【コラム】内発的動機を育てるNEW TREASURE指導

投稿日時:2021年7月30日

 

静岡県にあります浜松開誠館中学校・高等学校に勤めております岡本秀樹と申します。愛知県の前任校で中学校が中高一貫校化したことを契機にNEW TREASURE(以下、NT)を初めて採用しました。少々内容が難しいのではという懸念もありましたが、授業の展開方法や工夫で、生徒の興味関心と意欲を湧き立てることにより克服できるのではと楽観的に考えました。効果は別として内発的動機を育てようと試みた独自の工夫について紹介させていただきます。

 

 

1.NTで指導するにあたって重視したこと

◆ 4Cs

4Csとは、米国を中心とした Partnership for 21st Century Skillsによって21世紀の教育において最も重要とされた以下の4つのスキルのことです。

  • Critical Thinking and Problem Solving(批判的思考と課題解決)
  • Creativity and Innovation(創造)
  • Communication(コミュニケーション)
  • Collaboration(協働)

コミュニケーションや協働の重要性は言うまでもありませんが、今後日本人が身に付けるべきスキルとして、批判的・創造的思考が最重要だと考えます。ある事柄について、感想や意見を求められたときに、まったく自分の考えが出てこない生徒の多いことに大変な危機感を感じています。いかに日本の教育が、家庭における躾も含め、子どもにとって与えられるだけの受動的なものに陥っていることを証明しています。堂々と発表する姿勢や技術的な工夫は二の次として、まずは自分独自の切り口できちんと自分の意見や感想を持つことが大事だと強く感じます。授業では、考える力、感じる力を育むことを常に意識しました。

 

◆ 4技能のバランス

せっかくの練られた教材なので、訳読式や一方的な講義解説型の授業では面白くありません。InputだけでなくOutputの機会を多く設け、生徒の考えを引き出すようにしました。1時間の授業の中で、帯的な活動も含め4技能を高める活動を必ず導入しました。

 

◆ 音読

同時通訳者で有名な國弘正雄氏が提唱していた「只菅朗読」にあるように、英語は音で学ぶものという信念のもと、徹底的に音読を繰り返しました。Speed-up Readingと勝手に名づけ、Choral Readingの時には、3段階のスピードをつけ、徐々に速く読むようにしました。”Faster!” ”Speed up!” などと生徒を煽ると、意外にも生徒は頑張ってついてきて、大いに盛り上がりました。

 

◆ 英語・英語学習への興味関心

やはり英語は身近なもので、視野が広がるツールであり、今習っていることが必ず将来役立つと理解してほしいと思います。何といっても「楽しい!」と感じてもらえるよう工夫をしました。そのため、音楽、映画、スピーチ、雑誌、新聞、You Tube、SNSなど、あらゆるソースを使って、実際に机上で学んでいる単語・イディオム・表現・文法が、実際に著名なスーパースターたちでも使っていて、いかに有用であるかを証明・共有する機会を多く持ち、説得力があったようです。

 

 

2.NTの各項目の扱い方

授業の始めは、”Do you prefer spider man or invisible man? Why?”のようなopen-ended questionで、自分だけの意見を持ち表現する練習を毎回行いました。NTの内容に絡むものを多く質問しました。NTの進め方は、授業時間数と理解度によって多少の変更はありましたが、あまりスキップすることなく基本的にはNTの内容構成に忠実に授業を行い、扱い方や進め方に工夫を凝らしました。
今回紹介する事例は、2nd Editionのものであり、3rd Edition では各コーナーが新たになっておりますが、基本的には紹介事例と同様に扱うことは可能だと考えます。

 

Vocabulary / New Words

エクセルシートのNew Words Listをスクリーンいっぱいに引き伸ばし、フラッシュカードとして用い、テンポよく次々と音読、意味確認、最後は日本語から英語にと短時間で鍛えました。各活動の後で確認のため発表させるので、生徒は気を抜くことができません。スクリーンを見ながら必死に発音・意味をマスターする真剣な表情が印象的でした。相当なプレッシャーになったと思われますが、集中して短時間で覚えることができました。次の授業では、前回学んだ単語の復習を行い、定着を図りました。この時点で多くの生徒は、概ね単語は身に付いたと思われます。(スペルは後述のまとめテストで対応。)単語を黙々と覚えるというよりも、楽しみながら集中して取り組んでいたら自然に覚えていたという感じです。ある研究会で、授業で生徒が学習内容を一番身に付けるときは、野球でいえば大きなフライを外野手が捕ろうとしている状態と似ていると聞いたことがあるのですが、まさにそのような集中状態であったと言えます。

 

Grammar本文

短い本文は、完全に音読の練習用としました。CDを聞いて真似をして、大きな声で英語を発音する習慣をつけることをゴールとしていました。その中で重要語句・表現、文法に軽く触れた程度です。各Lesson終了後に、part1~part3のうちランダムに当てて(またはクジを引いてもらい・・・これが意外に盛り上がる)、音読テストをしました。単語同様、どこがあたるかわからない音読テストがあるので、生徒は常に真剣でした。ただし授業数が少ないときには、テストをスキップすることもありました。(個々の生徒について、どの程度読むことができるかは、実は承知していました。)

 

Speak and Check

Speak and Checkとありますが、英文を実際に書く機会が少ないので、ここは敢えてノートに全文を書かせました。学んでいる文法内容を視覚的にも理解させ定着を図りたかったからです。既習文法事項を用いて実際に日常で使われる実用的な表現については、別の機会で創作させ発表させました。

 

Key Points

最初に、今回はどんな文法事項を学ぶのか、イントロダクションとして英語でヒントを与えたり、時には演じてみたり、ロールプレイで行動させたりして、生徒に気付かせる方法をとりました。その後、各文法事項を網羅的に理解しやすいプリントを作成し、あまり文法解説の時間をとらず、一度概要を紹介し、そしてNTのKey Pointsで復習という形をとりました。一度学んでいるので、すんなり理解しやすかったと思います。自分で勝手に教科書に蛍光ペンで線を引く生徒も多く見られました。まとめテストの中で、習った文法事項が使われている例文を覚えてもらいました。Key Pointsの英文が少々難しいと感じたときには、より理解しやすく、発音し覚えやすい英文に書き換え、基本文を暗唱させたりしました。

※下記画像をクリックすると、PDFが開きます。

 

文法プリント見本①

(PDF形式/165KB)

文法プリント見本②

(PDF形式/330KB)

文法プリント見本③

(PDF形式/121KB)

 

Read

精読ではなく、分からない単語は無視するか推測して、本文の内容を概ね理解できることをゴールとしました。英文にこだわるのではなく、本文の内容に興味を持つよう指導しました。膨大な新出単語や重要表現は、まとめテストの範囲にし、笑顔で鬼のように覚えさせました。生徒の脳の吸収力にはいつも驚くばかりでした。

 

Critical Thinking

NTを採用した大きな理由の一つが、Critical Thinkingを特別な枠で扱っていることです。思考を深め、多角的なものの見方・考え方ができるようになってほしいと考えました。従来型の問題形式とは異なった問題に、生徒は頭をひねりながら取り組んでいました。問題集に代表される一般的な問題では苦手意識を持つ生徒が、このような問題を楽しんで解く姿が見られて新鮮でした。考え方は多様であり、思考することの重要性や楽しさに気付いてほしいものです。
3rd EditionではCritical Thinkingのパートはなくなりましたが、ActionのパートでCritical Thinkingのエッセンスを学び、より実践的なトレーニングを重ねることができそうです。

 

Communication

基本的には、ペアワークとし、まずは各パートを両方とも読めるように指導しました。ダイアローグの内容が難しかったり長かったりする場合は、こちらで書き換えて取り組みやすいように工夫しました。また、自分たちで好きな英文を作り挿入するなど創造的な活動をする機会を設けました。最終的には、自分たちが作った会話で発表しました。どんな内容になって発表されるのか、聞いている側が楽しみな活動となりました。最も聞くのを楽しみにしていたのは私だったと思います。

 

 

3.教材

NEW TREASURE Stage1~3(Z会)

中1から高1までの4年間で3冊を終えるシラバスを組みました。途中、スキット・コンテストや暗唱コンテスト、ホームステイ英会話などを取り入れましたが、ところどころ調整しながらほぼ計画通りのペースで進むことができました。

 

生徒用音声CD(Z会)

今ならロイロノートなどを使い、家庭で各自CDを聞き何度も練習したあとでテキスト本文の音読を、またActionパートにおける自分の意見・感想などを録音して提出させるのですが、当時は各自CDを聞いて練習し、各単元終了時に地道に音読テストを授業中に行いました。

 

準拠ワークブック(Z会)

NTの内容復習のための教材です。授業で取り扱うことはなく、家庭学習用として持たせました。内容定着のため、もう少し問題量があっても良いのではと感じていました。

 

Hybrid文法問題集(エデュケーショナル・ネットワーク)

NTで学習する各文法の確認定着用です。この教材はいわゆるオーダーメイド型のためNTに出てくる順番に文法事項を並べかえ、表紙を巻き替えて、青空の表紙にFutureというタイトルをつけてみました。サブタイトルとして、思いを込めてアインシュタインの名言”Imagination is more important than knowledge.”を印刷し、考えること、推測すること、想像することの重要性を訴えてみました。

 

辞書

初級、中級、上級に分け、各2冊ほど推奨しました。ただし他の辞書でも構いません。電子辞書については、中3のオーストラリア修学旅行を境に使用可としました。日本文化を姉妹校にてプレゼンテーションする活動を行っていたことから、電子辞書は重宝したようでした。

 

まとめテスト

各Unit終了時に、習った内容が身に付いているかどうかを確認するための自作単元テストです。単語、イディオム、重要表現、文法などをA3プリント1枚にまとめ、テストを行いました。合計100問ほどになることもありましたが、各単元のエッセンスが網羅されていました。(編集にとても時間がかかりましたが…。)合格は常に80%で、詰め込み・暗記型と批判もあるかもしれませんが、このテストで、既習事項を整理・定着させ、実力をつけていったことは間違いありません。外部模試などの客観テストで成績が伸び、力がついたことを実感でき、さらなる学習意欲につながったようです。楽しむ時には楽しみ、覚えることは覚えるといった目的を明確化させ、きちんと伝えることが生徒の動機につながると思います。

※下記画像をクリックすると、PDFが開きます。

 

まとめテスト見本①

(PDF形式/142KB)

まとめテスト見本②

(PDF形式/145KB)

 

 

個人的な工夫として・・・情に訴える

NT Stage1のReadに、Hospital ClownsとAlex’s Lemonade、またStage3にはGuernica – Picasso’s Message against Warという課があります。人が人を思いやる気持ち、すなわち情に触れた課、または無実の人々を痛めつける戦争に対する芸術家の思いを学ぶ課です。そういえば、Guernicaを実際のサイズに投影して、英語や日本語で叙述したり感想を述べたり、またちょうど名古屋で行われていたピカソ展に出かけて購入したBlue Ageにおける絵葉書を題材に、ピカソの心情を推測する授業も行いました。その時の生徒の気づきや感性に感動したことを今でも思い出します。

私は、ただ語学として英語を教えるのではなく、英語がツールとして伝えるメッセージ性、特に人間であるが故の情に訴えることを重視してきました。仮定法を教える時には、幼い息子を亡くした著名なギタリストであるエリック・クラプトンのTears In Heavenという曲をよく使います。“Would you know my name if I saw you in heaven? Will you be the same if I saw you in heaven?” 「もし天国で会ったら、君は僕の名前を覚えているだろうか。もし天国で会ったら、君は変わらないままなのだろうか。」 最初に「これはどういう状況をもとに作られた曲でしょうか。」「このミュージシャンはどういう気持ちで歌っていると思いますか。」という質問を投げかけます。また、人としてあるべき姿を考えさせたい時には、有名なタイの某保険会社のCM動画を使います。場面を英語で自由に叙述させ、見終わった後には、「このCMの製作者は何を訴えたいと思いますか。」「お金で買えない大切なものとは何でしょうか。」という深い質問をします。そして、ローマカトリック教会のフランシスコ法王は、核戦争抑止のため、原爆投下後の長崎で撮影された「焼き場に立つ少年」の写真裏面に「戦争の結果」と短い言葉を記しました。「君ならその写真の裏にどんな言葉を書きますか。」「君ならどんな方法で核戦争をなくすよう努力しますか。」すなわち、英語を人間として感情を表現し理解するツールとして紹介し、生徒の心に訴えたいとの思いが強くあります。

感情は万国共通で、うれしい時には笑顔になり、悲しい時には涙を流し、そのような感情を理解し、それにともなう行動をとることが、人間が得意とする分野であると確信しています。そのようなヒューマンドラマを、英語を通じて紹介し、一緒に考えることが、将来強くたくましく、そしてやさしい人材の育成に役立ち、英語を学ぶ内発的な動機につながると心から信じています。

 

 

最後に・・・

以上のように、NTの明るくテンポの良い進め方や授業デザインの工夫と、人間であるが故のドラマを共感することで、心を揺さぶる授業、内発的動機を育む指導は可能だと考えて実践してきました。結果、英検準1級~準2級に数多く合格し、留学した生徒、難関国公立・私立大学に進んだ生徒も少なくありません。授業の振り返りや卒業メッセージでは、「英語が好きになった。」「英語の授業が楽しかった。」という声が多く、自分にとっては「英語ができるようになった。」よりも、ずっと魅力的なメッセージです。ぜひ、その気持ちを忘れることなく、これからもずっと楽しんでほしいと思います。

 

 

プロフィール

岡本 秀樹 (Okamoto Hideki)
浜松開誠館中学校・高等学校 中学校教頭。
印刷会社営業マンから英語教育に対する情熱が再燃し私学教師に転身。 生徒に英語を学ぶ楽しさを伝え、厳しくも楽しい授業実践の結果、自ら受け持つ中学生クラスの97%を英検準2級以上に合格させた実績を持つ。

 

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