【公立中高一貫校受検記】父が見てきた“学びを楽しむ子ども”の育ち方

中学受検を経て高校生になった息子の今と今後

充実した中学3年間を終え、息子さんは内部進学で高校生に。卒業後の進路のことも意識するようになり、ますます勉強にも熱が入っているのだとか。今回は最終回として、受検とその後の学校生活を振り返って、保護者として思うことを書いてくださいました。

教育系の記者として、公立中高一貫校への取材経験を多数おもちの著者・堤谷孝人さん。
父として、お子さんの中高一貫校受検をすぐそばで見てきたご経験を綴るエッセイの第12回(最終回)です。
第11回まではこちら

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さまざまな分野に関心のアンテナが立った中学3年間を終えて、息子は受験勉強をすることなく、そのまま高校に内部進学しました。中学受検を乗り越えた分、中3の1年間を自分のしたいことに使える自由度が魅力ですね。中学の多感な思春期に、仲の良い友だちと比較的穏やかで安定した日々を過ごすことができ、高校生となった息子は情緒が大きく乱れることもないまま、学校生活を楽しんでいます。

3年間を一緒に過ごしてきた友だちと迎えた入学式当日。内部進学生の息子たちが緊張なくその日を迎えているのと比べると、もう半数の外部生(高校から入学する生徒)は緊張した、あるいは気を張ったような面持ちに見えました。

息子の学校では、高校1年時のクラス編成は内進生だけのクラスと外部生だけのクラスとに分かれます。外部生は友だちづくりにかなり神経をつかうそうで、入学前からネット掲示板などで友だちづくり活動をする生徒も少なくないのだとか。しかし、内進生たちの多くは新しく知り合える外部生に興味津々で、自分から話しかけ、話しかけられもしやすいように振る舞う息子のような生徒もいますし(笑)、探究型授業や課外活動などを通じて交流する機会もあるそうなので、話を聞いている限り、実際には友だちづくりが特別難しいということはなさそうです。

高1の夏には、希望者だけのオーストラリア短期留学というものがあり、息子は同じホストファミリーにお世話になったA君と、とても仲良くなることができました。

また、「部活にはいくつでも所属してOK、新しく部活をつくることもOK」という学校なので、息子は中学まで所属していた部に加え、高1から映像関係の部に入り、さらに友だちと部を創設するための準備に取り組んだりもしています。

▲ホストファミリーのために息子が2時間かけて作った餃子。とても喜ばれたとのこと
▲現地ではボートでの釣りも体験

  *  *  *

 

さて、勉強面ですが、高2からはコース選択があり、卒業後の進路を意識する機会が増えてきました。海外の教育で重視される「リベラル・アーツ」や「STEAM教育」は日本の教育界でも注目されていますが、息子の学校は中高ともに英語で他教科を学んだり、アートや世界の多様な文化にふれたりといった機会が豊富です。刺激を受けた息子は海外大学への進学を意識しており、英語力のさらなる向上や海外文化への理解などにも力を入れています。

もし海外大学に進学したら、息子はどうなっていくのか。親がまったく知らない世界に挑戦する息子の姿を、ワクワクしながら見守っています。

*リベラル・アーツ…幅広い教養と深い専門知識を身につけ、さまざまな変化や困難の中でも個の能力を発揮して自由に生きていく力をつけることを目指した学びのこと。

*STEAM教育…Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5単語の頭文字を組み合わせた教育概念で、学問領域の枠を横断して考える力や、新たな着眼点を育てることを意図している。

 

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最後に、息子が高校生になった今、中学受検を振り返って思うことを書いてみます。

わが家の場合、中学受検を早くから考えていたわけではありませんでした。ただ、「自分で考えて決められる子になってほしい」という強い思いは、息子が生まれたときからありました。とはいえ、幼い子どもがはじめから何でも自分で決められるわけはありませんから、幼児期や小学校低学年のときは長期休みのスケジュールを立てることを当たり前とし、親も一緒になって考えました。次第に家族旅行のプランも息子が考えるようになり、楽しんでしおり作りをするようにもなりました。そして、小学校高学年になると息子だけで長期休みのスケジュール表を完成させることができ、受検期の学習スケジュールも自分でつくって、自主的に無理なくこなしていきました。

中学受検に関しても、本人が「挑戦する」と決めたわけですが、それ以前から水泳やそろばん、山登りや自転車旅などをとおして「挑戦すること」を楽しんでいた息子にとっては、決して苦しいものではなく、ゲームをクリアするのと同じように、辿り着きたい目的地のうちの一つだったようです。

日ごろ「努力しているという意識すら働かないほどに淡々と続けることが、最良の結果を得られる方法だ」と思っていた私でしたが、それを超えて、「挑戦を楽しむ」姿が見られたことは、何よりも嬉しいことでした。

入学後は多才な友だちや、自由で自主的な行動を後押ししてくれる学校環境のおかげで、たとえ大きな、あるいは遠い目標であっても、私という補助輪がなくとも自分で目標を立て、それを達成するための道程も考えられるようになっていきました。

「子どもの自立」は親にとっての子育ての最終目標の一つですが、それは学校や学びに限らず、生活全般、さらにいえば「自分の生き方に責任をもつ」ということではないかと思います。この先はもう、親が手を貸さなくても自分の力でそれなりに生きていけるのでしょう。

自立の基盤をつくる機会となった中学受検、その後の成長を支えてくれた学校に、とても感謝しています。

最後に、受検をして公立中高一貫校に合格し、現在に至るまでの感想を、妻と息子に聞いてみました。

 

妻より「中学受検が近づき夜遅くまで勉強する息子を見ながら、私も不安になり体の不調を感じたこともありました。合格後は、学校の手続き、新居探し、転居手配など大変でしたが、受検という一大決心をし、家族が一つの目標に向かって一致団結して進んだことは、とてもよい経験になりました」

息子より「受検は、今となっては自分がいつかするはずだった努力の前借りだったのかな、と思います。でも、受検で合格したら終わりではもったいないので、ヘンに力を抜かないようにしています。毎日『今は通過点だ』と思って、勉強しています。 受検で得られたものは『さあ!』と思ったときに発揮できるようになった集中力と、よい友だちや環境と出会えたことです。入学がコロナ禍の年だったので、最初は友だちに会えなかったけれど、その分オンラインを活用する場面が多く、勉強の仕方や友だちとのかかわり方が広がりました」

プロフィール

堤谷 孝人 (つつみたに たかひと)

関西在住。2004年から子ども関連(保育・育児・教育)の取材、編集、制作をフリーランスで行う。職業柄、スーパーキッズや学校、教育機関などの取材をする機会多数。2008年、京都市立西京高等学校附属中学校を取材したことをきっかけに公立中高一貫校に強い興味をもつように。その後、長男が関西の公立一貫中学に合格。受検にあたりZ会小学生コース「公立中高一貫校適性検査」「公立中高一貫校作文」を利用した縁で、2023年4月よりこの連載をスタート。

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