子どもと楽しむ料理の科学

夏の自由研究に! 手作り豆腐を作ろう

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

食べ方いろいろ おうちで作れるお手軽豆腐

夏はひんやり冷奴、冬はほかほか湯豆腐に、お味噌汁や鍋の具に入れてもおいしい豆腐。どうやって作られているかご存知でしょうか。水にひたした大豆をすりつぶし、加熱、濾過すると豆乳とおからができます。そして、この豆乳に「にがり」などの凝固剤を加えて固めたものが豆腐です。

私たちがふだん食べている絹ごし豆腐や木綿豆腐は、大豆から作ろうとすると手間と時間がかかりますが、市販の豆乳から作る「おぼろ豆腐」ならとっても簡単。温めた豆乳ににがりを入れて10分待つだけです。でき立てならではのふわふわとろりとした食感が手軽に楽しめます。

今回は、豆腐が固まる仕組みについて解説し、手作り豆腐の作り方や失敗しないコツを紹介します。

おぼろ豆腐

材料(4人分)

・無調整豆乳(大豆固形分10%以上) 600ml
・にがり 大さじ2程度(パッケージに記載がある場合はそれに従う)

1.加熱する

鍋に豆乳を入れて火にかけ、やさしくかき混ぜながら加熱する。

温度計を使用し、75℃になったら火を止める。

2.固める

へらなどでかき混ぜながら、にがりを回し入れる。にがりが全体に行き渡るよう手早く混ぜ合わせ、鍋に蓋をして10分程度置いておく。

3.完成

固まったら穴じゃくしなどで器によそい、温かいうちに食べる。

まずはそのまま、お好みで醤油を少量垂らしてもよい。

ポイント

おぼろ豆腐を失敗なく作るためのポイントは「豆乳の選び方」「温度」「混ぜすぎない」の3つです。

 

大豆固形分10%以上の無調整豆乳を選ぶ

豆乳は大きく分けて「無調整豆乳」「調製豆乳」「豆乳飲料」の3種類があります。無調整豆乳とは大豆と水だけを原料にして作られた豆乳です。一方、調製豆乳は砂糖や塩などを加えて飲みやすくしたもの、豆乳飲料は果汁やコーヒーなどの味付けがされたもので、大豆と水以外の材料が含まれています。豆腐作りには無調整豆乳を使いましょう。

また、大豆固形分の確認も忘れずに。大豆固形分とは、豆乳から水分を取り除いて残る大豆の成分のこと。これが豆腐の骨格になるので、大豆固形分が多いほどしっかり密度のある豆腐になり、少ないとほろほろともろい豆腐になります。無調整豆乳の規格では、大豆固形分は8%以上と決められていますが、豆腐作りには10%以上あった方が豆腐らしい質感になります。

 

豆乳の温度は70〜80℃

にがりを加えるときの豆乳の温度も重要です。温度が低いとうまく固まりませんし、高過ぎると、かたくてきめの粗い豆腐になってしまいます。温度計を使って測りながら作ると、食感よく、きちんと固まります。

冬場は火を止めた後、豆乳の温度が下がりやすいので注意が必要です。うまくいかないときは厚手の鍋を使う、鍋をタオルなどで包んで保温する、80℃程度のお湯で鍋を湯煎するなどの工夫をしてみるとよいでしょう。

 

にがりを加えたら混ぜすぎない

にがりを加えると、豆乳はすぐに固まり始めます。固まっている最中も混ぜ続けていると、豆腐が大きい塊になれずに小さい粒状に散らばるため、ザラザラとしてしまい、プルンとやわらかい豆腐になりません。豆乳をかき混ぜて渦を作ったところににがりを流し入れたら、渦をさえぎるようにざっと逆向きに混ぜると、短時間でにがりをまんべんなく行き渡らせることができます。あとは触らず、静かに置いておきましょう。

 

 

食べ方いろいろ

・ザル豆腐にして食べる

小さめのザルの上に清潔な布(さらしなど)を広げて、ボウルの上に重ねる。

でき立てのおぼろ豆腐をおたまなどで移し入れ、20分程度置いて水切りする。

 

器に取り分け、醤油や薬味を乗せて食べる。

・ゆし豆腐汁(沖縄の郷土料理)にして食べる

(材料は2人分)

だし汁200mlを鍋に入れて温める。醤油小さじ1と塩少々でやや濃いめのすまし汁にする。

できたてのおぼろ豆腐2人分を、穴じゃくしですくい入れてできあがり。

お椀に注ぎ、お好みでネギなどの薬味を入れて食べる。

豆腐が固まる仕組み

 

豆腐の原料である豆乳には、油脂やタンパク質がコロイドと呼ばれる小さな粒の状態で含まれています。これらは互いに反発し合うことで水に溶けず、塊にもならず、粒のまま水の中を漂っています。一方、にがりの主成分である塩化マグネシウムには、コロイドの粒同士が反発し合う力を弱める作用や、タンパク質同士を結びつけるはたらきがあります。

したがって、豆乳ににがりを加えると粒同士の反発が弱まり、引き寄せ合う力のほうが強くなります。油脂の粒の周りにタンパク質の粒が集まって小さなブロックを作り、このブロックがつながって網目のようになります。この内側に水が抱え込まれることで、プルンとした豆腐のかたまりになるのです。

葛粉でなめらか、喉ごしひんやり水羊羹」で詳しく説明していますが、分子が網目を作り、その中に水分が抱え込まれるという仕組みは、寒天やゼラチンで作るゼリーとよく似ています。しかし、ゼリーにおもしを乗せても水分はあまり出てきませんが、豆腐におもしを乗せると、網目に亀裂が生じて水分がしみ出てくるという違いがあります。このような性質を持つかたまりを「カード」と呼びます。木綿豆腐はこのカードの性質を利用したもの。木綿を敷いた箱に固まり始めた豆腐を入れ、おもしで水分を抜いて作られます。

牛乳も凝固させるとカードを形成します。エメンタールやパルミジャーノなどのハードタイプのチーズは、木綿豆腐のように牛乳のカードを圧縮し、水分を抜いて作られています。

 

 

8/24(木)更新の次回では、「知ってる? 食材を長持ちさせる工夫」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

まだZ会員ではない方へ

プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

関連リンク

おすすめ記事

ひな祭りのお祝いに 手作り甘酒ひな祭りのお祝いに 手作り甘酒

子どもと楽しむ料理の科学

ひな祭りのお祝いに 手作り甘酒

電子レンジでこんがりと 焼かない焼き豚電子レンジでこんがりと 焼かない焼き豚

子どもと楽しむ料理の科学

電子レンジでこんがりと 焼かない焼き豚

ぶりの照り焼き ふっくら香ばしくするには?ぶりの照り焼き ふっくら香ばしくするには?

子どもと楽しむ料理の科学

ぶりの照り焼き ふっくら香ばしくするには?


Back to TOP

Back to
TOP