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答えのない問題に立ち向かえる子に〜不確実な時代を生き抜くヒント(2)

 

変革の担い手となるために、「探究する力」を育てる

――社会変革の主体というと難しく聞こえます。具体的にはどのような力が求められるのでしょうか。

学習指導要領では「探究」という言葉を使っています。高校の学習指導要領も「総合的な探究の時間」が導入されましたし、この春から使われる教科書には、生徒自身が主体的に考え学びを深めることを目的とした「答えのない問題」が多く掲載されるようになりました。小学校の「総合的な学習の時間」でも「探究的な学習」の充実が重視されています。

――探究的な学習とは、どういうことでしょうか。

正解を導き出す学びではなく、正解のない問いと向き合いながらさまざまな研究を深めていく学習です。それも、アクティブラーニングつまり「主体的・対話的で深い学び方」で学んでいく。たとえば稲作で農薬を使うことがいいか悪いかという問いがあったとしたら、子どもたちがそれぞれ農薬の役目や問題点を調べ、お互いに情報や意見を交換し、「農薬を使わないとどうなる?」など疑問を膨らませ探究していきます。

これを重ねることで、さまざまな分野の知見や多様な意見を聞き新しい知見を創成する力がついていくでしょうし、発見することの楽しさや好奇心が育ち、また自分自身のこともわかるようになります。これがまた社会にかかわっていく力になっていきます。

 

学校で「政」と「性」を扱う動きが加速

――子どもたちの探究心を育成するために、小学校ではほかにどのような取り組みがあるのでしょうか。

STEAM教育の推進もその1つです。これは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)に、Artつまり文科系学問を加えたもので、理系文系を融合させ革新を生み出す人材を育てようという教育です。小学校でもいろいろな形でSTEAM教育が授業に入っています。

また最近は「子どものための哲学(Philosophy for Children)」といって、小学生や幼児から哲学を体験させる動きが盛り上がりを見せ、導入している小学校や保育園、幼稚園も見られます。
たとえば私がかかわっているお茶の水女子大学附属小学校では、「幸せとは何だろう」「自由ってどういうことだろう」など、正解のないテーマについてみんなで対話します。自分自身の思考の訓練という意味もありますが、ほかの子の話を聞き、それで自分の考えをどう変えていくのかという対話の部分を重視します。これも探究的なエージェンシーをはぐくむ教育の一環といえます。

さらに大きな流れとして、学校教育の中に2つの「せい」が入りつつあることがあげられます。

――2つの「せい」とは?

政と性です。
日本の教育は、子どもを社会の色に染めないことに主眼を置いてきました。知識を教えるのが教育の課題だから、教育が終わるまでは、政治や性のような大人社会の色から子どもを保護しなくてはいけないと考えていたわけです。
しかし今はその前提が崩れてきています。

――社会の担い手になってほしいのに、社会を見せないというのでは、確かに矛盾しますね。

はい。むしろ積極的に政治や性について学ぼうという動きが大きくなっています。
私はシティズンシップ教育を推進しています。シティズンシップ教育とは、民主主義に参加する市民を育成する教育のことで、政治に参加するスキルとしての情報収集力や判断力、批判力、対話力などを育成します。これを総合的な学習の時間や教科の授業に取り入れる学校は増えています。実際に昨今、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんのように、政治に関心をもち意見を発信する小中学生が、日本でも見られるようになっています。

性教育のほうでいうと、LGBTQ(※性的少数者の総称の1つ)に関する問題を学校で扱うようになっています。これを受け、制服の規制を緩和して、ジェンダーレスな制服を導入する学校も現れています。
LGBTQは、ひと昔前の学校では絶対に話題にしませんでしたね。それが学校に入ることで、課題として顕在化し、多様性への配慮に向けた取り組みが進むわけです。社会問題を教育の中に入れていくことの意味の大きさを示す例だと思います。

⇒次ページに続く 親子で社会に目を向け一緒に話す

プロフィール

小玉 重夫(こだま・しげお)

東京大学大学院教育学研究科教授。1960年生まれ。東京大学法学部政治コース卒業。同大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。慶應義塾大学教職課程センター助教授、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授などを経て現職。専門は教育哲学、アメリカ教育思想、戦後日本の教育思想史。教育における人間と政治、社会との関係を思想研究によって問い直すことを研究テーマとする。『教育政治学を拓く』(勁草書房)ほか、著書多数。

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