特集

子どものやる気を引き出す「傾聴」のしかた(3)

こんなときはどうすれば? ケース別、子どもの心を満たす傾聴のしかた

ケーススタディとして、子どもの様子に応じた傾聴のしかたを4例、松本先生にご教授いただきました。

ケース1:子どもに話を聴いてほしい様子が見て取れるが、保護者に時間がないとき

どんなに忙しくても、それを前面に出さないような雰囲気を心がけましょう。子どもは敏感に保護者の状況をうかがっています。忙しそうだったり、ほかのことにとらわれていたりする様子を見せると、話し出そうとする言葉も引っ込んでしまいます。

 

時間がないときに子どもが話しかけてきた場合、「今、忙しいから無理。」と言い放つのではなく、「ごめんね、○時まで待ってくれるかな?」と尋ねるようにします。このひと手間で子どもの心はだいぶ救われます。

 

また、時間の制約がある中で話を聴く際は、聴き始める前に、「1時間くらいはゆっくり聴けるよ」「○時までなら大丈夫。続きは夕飯のあとに聴かせてくれる?」など、時間制限の有無をさりげなく伝えるのもおすすめです。

理想は、1日のうちに子どもの話を聴く時間を日課として組み込んでおくことです。子どもが「この時間は保護者がゆっくりとそばにいてくれる」と安心できる時間帯をつくっておくと、子どもは安心して話をしやすくなりますし、そうしてつねに会話を交わす習慣をつけておくと、何かあったときに心のうちを話したり、SOSを伝えたりしやすくなります。

ケース2:「あのお友だちいやだな」などとネガティブな言葉やモヤモヤした様子が見られるとき

何かの行為を「そんなのいやだ」と拒否したとき、その言葉の裏に本音が隠れていることがあります。たとえば、「絶対に拒絶したい」「これまで経験がないから不安」「苦手な人が一緒だからやりたくない」など……。その本音をできるだけ正確に感じ取り、しっくりくる言葉を返すと、子どもはモヤモヤした気持ちを整理できて心が落ち着いたり、不安から臆病になっていたなら、尻込みしていた気持ちが変化し「やっぱり、やってみようかな」となることもあります。

また、「もう学校なんて行きたくない!」などの強くネガティブな表現は、子どもが「それくらいの気持ちなんだ」ということを訴えたくて発しています。したがって、次の例のように、その感情を言葉にして返しましょう。額面通りに受け取って騒いだり、否定したりするのはいい対応ではありません。

子: 「もう学校なんて行きたくない!」

保: 「行きたくなくなるほどつらいんだね」
「学校なんていらないって気持ちなんだね」
「学校に行くと苦しい気持ちでいっぱいになるのかな」

このように、その言葉にあらわれる感情をとらえて返すと、子どもは「わかってくれたんだ」と気持ちが安らかになります。もし子どもが言葉を続けるようなら、話したいだけ話してもらって、とことん聴き尽くしましょう。子どもの言葉の奥にある真意や本音をとらえて伝え返していけば、子どもの気持ちは落ち着いてきて、結論が出なかったとしてもまた前を向くことができるでしょう。

ケース3:子どもは話したがらないけれど、保護者から見て気になるそぶりがあるとき

元気がない、食欲がない、部屋に閉じこもったまま出てこないなど、明らかに様子がおかしいときは「聴かせて」とお願いしましょう。「何も言わないのは、言いたくないのだから、そっとしておいたほうがいい」と考える人もいますが、そうではありません。本当は聴いてほしい、すべてを吐き出したいと思っているけれど、「こんなこと、聞かせたくない」という気持ちや、「『その程度のことでなんだ』と言われたら立ち直れない」という怯えがあって心を開くことができないでいるのです。「子どもは本当は話したがっている」と信じて、声をかけてください。

きっかけづくりの方法としては、「お茶を入れたよ」「いただきもののケーキがあるよ」などとさりげなく声をかけて、子どもが気づまりにならないような肯定的な雰囲気を作り出すとよいかもしれません。しばらくお茶を飲みながら、黙って向い合っているので構いません。たとえ口を閉ざしていても、すぐに立ち去ろうとしないなら、子どもの心の中にはきっと話したいこと、聴いてほしいことがあるのです。

部屋に閉じこもって声をかけても出てこないようなら、「最近、なんだか様子が違うからちょっと心配なんだけど、何があったか教えてもらえるかな?」「なんだか心配で、話してくれると私の気がラクになるんだけど、どう?」などの言葉で、明るく、軽く、しかも本気であることが伝わるようにお願いするのがいいでしょう。「今の気持ちや思いをぜひ教えてほしい」と、何度でも真剣に伝えます。心を込めたお願いなら、3度目までには必ず何かしらの反応が返ってきます。

そして、このとき気をつけたいのは、「保護者が聴きたいから、教えてほしいとお願いする」という姿勢を崩さないことです。「聞いてやっている」ではありません。

ケース4:保護者の言葉を無視したり、「うるさい」などと反発するとき

子どもが保護者を無視したり、「うるさい」「ほっといて」などと拒絶したとき、保護者ができるのは黙ってしまうことではありません。まして、本当に距離を置いてしまってはいけません。「今はそっとしておいた方がよさそうだから」「1人で考えたいんだろうから」などというのは保護者の言い訳であり、子どもの感情と向き合いたくないという気持ちが本音にあります。

大人の目から見たら、ときには受け止めにくい行動や言葉が出てくることもあります。「ウザい」「むかつく」「どうせ言ったってわからないだろ」などの乱暴な言葉を叩きつけてくることもあるでしょう。
こういうとき、子どもは、心の中では本当は傷つき、苦しんでいることが多いのです。そうしてこういうときこそ傾聴を必要としいています。

 

子:「ウザいんだよ」
保:「そうか、顔がみえるのもいやな気持ちなんだね」
子:「わかっているなら、あっちへ行け」
保:「一緒にいたくないほどなんだね。一緒にいると苦しくなるのかなあ」
子:「うるさい」
保:「ごめんね。“うるさい”って思われるほど、いやな言葉を言っていたってことかなあ」

このように、拒絶されたなら、拒絶したい気持ちを想像して、返してあげましょう。3度このような機会があれば、必ず子どもは拒絶ではなく、自分の本音を話し出します。

子:「いつもああしろ、こうしろって指図されることがむかつくんだよ」
保:「そうか。指図される気がして、うっとうしかったんだね」
子:「もうほっといてほしいんだよ!」
保:「そう。自分のことは自分で決めたいという気持ちだったんだね」
子:「どうせ成績のことばかりじゃん。ほかのことはどうでもいいくせに」
保:「あなたは成績以外のことはないがしろにされていると思って悲しかったのね」

このように、どんな言葉も受け止め、子どもの気持ちを感じることに集中します。

もしも、口をかたく閉ざしたまま、何も話してくれないなら、「何も話したくないなら、ただそばにいさせてね」と言って、ただ寄り添っていればいいのです。部屋から力ずくで追い出されない限り、そうしましょう。「無言」も子どもの表現の一つです。こちらを向かなくても、無視しているように見えても、そばにいることがその子の助けになることがあります。それもまた、傾聴の一つの形だと考えましょう。そして、それを何度もくり返していきます。

親の傾聴する姿勢は子どもにも受け継がれる

――子どもに対する傾聴はいつまで続ければいいのでしょうか。

ひとことで言うなら、親子間の傾聴に、終わりというのはありません。子どもはいくつになっても、独立して遠くに離れても、親に自分の話を聴いてほしいものです。

ただ、親が子どもの傾聴をしっかり行えていると、いずれその立場は自然に逆転する時期がやってきます。親の世代がリタイアの時期を迎える頃、60~70代になると、孤独感を感じることがしばしば出てきます。

すると、親のやるせなさ、切なさを、今度は子が受け止める場面が出てくるでしょう。そんなとき、傾聴で自分をしっかりと受け止めてもらえた経験のある子は、必ず他者への傾聴もできるようになります。

親が辛いとき、子どもに話して傾聴してもらう。子もまた日常の中で、傷ついたり疲れたりすることがあれば、親に傾聴してもらうこともある。互いに甘え合い、分かち合える、そんな親子になっていけるのです。それは、生涯かけて熟成されていく、尊い人間関係だと言えるでしょう。

――ありがとうございました。

プロフィール

松本文男(まつもと・ふみお)

長野県佐久市出身。NPO法人日本精神療法学会理事長。NHK文化センター専任講師(松本・前橋・川越・名古屋・西宮・京都・東京)。1947年京都大学(理学部・実験心理学) 卒業。1953年東京大学大学院博士課程 (医学部・大脳生理学)修了。シカゴ大学大学院博士課程(カール・ロジャーズ研究室)修了。1983年より長野大学教授並びに郵政省専任カウンセラーを20年務める。2013年カウンセラーとしての功績により瑞宝小綬章を受章し、瑞宝章受章者の代表として皇居にて天皇陛下に謝辞を奏上する。主な著書に、『子どものやる気を引き出す「聴き方」のルール』(大和書房)、『悩む十代心の病』(東京法令出版)ほか多数。

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