子どもと楽しむ料理の科学

調理の仕方によって変わる食感 大根七変化

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

様々な食べ方を楽しもう

日本の食卓になじみ深い野菜のひとつ、大根。日本人と大根の付き合いは長く、奈良時代に完成した歴史書『古事記』や『日本書紀』にも登場します。

その魅力のひとつが調理方法の幅広さです。江戸時代には『大根一式料理秘密箱』『大根料理秘伝抄』といった大根料理の専門書も刊行されたそう。生でサラダや和え物に、加熱して汁物の実や煮物に、おろして薬味やみぞれ煮に。素材自体は淡白なので、ステーキにしたり唐揚げにしたり、油を使って調理するとコクが加わり、味わいが広がります。手のかけ方によって食感や味わいが変化するので、1本丸ごと買っても飽きずに食べ切れますよ。

今回は、食感や味わいの変化に着目して大根の調理方法について紹介します。

大根とポン酢で作るいろいろサラダ

①シャキシャキ細切り大根の大葉サラダ

材料(2〜3人分)

・大根 5cm
・大葉 2枚
・ポン酢 大さじ2
・オリーブオイル 大さじ1

大根は繊維と平行に、太さ2〜3mmの細切りにする。大葉は千切りにする。

大葉と大根を水にさらし、ザルに上げて水気を切る。

ポン酢とオリーブオイルを混ぜ合わせてドレッシングにする(お好みの和風ドレッシングで代用してもOK)。

大根と大葉を器に盛り付け、食べる直前にドレッシングをかけてできあがり。

②パリパリ薄切り大根の梅おかかサラダ

材料(2〜3人分)

・大根 5cm
・ポン酢 大さじ2
・ごま油 大さじ1
・梅干し 1個
・鰹節 2g程度(小袋1パック)

大根は薄いいちょう切りにして水にさらし、ザルに上げて水気を切る。

梅干しは種を除いて細かく刻み、ポン酢、ごま油と合わせてドレッシングにする。

 

大根を器に盛り付け、食べる直前にドレッシングと鰹節をかけてできあがり。

ポイント

大根サラダは切り方を変えるだけで雰囲気も食感も変わります。大根の繊維は、葉のついた部分から根の先に向かって伸びているので、繊維を残すように縦の千切りにすると、噛んだときにジャキジャキと歯ごたえのある食感になります。反対に、繊維を断ち切るようにスライスすると、サクサクパリっと歯切れがよくなります。

 

加熱して食べるときにも切り方を使い分けると、それだけでレパートリーが広がります。同じ大根の味噌汁でも、細切りや短冊切りにしてさっと煮ればシャキシャキとした食感を楽しめますし、厚めのいちょう切りにしてよく煮れば、ほっくりと優しい仕上がりになりますよ。

 

③しんなり細切り大根のツナマヨサラダ

材料(2〜3人分)

・大根 5cm
・ツナ 1缶(70g)
・ポン酢 小さじ1
・マヨネーズ 小さじ2(約9g)
・塩 小さじ1/5程度
・粗びき黒こしょう 少々

大根は繊維と平行に、太さ2〜3mmの細切りにする。

塩を加えてざっと混ぜる。5分程度置いてしんなりとしてきたら、水気をよく絞る。

ツナは缶汁を軽く切る。

大根にツナ、ポン酢、マヨネーズを加えて和える。ラップをして冷蔵庫で20分以上なじませる。

器に盛り付けて粗びき黒こしょうをかけてできあがり。

④しんなり薄切り大根のナムル風

材料(2〜3人分)

・大根 5cm
・ポン酢 小さじ2
・ごま油 小さじ2
・すりごま 小さじ2
・塩 小さじ1/5程度

大根は薄いいちょう切りにする。

塩を加えてざっと混ぜる。5分程度置いてしんなりとしてきたら、水気をよく絞る。

大根にポン酢、ごま油、すりごまを加えて和える。ラップをして冷蔵庫で20分以上なじませる。

ポイント

 生の野菜に塩を振ってしばらく置くと、水分が出てしんなりとします。また、切った生野菜を水にひたすと、細胞が水を吸って膨らみ、パリッとハリが出て歯切れがよくなります。これはどちらも「浸透圧」の作用によるものです(詳しくは「浸透圧で春キャベツをおいしく!」で解説しています)。

 大根を生で食べるときも同様です。シャキシャキパリッとした食感を楽しみたいときには、切った後でさっと水にさらすとよいでしょう。辛味やアクを抜いて食べやすくする効果もあります。長くさらしすぎると味や栄養が抜けてしまうので、長くても5分以内にするのがよいでしょう。

ドレッシングには塩分が含まれるため、早いタイミングでかけてしまうと、塩を振った場合と同様に浸透圧によって野菜の水分が出てきます。ドレッシングが薄まってしまいますし、野菜のハリも失われるので、食べる直前にかけるようにしましょう。

 逆に、ナムルや和え物のように調味料の味をなじませる料理では、まず塩もみをして水分を出し、しんなりとさせてから味付けします。細胞から水が出てしぼむと、細胞を囲む細胞壁と細胞の間に隙間ができるため、味がしみ込みやすくなります。また、あらかじめ水分を出しておくことで、調味してから時間が経っても水分が出てきにくくなります。

大根おろしの辛味にひと工夫

 

 大根は複数の品種を産地を変えて生産しているため一年を通して食べられる野菜ですが、季節ごとに味や食感に特徴があります。冬の大根は寒さに耐えるため甘みが強く、煮物向き。一方、春の大根はみずみずしく生で食べるのにぴったり。今回紹介したサラダなどに使うと魅力が引き立ちます。
 これから出てくる夏大根は、辛味が強いので大根おろしにして薬味などに使われます。大根をおろすと細胞組織が破壊され、酵素が作用することでイソチオシアネートという成分が生じます。これが大根のピリリとした辛味の正体です。

 イソチオシアネートの生成量は先端に行くほど多くなるので、辛い大根が好きな人には先端の方を、辛いのが苦手な人には葉に近い上の方を使うと良いでしょう。また、おろしてから時間が経つとイソチオシアネートが減少し、辛味が抜けていきます。辛いのが好きな人はおろしたてを、苦手な人は食べる30〜60分ほど前におろしておいた大根おろしを使うのがおすすめです。

5/25(木)更新の次回では、「マリネでジューシー! こんがりチキンソテー」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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