特集

子どものストレス 〜「心の筋肉」を鍛えて上手につきあうには(2)

不安な考えから抜け出すには身体に意識を向けること

――具体的に、どうすれば不安やストレスと上手につきあうことができるのでしょうか。

不安やストレスというのは、これから起こるできごとに対して、「そのことが起こったらまちがいなく不幸になる」ととらえるときにその強さを増すものなんですね。でも、ご自分が不安になったり悩んだりしたときの体験を振り返ってみると、実は自分の妄想に振り回されていることが多いでしょう? たとえば「○○さんに無視されている」と感じているとします。でもそれは自分がそう感じるだけで、必ずしも真実とは限らない。あるいは「○○さんがそう言っていたわよ」といった、確かではない情報に踊らされて真実だと思い込んでしまう。そこから「二度と口をきいてもらえないかも」「全員から仲間はずれにされたらどうしよう」と、どんどん悪いほうへ妄想が膨らんでしまうんですよね。

そんなときは、「妄想して不安になること」に自分の力を使うのではなくて、しっかりと確かな情報を集めて事実を把握し、そのうえで今自分にできることを選んで「実行すること」に力を使うのです。

たとえ「○○さんがわたしを無視している」のが事実だとわかったとしても、それが「全員から仲間はずれにされる」ことに必ずしも発展するとはかぎりません。「無視されるのはつらい。だったら今、自分はどうしたらよいのか、今できることに力を尽くそう」と、不安に向けられていた意識を、不安を緩和する方策へと向ければいいんですよ。

――しかし頭の中が不安でいっぱいのとき、そこから意識を離すのは難しいのでは?

よい方法があるんです。頭でいろいろ考えてしまうとき、身体に意識を向けると、妄想の悪循環から抜け出しやすくなるんですよ。たとえば下で紹介するような「呼吸に意識を向ける」、「足の運びを意識しながら歩く」、といった方法なら、小学生でもできますよね。「そんな簡単なことで本当に不安から抜け出せるの?」と思われるかもしれませんが、意識が身体に引っぱられると、よけいなことを考えられなくなる。そのうち気持ちが落ち着いてきて、物事を冷静に観られるようになるんです。

もしお子さんが何か不安やストレスを抱えているようだったら、「生きていると、いろいろと悩んだり、どうしたらいいかわからなかったりすることがあるよね。じゃ、呼吸でおなかが膨らんだり引っ込んだりするのを感じて気持ちを落ちつけてから、それについて一緒に考えてみようよ。こうすると、よいアイディアが浮かびやすいんだよ」と言ってあげてください。

もちろん、頭は遅かれ早かれ、よけいな妄想を始めてしまうかもしれませんが、それは人の心の性質ですから、あたりまえのこと。「また考え始めちゃったな。呼吸に意識を戻そう」と心の中でつぶやき、そっと意識を身体に戻せばいいだけです。

この練習を繰り返していると「心の筋肉」がついて、不安なことがあってもそこにのめり込まず、いったん脇に置いておくことができるようになるんですね。そうなると、心が不安に支配されることがなくなり、ストレスにもかなり強くなるはずですよ。

不安から離れるためのエクササイズ

呼吸に意識を向ける


1. いすや床や畳の上などに座ります。そのとき、背骨はまっすぐ伸ばしますが、それ以外の部分はできるだけゆったりさせます。


2. 自分の意識を、体がいすや床、畳に触れている部分に向け、1~2分その部分がどんな感じがするかを感じてみます。


3. 息を吸うたびにお腹の皮が少し引っぱられる感じ、息を吐くたびにお腹がすうっとへこんでいく感じに注意を向け続けた呼吸を続けてみましょう。


 

ポイント
呼吸をコントロールしようとしないこと。
ただ自分の呼吸と一緒に起こる体の感覚に耳をすませましょう。

ゆっくり歩く


1. 両足を10~15センチほど開き膝の力を抜いて立ちます。腕の力を抜いて視線はまっすぐ前に向けます。両足の裏に意識を向けて、地面と接触している部分を感じてみます。


2. 体重をゆっくりと右足へ移します。左足の重みがなくなったら、左足のかかとを床からゆっくりと上げ、親指だけが床と触れている状態になるまで左足全体をやさしく上げていきます。


3. 空中を動く左足の動きを感じながらかかとを前方の床につけ、体の重みが徐々に左足に移るのを感じます。


4. 視線はまっすぐのまま、足の裏が地面に触れている部分や、足の重みなどを意識しながら一連の流れを繰り返して歩きます。


 

ポイント
足の重みが移動していく感覚や足の裏の感覚に意識を向けて、スローモーションのようにゆっくりと歩いてみましょう。

不安やストレスを観察の 対象として、「ただ観る」

――いったん脇に置いた問題は、その後どうすればいいのですか。

呼吸なり足の運びなりに集中して心が落ち着いてくると、焦って「今すぐにどうこうしなくちゃ!」とは思わなくなりますから、いったん脇に置いた問題や自分に起きている感情などを、「ただ観る」ことができるようになるんです。このときその問題や感情に対して、「よい」「悪い」といった評価や判断はしません。今何が起きているか、次に事態がどう動くのかを、科学者のように冷静な目でただ観察する。そうすると、自分にできることは何か、どんな方法を選択したらよいかを判断する力が戻ってくるんですね。

小学生ですと、まだ自分を客観視する力が弱いので、目の前のできごとや自分自身をじっと観察し続けるというのは難しいかもしれません。でもいったん脇に置くというのは小学生にでもできますし、それだけで心が軽くなりますから、お子さんにすすめてみてください。

心を客観視するのはぜひ親御さんに日ごろからやっていただきたいですね。自分のことを冷静に観察できるようになると、周りのできごとも同じように冷静に観察・判断できるようになります。お子さんのちょっとした様子の変化に気づくためにも、パニックにならず物事に対処するためにも、日ごろから心を落ち着けて「物事をただ観る」という訓練をしておくのは、すごく役に立つと思いますよ。

――子どもを心配するあまり、つい感情的になってしまうこともあると多いと思いますが、そこは冷静に観察するべきなのですね。

いえいえ、感情が発動するのは人として当然のことですから、もしカッとしたり悔しかったりしたら、そのことについて「悪いことだ」とか評価したり判断したりしないで、ただ自分の感情がどんなふうに発動して、今どんな状態になっているか、それがどう変化していくかを観ていればいいんですよ。感情を抑えようとすると、いずれ爆発するかもしれませんが、感情をただ観ていれば、それをコントロールすることができるんですね。

「わたしって、怒ると首と肩に力が入るのね」などと身体に起こる反応を観察していると、しだいに気持ちが収まっていく様子もわかると思います。「ただ観る」練習を積んでいくと、冷静な心に戻るのが早くなりますし、お子さんが不安やストレスを抱えているときにも、一緒に妄想に巻き込まれてあたふたすることなく、冷静に的確なアドバイスをしてあげることができるはずですよ。

今後どんなに文明が進んでも、人が不安やストレスを感じることは絶対になくならないでしょう。だからこそ、不安やストレスと上手につきあえる力を、そのための「心の筋肉」を、子どもたちにつけてあげることが必要なのです。わたしたち大人に求められているのは、どんなに不安な状況にあっても、ストレスに押しつぶされそうな状態にあっても、自分の可能性と人間の可能性を信頼して、さまざまな困難に冷静に対処し、生き抜いていく姿を、次の世代を生きる子どもたちに示すことではないでしょうか。

次のページでは、不安やストレスと上手につきあうための「心の筋肉」の鍛え方をいくつか紹介していきます。まずは親御さんが体験して、お子さんに見本を示してあげてください。

――ありがとうございました。

⇒次ページに続く 「心の筋肉を鍛えるエクササイズ」

プロフィール

©shimizuchieko

越川 房子(こしかわ・ふさこ)

新潟県出身。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業、同大大学院文学研究科心理学専攻博士課程単位取得満期退学、早稲田大学文学部助手、専任講師、助教授を経て、現在、早稲田大学文学学術院教授。専門は臨床心理学・パーソナリティ心理学。訳書に『子どものストレス対処法-不安の強い子の治療マニュアル』(岩崎学術出版)『マインドフルネス認知療法』(北大路書房)『うつのためのマインドフルネス実践』(星和書店)など。著書に『ココロが軽くなるエクササイズ』(東京書籍)など。

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