子どもと楽しむ料理の科学

ひと工夫で料理がもっと彩りよく 色素の科学

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

「おいしい」は、料理の見た目も大事

 料理のレシピを見ていると「切って水にさらす」「酢水でゆでる」などの手順が出てくることがありますよね。これって何のためにやるのでしょうか。
 アクを抜いて味をよくするため、食感をよくするためなど様々な理由がありますが、もう一つ「食材を色よく仕上げるため」という理由もあります。

 料理のおいしさは味だけで決まるものではありません。私たちは、においはもちろんのこと、見た目や雰囲気など様々な要素を総合しておいしさを感じています。普段の料理では、見た目までなかなかこだわれないことも多いかもしれませんが、凝った盛り付けや特別な飾り付けをしなくても、ちょっとした工夫で見映えをよくすることはできます。

 今回は、野菜の色素に着目し、料理をより彩りよく、見映えよく仕上げるための科学を紹介します。

緑色の野菜は食べる直前に調理する

鮮やかな緑色の食材があると食卓が華やぎますよね。メインの食材としてたっぷり使ってもよし、トッピングとしてパラリと散らしてもよし。そんな野菜の緑色は「クロロフィル」という色素によるものです。
この色素は熱や酸に弱く、⻑時間加熱したり酸性の条件にさらしたりすると、黄褐色の「フェオフィチン」という成分に変化し、色が悪くなってしまいます。酢、醤油、みそなど、私たちが普段使っている調味料には酸性のものが多いので要注意です。

和え物の味付けや、ドレッシングをかけるなどの仕上げは食べる直前がよいでしょう。お弁当にブロッコリーやスナップエンドウを入れる際、マヨネーズ等が触れる状態で詰めてしまうと食べる頃には色が悪くなっている、なんてことも。スペースがあれば小さいカップにマヨネーズを分けて入れておくと、食べるときまできれいな状態をキープできます。

みそ汁や煮物を作る場合も、青菜などの火が通りやすいものはなるべく食べる直前に加えて仕上げるようにすると、青々とした状態で食卓に出すことができます。

赤や紫の鮮やかな色素

トマトやパプリカ、人参などの赤、黄色系の野菜があると、食卓が一層華やかになりますよね。これらの色はカロテノイド系の色素によるもの。この色素は熱や酸に強く、空気に触れて変色することもないので、お弁当や作り置きなどにも便利です。
一方、紫色の色素「アントシアニン」は酸で鮮やかに発色する性質があります。去年「色が変わる!?不思議なジュース」で解説したように、アントシアニン色素は、酸性にすると鮮やかな赤〜赤紫色に変化します。さっとゆでたミョウガを甘酢に漬けたり、紫キャベツをお酢やレモン汁の入ったドレッシングで和えたりするときれいなピンク色に。アントシアニンはこの他にも、ナスの皮や紫玉ねぎ、赤カブなどに豊富に含まれています。
注意点は水に溶け出しやすいこと。紫キャベツを切っていると、あっという間にまな板の上が紫色になりますし、煮物に入れると煮汁がものすごい色になってしまいます。

ナスの皮も同様で、煮物やみそ汁にそのまま入れてしまうと、皮の色が落ちてまだらになったり汁が黒っぽくなったりと、見た目が悪くなってしまいます。

一度素揚げにしたり多めの油で炒めたりしてから使うと、水の中での調理時間が短くなりますし、油で表面がコーティングされるので見栄えよく仕上がります。

作り方/レシピ

青菜と油揚げのみそ汁
■材料(2人分)
青菜(小松菜など) 1/4袋
油揚げ 1/2枚
だし 300mL(顆粒だし+水でもOK)
みそ 小さじ2

1.材料を切る

青菜は5cm幅に切り、葉と茎に分けておく。
油揚げは5mm幅の短冊切りにする。

 

2.具を煮る
鍋にだしと油揚げを入れて火にかける。だしが沸騰したら、青菜の茎を入れて火を弱め、火が通るまで煮る。みそはおたま1杯分程度の煮汁を加えて溶いておく。
※他のおかずを作る、家族が帰るのを待つ、など、すぐに食べない場合はここで一旦ストップ。仕上げは食べる直前に。

 

3.仕上げ
青菜の茎に火が通ったら、青菜の葉と溶いたみそを加え、沸騰直前で火を止める。お椀に盛り付けてできあがり。
※帰りが遅い家族の分や、翌日食べる分など、すぐに食べない分の葉は仕上げに加えずによけておき、温め直すときに加えると色よい状態で食べられます。

ナスとパプリカのさっぱり揚げびたし
■材料(2~3人分)
ナス 2本
パプリカ 1個
青ネギ 適量
*だし 300mL
*醤油 大さじ3
*みりん 大さじ3
*酢 大さじ1
*おろし生姜 小さじ1/4程度
サラダ油

1.野菜を切る

青ネギは小口切りにする。パプリカは1.5cm幅に切る。

ナスはがくを切り落とし、縦半分に切る。皮に2〜3mm間隔で浅く切り込みを入れ、さらに縦半分に切る。
(隠し包丁を入れておくと、味がしみやすく、食べるときも箸で切りやすい)

2.ナスを揚げる

深めのフライパン(または鍋)に、深さ3〜5mm程度まで油を入れて火にかける。箸の先を付けて、しゅわしゅわと泡が出てくる程度に油が温まったら中火にし、ナスを皮を下にして並べ入れる。皮全体が油に接するように、ときどき向きを変えながら30秒ほど炒め揚げにする。ナスを裏返し、身の方もさっと揚げたら取り出す。
(ナスは高温で揚げて下ごしらえしておくと、煮ても色が悪くなりにくい)

3.パプリカを揚げる

残った油にパプリカを入れ、炒め揚げにする。油が全体に回ったら取り出す。余熱で火が通るので、長く加熱する必要はありません。

 

4.ひたす
油を捨て、残った油をキッチンペーパーなどで拭き取る。同じフライパンに*を入れて加熱し、沸騰したらパプリカとナスを入れる。一煮立ちしたら火を止めて粗熱をとる。1時間以上ひたして味がしみたら器に盛り付け、青ネギをのせてできあがり。
(青ネギは煮汁にひたしておくと色が悪くなるので食べる直前に加える)

 

冷蔵庫で2〜3時間、よく冷やして食べるとおいしいです。3〜4日ほど日持ちするので、前日に作って冷やしておくと便利です。素麺に添えたり、冷しゃぶを加えたりして食べてもよいでしょう。

プラス知識! 野菜を変色させないコツ

ナスを切って放置しておいたり、ゆっくり加熱したりすると、断面が茶色く変色してきます。これはナスの細胞に含まれる「ポリフェノール」という物質が、空気中の酸素と結びついて酸化され、褐色の物質に変わってしまうことによる現象です。この他にも、れんこんやごぼう、りんご、バナナ、桃、アボカドなどでも同様の変化が起こります。
この変化には、野菜や果物の細胞内に含まれている「ポリフェノール」と、ポリフェノールを酸化する「酵素」、そして空気中にある「酸素」の3つが必要なので、このどれかを取り除いたりそのはたらきを邪魔したりするのがポイントです。
まず、酵素は60〜70℃で壊れるため、加熱してしまえばそれ以上反応が進むことはありません。一方で、40〜50℃では酵素がよくはたらくので、ゆっくり火を通そうとすると変色が進みやすくなります。したがって、素揚げする、炒めるなど、高温で手早く火を通すと変色が抑えられ、見映えよく仕上げることができます。
また、水にひたすと酸素が遮断され、断面のポリフェノールや酵素が水に溶け出すので、切ってから加熱するまでの間、水にひたしておくのもよいでしょう。
変色を抑えるために、食塩水や酢水、レモン汁を使うこともあります。食塩や酢には酵素のはたらきを抑える作用がありますし、レモンに含まれるビタミンCはとても酸化されやすいため、ポリフェノールの代わりに酸化されることで変色を抑える効果があります。

7/23(木)更新の次回では、「はちみつの活用法」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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