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答えのない問題に立ち向かえる子に〜不確実な時代を生き抜くヒント(3)

 

親子で社会に目を向け一緒に話す

――社会変革の担い手となる力を子どもたちが身につけるために、家庭でできることは何でしょうか。

社会の変化にさらされているのは大人も同じなので、子どもの力を伸ばそうと思わず、大人も対等な立場で議論したり考えたりするといいと思いますよ。
政治や性の話もしてほしいですね。たとえばコロナワクチンの3回目の接種をどう思うか、といったことでもいいでしょう。

――小学生では「わからないよ」で終わってしまいそうです。

子どもが小さいうちは、まだ何が論点なのか判断できないかもしれません。そのようなときは大人が情報を収集し、論点を示すといいでしょう。たとえばコロナワクチンなら、日本政府が3回接種を推奨していること、その理由。一方でワクチン接種に反対な人がいること、その論拠。これらを伝え、論点が「リスクをどう考えるか」であると子どもに示し、考えさせ、自分も考えて意見を交わすという具合です。

――どのようなタイミングで、どう話し合えばいいのでしょうか。

テレビやインターネットなどを間に挟むとやりやすいですね。一緒にドラマを見て、「あなたならどうする?」と聞くのもいい。とりたてて合意を形成しなくともいいし、「へえ、そうなんだ」で終わってもいいのです。
コロナ下ではまだ難しいかもしれませんが、親子で一緒に社会に出ていく経験も増やすといいですね。スポーツ少年団の活動に加わったり、親子でボランティアに参加したり、機会はいろいろあると思いますよ。

選挙の時期に一緒に街頭演説を聞きに行くこともおすすめします。日本人は学校だけでなく家庭でも政治の話を避ける傾向がありますが、親が自分の思想や信条を話すことはシティズンシップ教育につながります。街頭演説はそのよいきっかけとなるでしょう。

こういった対話や体験には、お父さんやお母さんや、ほかの家族も参加してほしいと思います。子どもは、ある程度は保護者の考え方に影響されますが、いずれ学校などでほかの意見に触れるなかで、保護者の意見を受け入れたり反発したりと子どもなりに消化します。多様な意見に触れることで政治的リテラシーが養われるのです。

 

「精神的な家出」と「子離れ」のススメ

――子どもと対等な立場での議論は難しそうです。

健康や安全にかかわる注意など最低限のことは「こうしなさい」と言い聞かせてもいいでしょう。
しかし、繰り返しになりますが、私たちが身につけている規範は通用しなくなりつつあるし、親が子どもを保護しようとしては、子どもの力が伸びません。そこを理解し、保護者と被保護者という関係性から、対等な人間として信頼で結ばれる関係に変えていかなくてはいけません。

私は子どもたちに「精神的な家出」をすすめていますが、同じことを大人にも言いたいですね。大人に向けては、ありがちな言葉になりますが「子離れのススメ」です。
親というものは、つい子どもに呪いをかけてしまうんですよ。親の思いで子どもを誘導してしまわないように、少しずつ子離れをしていかないと。

――呪いですか?

そうです。こうなってほしいというイメージを自分でも気づかないうちに子どもに押しつけてしまう。いわば呪縛ですね。理想の子ども像があって、子どもがその通りにならないと心外に思う。

――どうしたらいいのでしょうか。

フラットにかかわるように心がけるといいのではないでしょうか。親がもつ理想像が「正解」とはいえないのですから。
むしろお子さんのほうがこれからの時代のことには詳しいかもしれませんよ。

――ありがとうございました。

プロフィール

小玉 重夫(こだま・しげお)

東京大学大学院教育学研究科教授。1960年生まれ。東京大学法学部政治コース卒業。同大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。慶應義塾大学教職課程センター助教授、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授などを経て現職。専門は教育哲学、アメリカ教育思想、戦後日本の教育思想史。教育における人間と政治、社会との関係を思想研究によって問い直すことを研究テーマとする。『教育政治学を拓く』(勁草書房)ほか、著書多数。

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