子どもと楽しむ料理の科学

ふっくらおいしいおにぎりの握り方

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

ほろりとほどける優しい食感のおにぎり

春休みはお子さんと一緒に、おにぎりを握って食べるのはいかがでしょうか。具だくさんの豚汁など簡単なおかずを用意しておけば、それだけで立派なお昼ご飯になります。おひさまが出てポカポカと暖かい日には、おにぎりを持って公園でピクニックをするのもいいですね。しっかりとしたお弁当を用意しなくても、自分で握ったおにぎりを外で食べるというだけで、ちょっと特別なランチタイムです。

おにぎりは、ご飯を炊いて握るだけのシンプルな料理ですが、下準備や握り方にひと工夫するだけでよりおいしい仕上がりになります。今回は、お米が口の中でほろりとほどける、ふっくらおいしいおにぎりの握り方を紹介します。

炊けたらすぐにさっくり混ぜる

おにぎり作りでは、ご飯の粒同士が密着せず、少ない接点でくっつくようにするのが理想です。お米を炊くと主成分のデンプンが変化して、やわらかく粘り気のある糊状になります(デンプンの糊化)。糊化したデンプンは時間が経つと徐々に硬くなるため、炊いてから時間が経ったご飯は炊きたてよりも硬くなります。おにぎりは時間が経ってから食べることが多いので、ご飯の粒がぎっしりと詰まった状態では硬くて食べにくく感じられてしまうのです。

おにぎりをふっくら握るためにはまず、ご飯が潰れずに程よい弾力のある粒になるよう下ごしらえをしましょう。お米はゴシゴシと力を入れて研ぐと割れてしまうので優しく洗い(詳しくは「お米をおいしく食べるコツ」で解説しています)、水加減は通常通りか、やや少ないくらいで炊飯します。そして、炊けたらすぐに蓋を開けて、熱々のうちにしゃもじで混ぜましょう。こうすることでご飯粒の表面から水分が蒸発し、一粒一粒に張りがある状態になります。粒の隙間に水蒸気が残っていると冷めたときに水になり、ご飯がふやける原因になるので、全体に空気を含ませるようなイメージでさっくりと混ぜます。

温かいうちに優しく握る

ご飯の準備ができたら、優しく軽く握ります。軽い力でもご飯がしっかりまとまって崩れないようにするには、炊けてからあまり時間が経たないうちに握るのがポイントです。

ご飯粒の表面には糊化したデンプンが付着していて、これが糊のように粒同士を接着しています。炊いてから時間が経ったご飯は糊がかたまり始めているので、すでにくっついている粒同士が離れにくく、形を整えるのに強く握る必要があります。また、乾きかけの糊のように接着力も落ちているので、新たに粒同士をくっつけてまとめるためには、強く押し付けて接着面を広くする必要があり、ぎっしりと詰まった硬いおにぎりになってしまうのです。

一方、炊きたてのご飯はこの糊がまだやわらかい状態なので、少ない力で貼ったり剥がしたりすることができます。そのため、軽く握ってもご飯がまとまり、形も整えやすいですし、粒同士をべったりくっつけなくても良いのでふっくらとした仕上がりになります。

作り方/レシピ

おにぎり

材料(おにぎり6〜7個分)
・お米 2合
・水
・塩
・おにぎりの具 梅干し、昆布、おかか醤油などお好みで
・海苔 お好みで

1.ご飯を炊く

お米を優しく洗い、通常通りかやや少なめの水加減で炊飯する。

炊き上がったらすぐにしゃもじで混ぜる。4等分して上下を返し、全体に空気を含ませるようなイメージでさっくりと切り混ぜると良い。

2.具の準備

具を入れる場合は具の準備をする。梅干しは種を取って適当な大きさにほぐす。おかか醤油は、かつお節2〜3gに醤油小さじ1を加える(おにぎり2〜3個分)。

3.1個分のご飯をまとめる

お茶碗にご飯を100g程度取る。量は目安なので多少前後してもOK。

具を入れる場合はお茶碗にご飯の約2/3を入れて真ん中に具をのせ、その上から残りのご飯をかぶせる。

お茶碗を軽く揺すってご飯をまとめる。ラップに包むかポリ手袋をして手に取り、形を整えるように軽く握る。

※炊きたての熱いご飯を素手で握るのは大変なので、大きめのお茶碗とポリ手袋を使うのがおすすめです。まずはお茶碗にご飯を入れて軽く揺すり、ご飯をまとめてかたまりにします。そうしているうちに少し冷めるので、ポリ手袋をはめた手で軽く形を整えましょう。ポリ手袋をしていると手とご飯の間に空気の層ができるので熱さを感じにくくなります。「夏は特に要注意! 細菌性食中毒を予防しよう」でも紹介しましたが、素手でおにぎりを握るのは食中毒の原因にもなるので、衛生的な観点からもポリ手袋を使うのが安心です。

4.仕上げ

両面に塩を振る。おにぎりが冷めたらお好みで海苔を巻いて出来上がり。

はかって握ってふっくらおいしい

おにぎりを強く握らないためのコツは、ご飯の量を多くしすぎないことです。手の大きさに対してご飯が多いと、ついギュウギュウと握ってしまいがちなので、手にすっぽり収まるくらいの量にしましょう。平均的な成人女性の手には100gくらいが適量です。お子さんに握ってもらう場合は、もう少し減らしてもいいと思います。

ご飯をはかって握ると、塩加減の調節もしやすくなります。塩むすびに使う塩は、好みにもよりますがご飯の量に対して0.3〜0.5%、100gのおにぎりに0.3〜0.5gがおすすめです。塩を振ってすぐはおにぎりの表面が濃い塩味になるので、出来立てを食べる場合は塩加減を控えめに。時間が経つと塩がしみ込んで塩味が和らぐので、時間が経ってから食べる場合は塩加減をやや強めにすると良いでしょう。具を入れる場合や味付け海苔を使う場合でも、塩で薄く味をつけたほうがご飯の甘みが引き立てられておいしいです。

一般的なキッチンスケールでは1g以下の計量が難しいので、塩をはかる際には計量スプーンを使います。百円均一やスーパーのキッチン用品売り場に行くと、普通の大さじ小さじなどと一緒に、小さじ1/4や1ml(小さじ1/5)を計れるスプーンが売られています。精製塩のようなサラサラとしたタイプの塩は、小さじ1杯6gなので、小さじ1/4スプーン1杯で1.5g、1mlさじ1杯は1.2gです。粗塩などのしっとりタイプの塩は小さじ1杯5gなので、小さじ1/4スプーン1杯で1.25g、1mlさじ1杯は1gになります。

 

3/24(木)更新の次回では、「ポーチドエッグをうまく作るためのヒケツとは?」について、科学の視点から解説いたします。お楽しみに!

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プロフィール

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)

科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

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