子どもと楽しむ料理の科学

うま味たっぷり!コンソメいらずのトマト煮込み

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

うま味の相乗効果で料理をおいしく!

煮込み料理や汁物を作るときには顆粒だしや顆粒コンソメが必要不可欠、と思っていませんか? 顆粒だしや顆粒コンソメは、料理にうま味をプラスして味わいを豊かにしてくれるので、うま味の少ない食材で手軽に料理を作るときにはとても便利ですよね。しかし、実は必ずしも必要なものではありません。使う食材の種類と組み合わせによっては、なくても十分にうま味のあるおいしい料理に仕上がります。

顆粒だしや顆粒コンソメに頼りすぎると何を作っても似たような味になりやすいので、うま味や風味の濃い食材を組み合わせて、これらを使わずに仕上げる料理がレパートリーにあると、味のマンネリ化を防ぐことができます。今回は「洋風の料理を作るとどれも似たようなコンソメ味になってしまう」という人におすすめの、顆粒だしや顆粒コンソメいらずの煮込み料理を紹介します。

 

3つのうま味成分

出汁やコンソメを口に含むとまろやかな味わいと満足感を感じられるのは、どちらもうま味成分がたっぷりと溶け込んでいるからです。出汁に使われる昆布にはグルタミン酸、鰹節にはイノシン酸、干し椎茸にはグアニル酸といううま味成分が豊富に含まれています。また、コンソメに使われる肉や野菜にも、これらのうま味成分が多く含まれています。

特に、グルタミン酸とイノシン酸、またはグルタミン酸とグアニル酸を組み合わせると「うま味の相乗効果」という現象によってうま味が最大で7〜8倍に増して感じられます。出汁は、昆布と鰹節、昆布と干し椎茸というように、複数の素材を組み合わせた「合わせ出汁」という形で使われることが多いですし、コンソメも肉と野菜を組み合わせて作られますが、これは長い歴史の中で、料理人たちが経験的にこの相乗効果を利用してきたのでしょう。

うま味食材を組み合わせて使おう

では、顆粒だしや顆粒コンソメを使わないとうま味の効いた料理にならないのかというとそんなことはありません。グルタミン酸は昆布の他に、トマトやブロッコリー、アスパラガスなどの野菜や、チーズ、味噌などの発酵食品にも多く含まれています。イノシン酸は肉や魚全般に豊富ですし、キノコ類を乾燥させたり加熱調理したりするとグアニル酸が作られるので、グルタミン酸が豊富な食材を、肉や魚、キノコ類と組み合わせて使うことで、顆粒だしや顆粒コンソメなしでもうま味たっぷりの料理に仕上げることができるのです。

野菜の中でもトマトは特にうま味が豊富なので、トマトの水煮缶やトマトソースは肉料理や魚料理にぴったりです。肉や魚をトマトの水煮缶と塩で煮込んだり、焼いてトマトソースをかけたりするだけで十分においしく仕上がります。

食材のうま味を利用する場合は、水分を加え過ぎるとうま味が薄まってしまうので、煮汁少なめ具だくさんに作るのがおすすめです。今回紹介するレシピでは水を足さずに食材の水分だけで煮込むことによってうま味を凝縮し、さらに椎茸を入れてうま味をプラスしています。椎茸は他のキノコ類で代用しても良いですし、キノコのグアニル酸の代わりに粉チーズをかけてグルタミン酸をプラスしてもおいしいですよ。

うま味食材を組み合わせて作る料理。
例えば…

  • 塩鮭と白菜のミルク煮…白菜と玉ねぎをバターで炒めて、塩鮭とローリエ、少量の水を加えて蓋をしてしばらく蒸し煮にする。牛乳を加えてひと煮立ちしたら、塩と胡椒で味をととのえる。
  • ベーコンとブロッコリーの蒸し煮…ブロッコリーとベーコン、少量の水をフライパンに入れて蓋をして蒸し煮にする。塩で味をととのえる。

作り方/レシピ

鶏肉のトマト煮込み(チキンカチャトーラ)

材料(4人分)
鶏もも肉 2枚(500〜600g程度)
玉ねぎ  1個
セロリ 1本
黄色パプリカ  1個
椎茸 1パック(100g程度)
トマト水煮缶 1缶
にんにく 2片
ローリエ 1枚
白ワイン 100ml
塩、胡椒、油

1.野菜を切る 

玉ねぎは繊維と平行に薄切りにする。

セロリは繊維と直角に薄切りにする。

パプリカは縦4つに切り、1cm幅の拍子切りにする。
椎茸は半分に切る。
にんにくは半分に切って芽を取り除き、包丁の腹などを使って押しつぶす。
トマトの水煮は、ホールの場合はざっくりとつぶしておく。

2.鶏肉を焼く 

鶏肉は5cm角に切り、塩胡椒をふる。

フライパンに油大さじ1を入れて中火で温め、鶏肉を皮目を下にして並べる。
両面にこんがりと焼き色がついたら取り出す。

3.野菜を炒める 

2のフライパンをキッチンペーパーで拭いて、油大さじ1を加え、再び火にかける。玉ねぎ、セロリを加えて炒める。

4.煮込む 

3がしんなりとしてきたら鶏肉を戻し、白ワインを回し入れる。 

椎茸、パプリカ、にんにく、ローリエ、塩小さじ1を加え、最後にトマトの水煮を全体に満遍なくかかるようにのせる。蓋をして弱火で20分蒸し煮にする。

仕上げに蓋を取って中火で5分ほど煮詰めたらできあがり。

煮る前に焼くのはなぜ?

肉を使った煮込み料理のレシピでは、あえて両面を焼いてから煮込むよう記されていることがしばしばあります。肉に火を通すのであれば、焼かずに煮込むだけで十分ですし手間も少ないはずですが、なぜわざわざ焼いてから煮る、という2段階で加熱するのでしょうか。
「表面を焼き固めて肉汁が出るのを抑えるため」と言われることもありますが、実は表面を焼いても肉汁の流出を抑えることはできません。では、無駄なことをしているのかというとそうではなく、肉の表面で「メイラード反応」を起こすという狙いがあります。

「夏休みに親子で挑戦! おえかきホットケーキ」でも紹介しましたが、メイラード反応とは、糖をタンパク質やアミノ酸と一緒に加熱したときに起こるもの。褐色の色素とともに様々な香りの成分が作られ、焼肉の表面やパンの耳、ご飯のお焦げのようなきつね色の焼き色と良い風味が生じます。お肉の表面に胡椒などの香辛料をふるのと同様に、良い香りをつけて嫌なにおいを隠してくれます。

肉にしっかりと焼き色をつけるには、表面になるべく水分がついていない状態でフライパンにのせるのがポイントです。水分が蒸発するのには多くのエネルギーが必要なので、水分が多く付着していると、肉をフライパンに入れたときにフライパン表面の温度が下がり、なかなか焼き色がつきません。ドリップをしっかりと拭き取り、浸透圧で水分が染み出してこないよう焼く直前に塩をふりましょう。

 

10/28(木)更新の次回では、「鍋でことこと煮込むだけ 手間なくおいしい煮豚」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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