【コラム】中高6カ年とその後を見通した英語指導

投稿日時:2021年8月23日

 

皆さん、こんにちは。東京都私立共立女子中学高等学校英語科教諭の鮫島慶太と申します。ESN英語教育総合研究会では関東地区代表、2018年からは共立女子大学で教職課程の実習授業も担当しております。教員経験は今年で32年目になります。

NEW TREASUREとの出会いは2010年。それまでのTREASUREが大きく様変わりし、コンセプトも大きく変わった最初の年でした。Stage1からスタートし、その後2014年まで、中学1年生~高校2年生の生徒達にStage5までを継続指導した経験があります(高校3年生の1年間は演習を担当)。今回のコラムでは、中高6カ年の指導経験から以下の2点についてお話をさせて頂きます。

① 6カ年を見通した英語指導 「教科書を教える指導」にならないための工夫
② NEW TREASURE後の英語学習へ

少しでも現場でご指導に当たられている先生方の参考になれば幸いです。

 

 

① 6カ年を見通した英語指導 「教科書を教える指導」にならないための工夫

これは教科を問わず多くの先生方がご指摘になっている点ですが、「教科書を」教える授業ほどつまらないものはありません。特にNEW TREASUREは完成度が高い教材であることから、「書いてあることをただなぞるだけ」の授業では「授業不要」となってしまうことは言うまでもないことだと思います。ただ、「教科書で」教える授業を作るには、それなりに具体的な工夫や準備をする必要があります。

 

ア)Stage1からStage5までを見通した指導計画

細かくチェックする必要はないですが、私自身は文法項目、重要機能語、前置詞の用法、自由英作文のテーマ(自己紹介、グラフなどのデータ説明、意見等)、ReadのTopicなどについてはStage1を教える段階からStage5までを出来るだけ見通した上で指導計画を考えるようにしました。たとえば、thatという語は様々な機能を持つ多義語ですが、NEW TREASURE (First Edition)では以下のように教科書に登場します。こうした見通しを可能な限り早期から教員チームで共有しておくことが大切だと考え、膨大な量になりますが少しずつまとめていきました。「教科書に追われてしまう授業」だとどうしても教科書に縛られ、結果として「教科書を教える授業」になってしまいかねないので、先を見通すための具体的なロードマップが必要だと思います。もちろん、それが逆に「PDCAに縛られる指導」にならないように生徒達の成長を観察し軌道修正することもありました。予想通りにいかないことも、試行錯誤しつつも行ってきた指導に「もっとああしておけば」という想いも残りましたが、少なくとも見通しのない指導で「教科書を教える」指導にはならなくて済んだとは思います。

□ NEW TREASUREに出てくる : thatの用法

※代名詞:this/that=後者・前者/先行詞明示/判断の根拠を表す副詞節を導く接続詞のthatはNEW TREASURE(First Edition)のGrammar/ Useful Expressionには未掲載
※一覧内の対応するS(=Stage)、L(=Lesson)は、全てFirst Edition

1 指示代名詞 That is your dog. S1 L1
The health care system in Australia is as good as that in any other developed country. S4 L11
The graph compares the average rainfall in Nagano this year with that of last year. S4 L11
Those who got tickets for the concert are lucky. S4 L2
Those (who were) present at the meeting discussed the problem. S4 L2
2 指示形容詞 Who is that boy? S1 L2
3 指示副詞 She can’t be that nervous. S3 L3
4 関係代名詞 What is the best movie that you have seen recently? S2 L10
5 関係副詞 Computers will never converse in human language in the way that human beings do. S4 L9
Similarly, the way that people view art also depends on their cultural background. S5 L9
6 接続詞・名詞節 I know that his father is a science fiction author. S2 L3
It is a miracle that nobody was killed in the railway accident. S3 L7
We have just heard the news that John is going back to Australia. S4 L1 
7 接続詞・副詞節 I’m glad that everything turned out so well. S3 L7
I’ll give you my phone number so that you can contact me anytime. S3 L4
The traffic is so loud that I can barely hear him. S3 L4
It was such a foggy night that I could hardly see anything ahead of us.
= It was so foggy a night that I could hardly see anything ahead of us.
S5 L6
Her anxiety was such that she couldn’t say a word. S5 L6
8 強調構文 It is my father that(who) criticizes my work the most. S3 L12
9 SVC(=that~) The problem is that there is not much time left. S5 L10
The strange thing is that I feel as if I’m in the middle of all this activity. S5 L10

 

イ)慎重な導入とスパイラルを意識した指導

中学生の段階では特にそうなのですが、「1回教えて身につく」なんてことはありません。また、留学経験や習い事で英語に多く触れた経験がある生徒は別として、ほぼ初めて英語を習う生徒達にとって、「新しいこと」が出てくる度に前に学んだこととの「混同」が起こります。be動詞から始めれば一般動詞の疑問文に対して、”Yes, I am.”と答えてしまうようなことは珍しくありません。そうしたことを見通して繰り返しスパイラルの訓練を行うためにも、まず「6カ年のどこで何を教えるのか?」のロードマップを考えておく必要があると考えました。そのロードマップがあれば、「躓くことを前提とした時間配分」も考えることが出来ます。走りながらではありますが先の見通しを整理しながら補助教材やActivityなどを作成していきました。

また、NEW TREASUREを使用する前に使うオリジナル教材の「Pre-Treasure」を作成し、中学1年生の4月は丸ごと教科書をほぼ開かせない指導を行いましたが、これは入学段階での英語力のバラつきや教科書内で一気に増える学習事項をあらかじめゲームや活動などを通して消化することで導入時期のハードルを少しでも下げようというねらいがありました。Pre-Treasureで扱ったのは以下のような内容です。

□ ABCチャンツ・ABCの歌・アルファベット読み+アルファベット文字指導の導入
□ フォニックス読み
□ 名前の書き方
□ Classroom English
□ 身の回りの単語(3文字~4文字をまず中心に):英語カルタ活動
□ 所有格:my / your
□ This is~/That is~/It is ~
□ What is this/that?:Treasure Mate(イラスト単語集を制作・2000語程度の生活単語収録)
□ 冠詞=「帽子のことば」:Mpi(旧松香フォニックス)の「ハエたたき」活動など
□ 主格・所有格・目的格:田尻悟郎先生の「代名詞ダンス」
□ 曜日・月・数字:7並べ・ダウト・電話番号などの活動
□ 形容詞
□ 基本的な辞書指導

 

中学校の初期では特に活動に時間を取って指導することが多かったです。「代名詞ダンス」などは教員も身体を使うので、中学を担当すると痩せます(笑)。新出の学習項目が出てくる度に、ある程度定着した段階を見計らって、以下のような活動の中で混同を避ける訓練を取り入れました。

□ インタビューゲーム
be動詞のやり取りと一般動詞のやり取りをまぜた活動(詳細は下記<インタビューゲーム>へ)

□ Practice Speaking
田尻悟郎先生のTalk & TalkのNEW TREASURE版(詳細は下記<Practice Speaking>へ)

 

<インタビューゲーム>

 

<Practice Speaking>

 

ウ)Logical & Critical Thinkingを意識した指導

NEW TREASUREの指導の中で皆様がご苦労されている分野だと思います。2000年前後のセンター試験において、「英文整序問題」や「長文空所補充問題(早稲田大学・文学部やTOEFLの問題でも出題)」を苦手にする生徒の指導に苦労していましたので、「論理的に考える力」の重要性は中学の指導の段階から意識していました。ただ、NEW TREASUREに掲載されているような問題をそのまま授業で扱ってもそうした力はなかなか身につかないことは言うまでもありません。ではどうすればよいか?散々頭を悩ませて行ったのは、「日常の指導の中に落とし込むこと」です。たとえば、先ほどもご紹介したインタビューゲームのような活動の中に「思考力訓練」の要素を取り込むように心がけました。「頭を使わずに活動する生徒」よりも「頭を使って活動する生徒」の方が勝ちやすいゲームを考案し、それを敢えて生徒には伝えずに経験から帰納法的に学ばせるという方法です。Readについても、「英文和訳」ではなく、「段落や英文の整序」を活動としたり、「タイトルをつける活動」や「続きを考える活動」を取り入れることを意識しました。Logical ThinkingにしてもCritical Thinkingにしても、「理論」を生徒、特に中学生相手にただ伝えても、学びは生まれません。活動の中で自然に「思考力」を使う工夫をするために、NEW TREASUREの初期のCritical Thinkingのエッセンスをまとめて教材や活動に落とし込むこと。これが「教科書で」教えるためには必要なことだと思います。

 

 

また、高校生の指導においても同様なのですが、「思考力」を鍛えると言っても、様々なスキルがあります。ブルームのタキソノミーなどを参考に、LTCTチャート(Logical Thinking and Critical Thinking Chart)を開発し、高校生の指導においても学習で身につけるべきスキルの可視化をしていますが、中学生や高校生の初期段階の指導では、これらは指導者側が特に意識して6カ年、3カ年、1年、半年といったスパンで長期、中期、短期の展望を持って指導する必要があると思います。

<高校生用オリジナル教材:Logical Compositionより>

 

 

②NEW TREASURE後の英語学習へ

NEW TREASUREは「5カ年で中高6年分の内容を終える教材」ですので、本校のような中高一貫校では高校3年生の1年間は特に大学入試を意識した演習中心の授業になります。本校でも学年によっては高校2年生からStage5を使わない学年、高校1年生でStage3の積み残しを終えてStage4ではなく別教材へ移行する学年もありますし、学校が違えば更に様々なパターンがあると思います。どの方法がよいという訳ではありませんが、私がこの時担当した学年はStage5までを扱いました。ただ、英語の授業が細分化することで、NEW TREASUREに充てられる授業時間数が高校に入ると減ることから、全体を扱うことは到底不可能で、Stage4~5については、Topicなどをバランス良く選択して扱うことになりました。Stage5は上位生徒にとってもそれなりに読み応えのある題材でしたが、中位~基礎レベルの生徒達は相当苦労している様子でした。ただ、高校3年生から入試演習に入った時に、検定教科書から入る生徒達に比べて、「入試英語長文がそれほど難しくない」という声も聞かれるなど、取り組んだ成果はそれなりにあったようです。

「入試に向かう英語教育」が支持されないのは当然ですが、それ以前に「入試に通用しない英語教育」では生徒も保護者も納得しません。中高の6カ年の授業はどうしても入試に向かってしまう部分が多いと思いますが、大学入試がなかったとしても、NEW TREASUREという教材は英語学習の土台となる基礎力をつけるのに大いに活用出来る教材になっていると思います。しかし、Stage5の後、生徒達が高校を卒業した後に様々な世界で英語を使うことを想定出来ているかと言えば、「その先の世界への扉」とまではなっていないように感じています。これはNEW TREASUREだけの課題ではなく、私たちの英語教育の課題でもあると思いますが。

基礎・基本としての土台を学んだ後に生徒達に必要なのは、「英語を学ぶこと」ではなく、「英語で生きること」だと思います。「英語は道具にすぎない」といったことがよく言われますが、長年この言葉に大きな違和感を持ってきました。「日本語は道具にすぎない」という考えを持ったことがなかったからです。もちろん、卒業していく生徒達の全てが英語と関わる訳でも、英語の人生を生きる訳でもありません。ただ、中高の学びは教科を問わず新しい人生への入口に過ぎないと思います。そうした「扉」になれるかどうか?NEW TREASUREが本物の宝になれるかどうか?これからの進化に期待するとともに我々教員も進化していかなければならないと強く思います。

 

 

プロフィール

鮫島 慶太(Samejima Keita)

【著者紹介】
東京都私立共立女子中学高等学校 英語科・進路指導部顧問・共立女子大学非常勤講師
ESN英語教育総合研究会 関東地区代表 CT教育副代表
1967年 福岡県北九州市生まれ
1990年~東京都私立共立女子第二中学高等学校勤務(13年) 中高一貫6年継続指導1回
2003年 東京都私立共立女子中学高等学校異動(本年度19年目) 中高一貫6年継続指導1回
2019年~東京都私立共立女子大学「英語科教育理論の実践」(教員志望大学3年生向け講座担当)

【教材執筆活動など】
「進学レーダー」 ICT系教材取材記事記載(HTML/RPG型教材1998-2001)
New Crown Reading (三省堂) Teacher’s Manual 執筆
NEW TREASURE Stage 1~4 Speak & Check 他 執筆協力
Argument (旺文社) CT教育についての私見執筆
English Discover (教育開発出版)1~3 監修担当
ESN英語教育総合研究会/Z会研究会にて発表(2010/2011/2016/2018/2019)
未来の先生展2018 ESN英語教育総合研究会CT副代表として発表
2018.12.23 TOEFL アライアンス総会(大阪)にて登壇発表
2019.2.23 (株)JOYZ テラトークパネルディスカッションにて登壇
2019.7.15 ミラコンフォーラム2019 にて登壇(STAR TALK の実践例)
2019.8.2 増進堂授業紹介記事掲載 https://www.manavi.zoshindo.co.jp/how-logical-speaking/
2019.12.26 教育開発出版 思考力ワークショップ(大阪会場)登壇
2021.3.28 ESN英語教育研究会&TOEFL PR/Jr.共催 発表会にてオンライン登壇

【オンライン動画教材】 「スッキリ英語解説無料動画」http://esnenglish.world.coocan.jp/englishmovie.html

【オンラインAI教材】  「AI オンライン教材」 http://esnenglish.world.coocan.jp/aitoppage.html

【ESN研究会ブログ】 https://esnsamejima.wordpress.com/

【E-mail】 kei-samejima@kyoritsu-wu.ac.jp

【Facebook】 Keita Samejima

 

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