚くて重い鍋は保温性が高く、80℃程度になったらとろ火〜弱火くらいに火加減をしておけば、だいたい80℃前後をキープできます。また、火を止めてもふたをしておけばある程度温度を維持してくれるので、その間にちょっと出かけたり他の家事をしたりしてもよいでしょう。
一番簡単なのは、前日に下ごしらえをして一晩つゆに浸しておくことです。冷蔵庫に入れておいても、ゆっくりとですが味がしみ込むので、次の日には中まで味がよくしみたおでんが食べられます。
80℃煮込みは野菜が煮くずれないだけでなく、卵の黄身がパサパサにならずしっとりした状態で食べられるという利点もあります。卵の黄身は65〜70℃で固まり始めますが、完全に固まって白っぽい粉状になるのは85℃程度からで、80℃程度ではやや粘りのある状態を保っています。そのため、半熟のゆで卵を80℃以下でゆっくり煮れば、味がしみているのにほどよいしっとり感が残った卵に仕上がります。

ゆっくり加熱でじゃがいもが煮くずれない

野菜のなかでもとくに煮くずれやすいのがじゃがいもなどの芋類です。じゃがいもの煮くずれを防ぐには下ゆでにひと工夫するとよいでしょう。野菜は加熱するとやわらかくなる、というイメージが強いですが、実は50〜60℃では酵素の働きによってペクチンが補強され、逆に固くなる反応が起こります。水からゆでる際、やや抑えめの火加減で50〜60℃をゆっくりと通過するようにすると、じゃがいもの外側が補強されて煮くずれを防いでくれます。

おでんのポイントは……

煮くずれさせずに味がしみこむ、80℃で煮込むこと!

作り方/レシピ


おでん

材料(4人分)
具材(一例、お好みで)
大根 …… 1/2本
卵 …… 4個
こんにゃく …… 1枚
じゃがいも(メークインなど煮くずれしにくいもの) …… 2個
にんじん …… 1本
牛すじ肉(下ゆでしたもの) …… 150g
練り物 (平天、ごぼう天、ちくわなどお好みのもの) …… 適宜

つゆ
だし …… 2リットル
(だしのひき方は1月の記事で紹介しています)
しょうゆ …… 大さじ6
みりん …… 大さじ3
塩 …… ひとつまみ

練りカラシ

1.つゆを作る
だしを鍋に入れて温め、しょうゆとみりんを入れて一煮立ちさせ、アルコールを飛ばす。味を見ながら塩を加え、味をととのえる。
(だしの1/4〜1/3程度を牛すじの煮汁で置き換えてもコクがあっておいしいです。)

2.具の下ごしらえ①
まずは、味がしみるのに時間がかかる根菜類やこんにゃく、卵などから下ごしらえし、下ごしらえを終えたものからつゆに入れる。しらたきやちくわぶなどを入れる場合もこのタイミングで下ごしらえをしてつゆに入れる。

大根……2〜3cm厚さの輪切りにし、厚めに皮をむく。

にんじん……皮をむいて長さを半分に切る。太いものは縦4つに、細いものは縦2つに切る。

大根やにんじんは、かぶるくらいの水を入れて強火で加熱し、沸騰したらぐつぐつするくらいの火加減でゆでる。竹串がすっと通るくらいになったら取り出し、つゆに入れる。

じゃがいも……皮をむいて2つに切る。小さめのものなら丸ごとでもよい。
かぶるくらいの水を入れて中火でゆっくりと沸騰させてからゆでると煮くずれしにくい。沸騰したらあまり激しく動かない程度に火を弱め、竹串がすっと通るくらいになったら取り出し、つゆに入れる。

こんにゃく……表面に2〜3mm幅で網目状の隠し包丁を入れる。4つに切り、たっぷりの塩をまぶして5分置く。沸騰したお湯で3分ゆでたら取り出し、つゆに入れる。

……沸騰したお湯に入れて8分ゆでる。流水で冷まして殻をむき、つゆに入れる。

牛すじ肉……下ゆでしたものを一口大に切り、3〜4切れずつ串に刺す。

3.味を含める
具材とつゆを入れた鍋を火にかけ、80℃程度に加熱する。目安は、小さい気泡がぷつり、ぷつりと上がるくらい。時間がある場合は、ここで一度火を止め、ふたをして半日〜一晩寝かせて味をしみさせる。
すぐに食べる場合は、80℃程度を維持したまま、30分ほどゆっくり煮る。

4.具の下ごしらえ②
練り物は熱湯をかけて油抜きをする。厚揚げを入れる場合も同様。

5.温める
練り物を鍋に加える。厚揚げやウインナー、つみれなどを入れる場合もこのタイミングで。80℃程度を維持したまま、さらに15分ほどゆっくり煮てできあがり。はんぺんを入れる場合は最後の5分に加える。

プラス知識! こんにゃくは隠し包丁でよりおいしく

 おでんの具のなかでもとくに、こんにゃくは味がしみにくい、というイメージが強いのではないでしょうか。しかし、実際には味がしみにくいというよりも、味が絡みにくい、そしてしみた味を舌で感じにくいという方が正確でしょう。
たとえば、大根の表面はザラザラしているのでそこにつゆが絡みますが、こんにゃくは表面がツルツルしているので表面につゆが絡みにくい状態です。
また、大根をかむとだしを含んだ水分がなかからじゅわっと溢れてきて口いっぱいに広がりますが、こんにゃくはあまり水気が出てきません。味を感じるには、舌の味細胞で味の成分を検知する必要があるので、こんにゃくにしみた味を十分に感じるためにはこんにゃくをより細かくかみ砕く必要があります。

そこで活躍するのが隠し包丁です。表面に浅く細かい切り込みを入れることでその隙間につゆが絡みやすくなります。また、かんだときに細かくくずれやすくなるため、こんにゃくにしみた味をしっかり感じることができるのです。

2/27(木)更新の次回では、「牛乳」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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