子どもと楽しむ料理の科学

葛粉でなめらか、喉ごしひんやり水羊羹

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

暑い夏を乗り越える 冷た~いお手軽スイーツ

ひんやりつるりと心地よい食感の水羊羹。贈答品やお店で買って食べるイメージが強いかもしれませんが、実は材料も作り方もとってもシンプル。寒天を水で煮溶かし、砂糖やあんこを加え、冷やし固めるだけなので、家でも手軽に作ることができます。寒天の量を少なくしてふるふるとやわらかい食感にしたり、砂糖の量を調節して好みの甘さに仕上げたりなど、自分好みの配合を探るおもしろさもあります。夏のおやつに、お子さんと挑戦してみるのもいいですね。

 今回は水羊羹の作り方を紹介し、寒天の性質や、水羊羹を失敗なく作るコツについて解説します。

水羊羹

材料(4〜5人分)

・水 200ml
・こしあん 150g
・砂糖 20g
・粉末寒天 1.5g
・葛粉 1.5g(なければ片栗粉)

 

・分量は12×7.5×4.5cmの流し型1台分です。タッパー(容量400ml程度)やバットを使ったり、プリン型や小鉢に1人分ずつ作ってもOKです。

・あんこは市販のものでOK。今回はこしあんで作りましたが、お好みで粒あんや白あんなどを使ってもよいでしょう。残った分は冷凍保存できます。

 

1.寒天液をつくる

小鍋に水と粉末寒天を入れて火にかける。沸騰したら弱火にし、かき混ぜながら2分ほど加熱して、しっかりと寒天を煮溶かす。

ポイント

液体をゼリー状に固める材料として身近なものに、寒天とゼラチンがあります。寒天は、紅藻類こうそうるいという海藻から作られ、アガロースなどの食物繊維が主成分となっています。一方のゼラチンは動物の骨や皮に含まれるコラーゲンというタンパク質を抽出したものです。

アガロースもコラーゲンも繊維状の成分で、水にひたして加熱すると繊維がバラバラになって水の中に散らばります。これを冷やすと、繊維同士が絡み合って立体的な網目を作り出し、この中に水が閉じ込められるため、ゼリー状に固まります。

アガロースとコラーゲンは、固まる仕組みはよく似ていますが、溶かすときの加熱の仕方や固めるときの適温が異なるので注意が必要です。

アガロースを主成分とする寒天は80〜100℃で溶けるため、沸騰させながらよく煮溶かす必要があります。また、加熱によって寒天の成分と水がよくなじむため、よく煮た寒天は時間が経っても水分が滲み出にくくなります。粉末寒天を熱湯に入れて混ぜるとすぐに溶けたように見えますが、そこからもうしばらく加熱を続けましょう。凝固温度は25〜35℃なので、真夏の暑い時期でなければ室温でも固まります。

一方、コラーゲンは熱に弱く、高温で加熱すると分解して繊維が短くなるため、固まりにくくなります。溶かす際の適温は商品によって異なりますが、ゼラチンを入れたら沸騰させないというのが基本です。3〜10℃で固まるので、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やし固めましょう。

寒天とゼラチンの違いについては、「シロップの濃度が見栄えを決める!ひし形模様の牛乳かん」でも詳しく説明しています。こちらもぜひご覧ください。

2.砂糖とこしあんを加える

砂糖を加えて1分ほど加熱したら一度火を止める。こしあんを加え、なじませるように混ぜてなめらかにする。

ポイント

砂糖は、寒天が溶けてから加えましょう。寒天が水に溶けるためには、寒天の分子と水の分子が結びつく必要があります。しかし、砂糖は水分子を引きつける力が非常に強いため、先に砂糖を入れてしまうと寒天が溶けにくくなります。

3.葛粉を加える

再び火にかけ、ふつふつとしたら、葛粉を水大さじ1(分量外)で溶いて加える。

ポイント

葛粉は水羊羹を作るのに必須の材料ではありません。しかし、ごく少量加えると口当たりがなめらかになり、仕上がりの食感が格段によくなります。寒天から水分が滲み出してくる「離漿りしょう」を防ぐ効果や、次のポイントで解説するあんこの分離を抑える効果もあります。

葛粉はクズという植物の根からデンプンを精製したもの。水に溶いて加熱すると片栗粉のようにとろみがつくので、砂糖を加えて葛湯として飲んだり、和食のとろみづけに使ったりします。また、冷やすとゼリーのように固まるため、水まんじゅうなどの和菓子やごま豆腐などの材料としても用いられています。

今回のような用途では片栗粉でも代用可能ですが、葛粉のほうがでんぷんの粒子が細かく、よりなめらかに仕上がるので、できれば葛粉を使う方がおすすめです。余ったら、あんかけなどのとろみづけに使ったり、ねりごまを使ってごま豆腐作りに挑戦したりするのもいいですね。

4.粗熱を取る

ひと煮立ちしたら火からおろす。水を張ったボウルに鍋ごとひたし、ヘラで混ぜながら、40℃程度(お風呂の湯加減くらい)まで冷ます。

ポイント

あんこに水を加えてよく混ぜ合わせると、一時的には混ざり合いますが、これは完全に溶けているわけではありません。そのため、静かに置いておくとあんこの粒子が徐々に沈殿していきます。水羊羹を作る場合も、熱い状態で型に流してしまうと、冷ましている間にあんこが沈んで寒天液と分離してしまいます

これを防ぐため、粗熱が取れるまでは液を混ぜながら冷ましましょう。寒天は30℃前後で固まるので、それよりやや熱いくらいの温度になったところで型に流します。なお、手順3で加える葛粉にも、とろみをつけてあんこを沈みにくくする効果があります。

冷ますときは、水を張ったボウルに鍋ごとひたすと早く熱を取ることができます。これは、空気よりも水の方が熱を伝えやすいためです。最初のうちは、すぐに水が熱くなるので、何回か交換しながら冷ましましょう。氷水を使うとより早く温度を下げることができますが、鍋に接する部分が冷え過ぎて、そこだけ寒天が固まってしまうことがあるので、水を使う方が失敗しにくいです。

5.型に入れる

容器や型に流し入れ、ふんわりとラップをする。冷蔵庫で2時間以上冷やしてできあがり。

ほろり、つるんと心地よい食感に

 

ゼラチンと寒天は溶かし方や固まる温度が違いますが、できたゼリーが融解、つまり液体になる温度も異なります。ゼラチンで固めたゼリーは25℃前後でとけ始めます。口に入れると体温でとろけるので、やわらかく口どけがよいのが特徴です。

一方、寒天ゼリーがとける温度は70℃より高く、人の体温ではとけないのでつるんとした喉ごしになります。ただし寒天を入れ過ぎるとかたくなってしまうので、今回のレシピでは寒天の量が最小限となるよう、水200mlに対して寒天を1.5gに抑え、口の中でほどけてほろり、喉ごしつるんと心地よい食感をめざしました。

しかし、寒天の量が少ないと「離漿りしょう」という問題が起こりやすくなるという難点があります。寒天の繊維でできた網目は、時間が経つにつれて徐々に縮んでいくので、中の水分が押し出され、しみ出してきます。これを離漿と言います。

離漿は固めてから時間が経つほど進んでいくので、寒天で作ったゼリーや水羊羹は、なるべくでき立てを食べるのがおすすめです。型から出したり、切って表面積が大きくなったりすると水分が出やすくなるので、食べる直前まで型に入れておきましょう。また、温度が高いほど離漿が進みやすいので、冷蔵庫に入れてなるべく低温で保存してください。

7/27(木)更新の次回では、「夏の自由研究に! 手作り豆腐を作ろう」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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