【公立中高一貫校受検記】父が見てきた“学びを楽しむ子ども”の育ち方

受検に必要な速読力と読解力につながった、わが家の多読習慣

公立中高一貫校受検の適性検査問題は、問題文の分量が非常に多いことをご存じですか? 限られた時間内に解答を作成するには、速読力と読解力が重要です。そして、この力は読書経験の豊富さと密接な関係があるもの。お仕事柄、日々たくさんの本を読む堤谷さんは、どのようにしてお子さんを読書好きへと導いたのでしょうか。

教育系の記者として、公立中高一貫校への取材経験を多数おもちの著者・堤谷孝人さん。

父として、お子さんの中高一貫校受検をすぐそばで見てきたご経験を綴るエッセイの第3回です。

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今でこそ多読・速読を好む息子ですが、幼児のころは絵本や図鑑が好きで、活字主体の本にはあまり興味を示さない子でした。物語が好きなお子さんもいらっしゃると思いますが、息子は、ストーリーものに触れることがほとんどありませんでした。

そんな折、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリーポッター」エリアを近々オープンする、というニュースを聞きました。そこで私は、小学1年生の息子に、分厚いハリー・ポッターシリーズの第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』を渡してみることにしたのです。

私は、何か新しく行動を起こそうというとき、関連する出来事を見つけてタイミングを合わせるのが好きです。息子に読書への興味をもたせるにあたっても、そのように周囲の出来事を利用してはどうかと考えたのでした。

意外なことに、息子はすぐに本を開いてのめり込み、3日間で読了しました。といっても、後で聞いたところによると、実際は読み流したり読み飛ばしたりした箇所も多かったそう。とりあえず早く最後のページまでたどり着きたかったらしく、後日、映画版を観て、想像していた風景と違っていたことも多々あったようです(笑)。

1冊読んで勢いがついたのか、2年生の1月下旬にはシリーズ全巻を読破(同じく、多々読み流しや読み飛ばしをしながら)。
そして2か月後の春休み、私たち家族は満を持して「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリーポッター」を訪れることができました。息子が、城の中で降る雪に感動したり、お土産の杖を長い時間かけて選んだりしていた姿をよく覚えています。

初めて読んだ長編小説『ハリー・ポッターと賢者の石』
読み終わった感動が冷めないうちに、ハリー・ポッターエリアへ
『三国志』にハマったのはゲームがきっかけ。3年生の3学期には漫画を全巻読み、名鑑で武将名を覚えたことで、ゲームがより楽しくなったそう。
習っていない漢字は雰囲気で捉えていたそうです

 *  *  *

 

さて、第1回でご紹介したとおり、わが家では小学5年生になる直前に受検することを決めたわけですが、公立中高一貫校の適性検査では、問題文を速く読むこと、正確に理解することが重要だと知ってから、息子はより積極的に活字を読むようになりました。

5年生になる前の春休みには、私の書棚から自己啓発本を見つけてのめり込み、連れて行った書店でも自己啓発本に興味を示し、買い集めた本を読みきりました。

なぜか、突如として自己啓発本がブームに

夏休みには「5000ページ読むわ!」と言い出して、私の書棚から選んだり、書店で買ったりして選んだ本を20冊、全部で5049ページを読みました。ちなみに、このとき読んだ本の中で、一番おもしろかった本は『激走! 日本アルプス大縦断』で、読むのがしんどかった本は『新約聖書』だそうです。

「夏休みに5000ページ読むわ!」宣言で読んだ本たち

息子がここまで読めるようになったのは、本人の気質もベースとしてあるのかもしれませんが、親としては私なりの読書術や環境づくりが功を奏したのではないだろうか、とこっそり思っています。

私の読書術とは、ブックレビューの執筆の仕事を10年以上続けるなかで身につけてきたもの。多いときで週に2冊を読んで原稿を書く私は、本を読むときはいつもリビング(か出先)と決めています。読みながら、本には赤ペンで線を引いたり丸をつけたり、ノートのようにメモを書き込んだり、折り目をいくつもつけたりして、原稿に使えそうな部分をマーキングします。本はどんどん汚してアクティブに読むことが速読に繋がると感じているからです。

私はこのスタイルを続けながら、読みかけの本はいつもリビングの小さな円形テーブルに置いておき、息子に「いつでも読んでいいよ」と言ってきました。同時に、読書に対する自分の考えとして、次のようなことを伝えてきました。

「本は最初から最後まで丁寧に読まなくてもいい」

「たとえ1割しか読まなくても『読んだ』ことにしていい」

「一度で読了するのではなくて何度も読み直していい」

息子とは、読んだ本の内容を聞いたり、本のページを見せてもらったりと、本についての話もよくしました。すると、私が言ってきたことや、読み方をある程度まねているのがわかりました。

 

 *  *  *

 

受検年の6年生になると、さらに幅広いジャンルの本を読むようになりました。ジャンルを広げるために、長期休みごとのタスクとして、文学やコミックなども含めた「父からの課題図書」をいくつか用意したのも効果があったのかもしれません。

6年生が始まる直前の春休み最終日までに読んだ本。右側にある小説やマンガが「父からの課題図書」

このようにたくさん読んできたなかで、とくにお気に入りの1冊は、『「死」とは何か イェール大学で23年連続の人気講義 完全翻訳版』だそうです。6年生の春休み、旅行先で見つけ、とても分厚くて一度は買うのを諦めたものの、帰宅してからもやはり読みたくて、通信販売で購入。難しい本ですが、全ページを丁寧に読むのではなく、自分の気の向くままにパラパラめくって、気になる章を読んで心に残る言葉や内容を拾ったり、わかりやすい図やグラフを見て内容を補ったりして、自分が理解できる範囲で楽しんだそうです。この本をきっかけに海外大学へ憧れをもつようになりました。

今思えば、息子は長期休みごとに、ゲームを楽しむように「自分にはこれだけの本が読めるかな?」とチャレンジしていたのかもしれません。

ときには、私の書棚にあった子育てハウツー本まで読まれてしまい、私がどんな視点や考え方で息子を見ていたか、心のうちを読まれてしまうようでドッキリしたことも(笑)。

が、こうして幅広いジャンルの本に触れるうち、社会や世界の様々なことへのアンテナが立ち、ニュースなどの情報にも敏感になっていったように思えます。もちろん、受検での読解問題や作文においても大きな力になったと確信しています。

1冊全てを読まなきゃと思うと、読書のハードルは高くなってしまいます。だからこそ、まずは自分なりに「読んだ」と思える経験が必要。「自分は読める」「読書は楽しい」と思えれば、自己肯定感が高まって、読書への意欲が湧いてくるのではないかと、息子を見ていて思うのです。

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「5年生前の春休み、いきなり自己啓発本に熱中したのはなぜだったの?」

 

息子「お父さん、本棚の本を捨てようとして廊下にいっぱい出してたでしょ。何冊かめくってみたら、おもしろいなと思って。『これは生活にすぐ役立つかも!』と思ったんだよね」

プロフィール

堤谷 孝人 (つつみたに たかひと)

関西在住。2004年から子ども関連(保育・育児・教育)の取材、編集、制作をフリーランスで行う。職業柄、スーパーキッズや学校、教育機関などの取材をする機会多数。2008年、京都市立西京高等学校附属中学校を取材したことをきっかけに公立中高一貫校に強い興味をもつように。その後、長男が関西の公立一貫中学に合格。受検にあたりZ会小学生コース「公立中高一貫校適性検査」「公立中高一貫校作文」を利用した縁で、2023年4月よりこの連載をスタート。

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