子どもと楽しむ料理の科学

卵焼き器で簡単伊達巻

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

見た目も華やかでかわいい おせち料理の定番

お正月といえばおせち料理。手作りするのは大変そう、というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。お重いっぱいにいろんな種類を、と考えると確かに大変ですが、2〜3品作ってお皿に盛るだけなら意外と簡単なものもあります。最近は「作り置き」がブームにもなっていますが、おせち料理は年末に作って年明けに食べる、まさに伝統的な「作り置き」料理。そう考えると少し気楽な気もします。作りやすそうなものをいくつか選んで挑戦してみるのはいかがでしょうか。

 今回紹介する伊達巻は、卵と魚のすり身を合わせて平たく焼き、巻きすで巻いて形を整えた料理。すり身の代わりにはんぺんを使い、卵焼き器を使って焼き上げれば、食べ切りやすい分量で手軽に作ることができます。

 

伊達巻き

 

材料(13cm×18cmの卵焼き器1台分)
・卵3個
・はんぺん1枚(80~100g)

*砂糖 大さじ2
*みりん 大さじ1
*薄口醤油 小さじ1/2

サラダ油 少々(フッ素加工の卵焼き器を使う場合は不要)

ポイント

砂糖だけでなくみりんも加えるのは、焼き色をきれいにつけるためです。「とろけるおいしさ!手作り生キャラメルに挑戦」でも解説しましたが、みりんに含まれるブドウ糖は、砂糖のショ糖よりも「メイラード反応」を起こしやすく、料理に焼き色や香ばしい風味をつけるのに役立ちます。砂糖だけだと伊達巻らしいこんがりとした焼き色がつきにくいので、ぜひみりんも加えてください。

 みりんがない場合はハチミツで代用しても良いでしょう。ハチミツに含まれるブドウ糖や果糖も、メイラード反応を起こしやすい糖の仲間です。酒大さじ1とハチミツ小さじ1弱(5g)でみりん大さじ1杯分になります。

準備
卵焼き器の上にアルミホイルをかぶせて、蓋になるよう形を整えておく。

1.生地を作る(ポリ袋を使って作る場合)

厚手のポリ袋にはんぺんを入れ、外から手でよく揉んで潰す。
ボウルに卵と*の調味料を入れてときほぐしたら、潰したはんぺんを加えてざっくり混ぜる。

1.生地を作る(フードプロセッサーやブレンダーを使って作る場合)

はんぺんを小さくちぎって容器に入れ、*の調味料を入れて撹拌する。
ある程度ペースト状になったら卵を加えてさらに撹拌する。完全に混ぜ合わせるのは手順2で行うので、この段階ではなるべく空気が入らないよう注意して短時間の攪拌にすること。

ポイント

フードプロセッサーやブレンダーを使うとポリ袋で潰すよりも生地がなめらかになるので、伊達巻の表面も、よりなめらかにきれいに仕上がります。 
一方で、撹拌する際に空気を抱き込みやすいのが難点です。生地に空気が多く含まれていると、加熱したときに気泡が膨張して生地が膨らみ、分厚く巻きにくくなります。また、生地が膨らむことで卵焼き器に接する面に凸凹が生じ、焼き色がつきにくい箇所ができてしまうので、見栄えにも影響します。

2.ザルでこす

ボウルに目の細かいザルを重ねて1を流し入れる。ヘラなどを使ってこし、なめらかにする。こし終えた生地をヘラでよく混ぜ合わせる。

3.焼く

卵焼き器を火にかけて温め、油を薄く塗る。ただしフッ素加工の卵焼き器を使う場合は、油を塗らないほうが焼き色が均一についてきれいに仕上がるので、油は塗らないほうが良い。
一度火からおろし、2を注ぎ入れ、準備しておいたアルミホイルを被せる。卵焼き器が熱くなっているので、火傷しないよう鍋つかみなどを使うと良い。
火加減をごく弱火に調節し、卵焼き器を戻して10分ほど焼く。

4.裏返す

焼き色が十分についたら裏返す。縁のない平皿か、裏返したバットを使うとやりやすい。フライ返しなどを使って生地をスライドさせ、焼き目を下にしたままお皿やバットに取り出し、その上に卵焼き器をかぶせてひっくり返す。そのまま2分程度焼く。

5.取り出す

巻きす(または鬼すだれ)を広げた上に、焼き色のついたほうを下にして生地を乗せる。巻いたときに内側になる部分に1〜1.5cm幅に3本、浅く切れ目を入れる。

6.巻く

切れ目を入れた部分が内側になるように半分ほど巻き、その状態で30秒ほど押さえて巻きぐせをつける。それから今度は全体を、しっかり隙間のないように巻いて形を整え、巻きすを巻いた状態で輪ゴムで強く縛って固定する。

ポイント

時間が経つと生地が硬くなって巻きにくく、ひび割れなどの原因になるので、熱いうちに成形しましょう。
巻くときは、⻤すだれ(写真左)を使うと表面の波模様がきれいにできます。ない場合は普通の巻きす(写真右)を使っても良いでしょう。巻きすは巻き寿司や卵焼きの成形、⻘菜の水切りなどにも使えます。

7.仕上げ

1〜2時間して完全に冷めたら巻きすをほどく。好みの厚さに切り分けて出来上がり。

砂糖の役割

 

 

伊達巻の仕上がりに関わる重要な材料が砂糖です。甘味をつける調味料というイメージが強いですが、食感にも影響を与えます。
卵に熱を加えると、タンパク質同士が絡み合い、つながって固まる「熱凝固」という現象が起こります。これによって液状だった卵液が固まり、卵焼きや茶碗蒸しなどの料理ができるのです。伊達巻を作るのにも凝固の作用が不可欠ですが、凝固が進みすぎると生地が硬くなり、水分が押し出されてパサパサしてしまいます。
砂糖にはこの凝固を邪魔するはたらきがあります。卵液に砂糖を加えると、凝固がほどよく抑えられるため、ふんわりと柔らかい食感を保ちながら、全体にしっかり火を通すことができます。一方、砂糖を入れすぎると生地がなかなか固まらず、ひっくり返したり巻いたりするのが難しくなるので、ほどほどにするのが良いでしょう。
また、糖には水分を捕まえて逃さないようにする「保水性」という性質もあります。おせちには、伊達巻以外にも砂糖を使った料理が多いですが、これらは糖の保水性によって、時間が経ってもしっとり感が長持ちするのです。

今回のレシピでは、しっとりやわらかく仕上げつつ、成形しやすい程度に砂糖の量を調節しました。甘さ控えめが好きな場合は、砂糖を半分に減らし、しっとり感を補うために出汁大さじ2を加えてください。加熱するほど凝固が進むので、焼き過ぎに注意し、生地が固まったらすぐに裏返すようにしましょう。

 

1/26(木)更新の次回では、「家族で楽しくチーズフォンデュ」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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