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子どものやる気を引き出すコツ(1)

春から1年生になったり、新しい習いごとを始めたり、受験モードに切り替えたりして、生活が一新するお子さまも多いのではないでしょうか。
それに伴ってこの時期は、「もう○年生なんだから、自分で身の回りのことをさせる!」といった決意の言葉が、保護者の方から聞こえます。でも一方で、「去年もおんなじことを言っていたのよね」の声も......。どうしたらお子さま方のやる気を育て、自立につなげることができるのでしょうか。
子どもの自立をうながすコミュニケーションプログラム「ことばキャンプ」を主宰し、「親子コミュニケーション」「ことば力」「自立」をテーマに、全国で講演や研修をされている高取しづかさんにお話をうかがいました。
(取材・文 松田 慶子)

目次

 

保護者の働きかけがやる気を引き出す 先回りせず、でも手間はかけて

――そもそも、大人の働きかけしだいで、子どものやる気は育つものなのでしょうか。

そうですね。ただわたしはやる気や意思や可能性は、子どものなかにすでにあるものだと考えています。だから育てるというより、子どもから引き出す、子ども自身に気づかせるというほうが適当だと思います。

 よく「ダメじゃない」「早くしなさい」など否定や指示の言葉を言っていませんか。「〇〇ができていない」「〇〇しなさい」という言葉は一方的なので、子どものやる気はなかなかでてきません。

――確かに、そうかもしれません。

子どもの評価は保護者の評価であると考えられがちです。子どもの失敗は保護者の失敗……。保護者は大変なプレッシャーを抱えているように思います。わたしもそうでしたが、子どもに失敗させまいと、つい先回りして指示してしまいますし、失敗しそうになると「ダメでしょ」と言ってしまうのです。

――なぜ、先回りするのはダメなのでしょうか。

自分で考える力が育たなくなってしまうからです。「今日は学校に何を持って行くんだっけ」と考える前に、「ほら、プリントを忘れちゃダメでしょ!」と差し出されては、考えて準備する経験ができません。先回りをすることは失敗するチャンスを子どもから奪ってしまうのです。もしかしたら忘れ物をして注意をされるほうが、子どもにとって大切な気づきの機会になるかもしれないのに。

――でも、忘れ物をさせるのは……。

そうですよね。先回りして指示するのではなく、持ち物の準備のしかたを丁寧に教えて習慣になるまでつきあうことが大事なんです。 意外かもしれませんが、私の住んでいたアメリカの地域では中学生まで、学校の持ち物を揃えたか、連絡帳に親がサインしていたんですよ。自立を急がせるのではなくて、ゆっくり身につけさせていこうという考え方でした。

――丁寧に教えるのは、なかなか大変そうです。

たしかに、丁寧に教えたり、できるまで待ったりするのは努力がいりますね。日本に来たオーストラリア人女性が、使ったバスタオルを放ったらかしにしていた子どもに、お母さんがガミガミ言いながらも結局は片づけてあげる様子を見てビックリしていました。

彼女は「あなたが使うものなんだから、自分で片づけるのはあたりまえ」と根気強く伝え、自分でやるまで待つとのこと。自分でやるのがあたりまえになれば習慣化し、結局後でラクになるのです。

 

まずはやるべきことのリストアップから ○年生だから、と枠にはめないこと

――では具体的に、やる気を引き出す方法をお教えください。

家庭ですぐできることとして、①やるべきことの見える化、②できたことをほめる、③しからずに具体的・前向きに伝える、この3つをあげることができます。

それぞれの進め方は後述しますが、3つを実践するうえで心掛けてほしいことがあります。

まず、「もう〇年生なのだからこうあるべき」と枠にはめないこと。子どもの成長は個人差がとても大きいし、何年生であっても、できないことがあるならやり方を教えればいいのです。また、言葉だけで子どもをコントロールしようとしないこと。一緒に手を動かしたり、そばにいて見守ってあげたりしてほしいのです。

――さっそく、「やるべきことの見える化」について教えてください。

子どもがやるべきことを、親子で書き出し、子どもにわかるようにしましょう。

子どもは、自分のやるべきことがわかっていないケースがほとんど。親が「どうして片づけないの!?」としかっても、子どもはわかっていないのです。

そこで、朝起きてから寝るまでの間に「しなくてはいけないこと」を、お子さん自身に書き出してもらいましょう。ポイントは、極力口出しをしないこと。書き出せない場合、「学校に行くまで、何をしたらいいんだっけ?」「帰ってきたら、どうする?」などと、ヒントをあげるのはOKです。

――着替え、ご飯を食べる、宿題、家庭学習、明日の準備などという項目でいいのですか。

はい。できれば、ご飯を食べるという行為はお茶碗を流しに下げることまで含まれる、といったことも教えられるといいですね。これは、実際にやりながら身につけていくほうがいいかもしれません。
低学年のうちは、1日の間にやるべきことの項目を書き出すだけでいいでしょう。高学年になったら、「やるべきこと」を1日のスケジュール表に当てはめ、さらに「やりたいこと」も書き出して、スケジュール表に当てはめていく。「やるべきこと」と「やりたいこと」をはっきり認識することでものごとを計画的に進める力がつきます。
書き出したら見えるところに貼っておきましょう。

――やらないときは、どうしたらいいでしょうか。

そこが問題ですよね。しかるのではなく「何をするんだっけ?」などと考えさせてください。子どもだって忘れてしまうことがあるし、やりたくない気分のときもあります。せっかちに指示されると、親にコントロールされていると感じてしまいます。長い目で見ると、自分で考えて行動するように促した方が自立するのです。

促すコツは、穏やかにゆっくりわかりやすい口調で、具体的に伝えること。また「ご飯の時間までに、テーブルの上を片づけてね」などと、行動のタイミングを知らせたり、「このままテーブルにお料理を置くと、どうなっちゃう?」と、子どもに考えさせる質問をしたりすることも、自発性を伸ばすことにつながり、とても大事です。「もうちょっとだね!がんばろう」といった励ましも必要でしょう。

⇒次ページに続く ほめることとおだてることは違う できたことを認めるのが上手なほめ方

プロフィール

NPO法人JAMネットワーク代表・「ことばキャンプ」主宰

高取 しづか さん

消費者問題・子育て雑誌の記者として活躍後、米国に渡る。現地で出会った仲間とJAMネットワークを立ち上げ「日本の子どもと親のコミュニケーション力育成活動」を20年行っている。話す力聞く力のトレーニングプログラム「ことばキャンプ」を作りインストラクターを養成し全国で展開している。
書籍の出版、新聞・雑誌・LINE配信でコラムを執筆。「ことば力」「自立」「自己肯定感」をテーマに、全国で1万人以上に講演・研修。オンラインで『自己肯定感を育てる親講座』『親子関係が激変する「子ホメ」レッスン』を開催。
著書に、『ことば力のある子は必ず伸びる!』(青春出版社)『イラスト版気持ちの伝え方コミュニケーションに自信がつく44のトレーニング』(合同出版)「子どもが本当に待っているお母さんのほめ言葉」(PHP研究所)他多数。神奈川県子ども・子育てアドバイザー、神奈川県青少年問題協議会委員を歴任。令和2年度内閣府「子供と若者・若者応援団表彰」の内閣総理大臣賞受賞。

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