【コラム】京都大学の入試英作文の視座を養うNEW TREASURE活用法

投稿日時:2022年2月25日

 

 

拙稿では、京都大学の入試問題で出題される英作文、特に自由英作文をNEW TREASUREを用いていかに指導するのかに対する一つの試みを紹介したいと思います。ただ、私自身が使用していたNEW TREASUREはThird Editionではありませんので、Third Editionとは内容、ページ数などが一致しないところがあることを最初にお断りしておきます。

 

 

京都大学入試の自由英作文について

近年の京都大学の入試問題では第4問に自由英作文が出題されています。設問形式としては、大きく分けて意見論述型(令和2年度)と対話文完成型(令和3年度)の2タイプに分けることができます。設問の形式が異なるということは、問われる英語力も異なります。その点を意識せずやみくもに英文を羅列しても、高得点にはつながりません。小論文でも同じことが言えますが、自由英作文で最も受験生が犯してしまう傾向にあるミスは、質問に対して正対できないことです。そのため、なんとなく文意の通じる英語を書けば良いということではなく、設問が問うているポイントを踏まえた解答を作成する必要があります。ではまず、それぞれ出題意図が京都大学から発表されていますので、そこを確認してみましょう。

 1)意見論述型(令和2年度)
英語に関する知識だけでなく、それを使いこなしながら表出する能力が定着しているかを評価する。従来の単語や文法規則の暗記に留まらず、場面・文脈・状況において、適切に英語表現を運用することができるかを確認する。具体的には、礼節を持って情報提供を依頼する文章を英語で書く基礎的な能力を判定するための設問である。依頼文の形式を踏まえ、必要となる英語の丁寧表現を適切に使用できているかが最も重要であり、文法的な正確さだけに留まらず、語用論的な的確さを評価する。

2)対話文完成型(令和3年度)
会話的な表現、会話を成立させるための文脈理解などを問う。場面や状況に応じて、適切に英語表現を運用する能力を確認する。前後の文との一貫性が維持されているかという内容面と、書かれた英文の文法的正確さを問う。

出題意図として共通している部分としては、文法的な正確性だけでなく、状況(問題設定)に応じて適切な表現を使い分けることができるか、ということです。具体的に言うならば、令和2年度においては「奨学金担当者へのメール」、令和3年度においては「対等な関係にある者同士の会話」という状況設定を意識しなければなりません。

 

ここで鍵となってくるのは2点。

一つは、やりとりをする人間関係に応じて使い分ける「丁寧さ(politeness)」という視点です。令和2年度に関しては「目上の人」を対象にしているので、問題文の設定にもあるように「丁寧な文章」を書かなければなりません。一方、令和3年度は友人間での対話であり、「対等な関係の人を対象」としているため、ここでは丁寧すぎる言い方は慇懃無礼となりうるので、ある程度はフランクな言い方をしなければなりません。

例) 窓を開けてほしい場合

① Open the window.
② Please open the window.
③ Can you open the window?
④ Could you open the window?
⑤ Couldn’t you open the window?
⑥ Would you mind opening the window?
⑦ Would it be possible for you to open the window?

上記の例で言うならば、同じ要求であったとしても①から順に⑦へと丁寧度が上がっていきます。もちろん発言する際のイントネーションにもよりますが、親しい間柄で交わす言葉としては①~③が妥当でしょう。一方、目上の人であれば、⑦に近い表現の方が適当な言い方ということになります。逆に親しい間柄で⑥や⑦の表現を用いれば逆に嫌味な言い方ととられかねません。同じ内容を伝えるにしても「丁寧さ」という視点が必要になってきます。

 

もう一つ鍵となるのは、「書き言葉(文語)」と「話し言葉(口語)」という視点です。機能文法(Functional Grammar)の創始者Hallidayは、書き言葉は語彙密度の高い名詞句が多用された簡潔な英文を用いるのに対し、話し言葉では語彙密度を下げ、節を多く用いることで相手が理解しやすい表現方法を用いると述べています。具体的には以下の例を挙げています。

【書き言葉】
例) In bridging river valleys, the early engineers build many notable masonry viaducts of numerous arches.
「渓谷に橋を架けるのに、昔の技術者達は、たくさんのアーチからなる著名な石造りの高架橋を数多く造った。」

(Halliday著 山口登・筧寿雄訳(2001)『機能文法概説-ハリデー理論への誘い-』P.552)

【話し言葉】
例)In the early days when engineers had to make a bridge across a valley and the valley had a river flowing through it, they often built viaducts, which were constructed of masonry and had numerous arches in them; and many of these viaducts became notable.
「昔、技術者達が谷に橋を架けなければならないが、谷には川が流れているという状況で、彼等はよく高架橋を造ったのだが、それらは石材で造られ、そこにはたくさんのアーチがつけられた。そしてこれらの高架橋の多くは有名になった。」

(Halliday著 山口登・筧寿雄訳(2001)『機能文法概説-ハリデー理論への誘い-』P.553)

【書き言葉】であればIn bridging river valleysの4単語で終わる内容を、【話し言葉】ではwhen engineers had to make a bridge across a valley and the valley had a river flowing through itと19語で表しています。書き言葉ではこうした語彙密度の高い表現が好まれます。学校文法で言うところの名詞構文や無生物主語構文の使いどころは、語彙密度を上げることで、よりフォーマルな書き言葉が求められる場面なのです。

 

例)彼はいびきがとてもうるさかったので、私は一晩中眠れませんでした。
① He snored very loudly, so I couldn’t sleep all night.
② His snore kept me awake all night.

上記の例では、同じ内容を表していますが、①よりも②の方が語彙密度が高く、簡潔だとわかります。言い換えるなら、①がカジュアルな話し言葉、②はフォーマルな書き言葉だということがわかります。こうした違いは「文体」の違いだと言えます。

 

前述の京都大学入試の出題意図に従えば、令和2年度の問題では目上の人へのメールは【書き言葉】が、令和3年度の友人間の対話では【話し言葉】が求められていると解釈できます。言い換えるなら、文法や構文ばかりではなく、こういった「文体」を意識した英語表現を行え、ということです。

実際、令和2年度の出題意図に「礼節を持って情報提供を依頼する文章を英語で書く基礎的な能力を判定する」と、令和3年度には「場面や状況に応じて、適切に英語表現を運用する」とあります。こうした「文体」という視点は普通に英語を学習している中では気づきにくいものなので、普段の授業から意識させていく必要があります。この「文体」を意識した指導を、NEW TREASUREを用いて具体的に紹介してみたいと思います。

 

 

「文体」の違いを踏まえる

NEW TREASURE Stage2 First Edition
Lesson 5-3(P.80)

NEW TREASURE Stage2 First Edition
Lesson 2-3(P.30)

Lesson 5-3(上記、左の図)ではマリアが友人のユミにEメールを送ろうとしています。これは友人間でのメールのやりとりなので、段落が3つありますが、いずれもインデントがありません。一方、メールよりもフォーマルである手紙においてはよりフォーマルな文体が求められます。そのため、ユミが両親に向かって手紙を書くLesson 2-3(上記、右の図)では、それぞれの段落にはインデントが行われています。

また、話し言葉と書き言葉の違いの一つに、短縮形の使用の有無があります。フォーマルな書き言葉においては短縮形は用いませんが、話し言葉では短縮形は頻繁に用いられます。そのため、上記に挙げたメール・手紙を書く場面では、短縮形は用いられていませんが、その他の対話文においては短縮形は頻繁に用いられています。

唯一ユミが両親に向けて書いている手紙のシーンでは最後にDon’t worry about me!という短縮形表現が用いられています。これは両親に対して親しみの感情を表すために、敢えて話し言葉調の書き方をしているのです。言い換えるならば、話し言葉はカジュアルがゆえに、親しい関係性を表すことができますが、逆に言うと馴れ馴れしさを含意する可能性があります。一方、書き言葉はフォーマルなので、丁寧に響きますが、同時によそよそしさを感じさせてしまいます。そのため、ユミがDo not worry about me.と書けば「ご心配には及びません」というフォーマルな印象を与えることはできますが、ある意味他人行儀な印象を与えてしまいます。そのため、こういった文脈では、Don’t worry about me.と短縮形を用いることで、「心配しないでね」くらいのニュアンスとなり、関係性の親密さを表すことができ、より適切な表現と言えるでしょう。

 

こうした文体の違いを知っておけば、共通テストの問題に関しても、少し見方が変わります。令和3年度(2021年度)第2問Bでは校長と生徒の間での公的なメールでのやり取りなので、インデントも行われていますし、短縮形も用いられていません。一方、第4問のメールは教師と生徒ではあるものの、カジュアルな関係の間柄で交わされたものなので、文体としてはインデントも行われておらず、短縮形が用いられています。

 

〈令和3年度(2021年度)大学入学共通テスト 第1日程 英語リーディングより〉

●第2問B

●第4問

 

最初の論点に戻りますが、こうした文体の違いを踏まえることが京都大学の出題意図にある「場面・文脈・状況において、適切に英語表現を運用する」力と言えます。例えば、令和2年度には「礼節を持って情報提供を依頼する文章を英語で書く」ことが求められていますが、こうした場合はカジュアルな文体ではなく、フォーマルな文体で解答することが必要となるでしょう。一方、令和3年度の問題では、逆にカジュアルな文体で解答することが求められています。

 

 

NEW TREASUREの活用方法

次に、京都大学の令和3年度入試のような対話文完成型の形式に対応するために、具体的にNEW TREASUREをどのように活用していくのか実践例を見てみましょう。対話文完成型の問題にはNEW TREASUREのGrammarに掲載されている対話文がちょうど手ごろな素材となります。

 

【NEW TREASURE Stage2 First Edition Lesson 1-3】

Kevin:  Would you and Carlos like to go to the ball game with me this evening?
Yumi:  Sure, Kevin! Shall I call Carlos now?
Kevin:  Yes, please. Would you like to invite Ming, too?
Yumi:  Yes, I ‘d like to. That’s a good idea!
Kevin:  Great. Will you call Ming?
Yumi:  OK.
Kevin:  The ball game begins at seven o’clock. Let’s leave home at six thirty.


《出題例》
Kevin:  Would you and Carlos like to go to the ball game with me this evening?
Yumi:  Sure, Kevin! Shall I call Carlos now?
Kevin:  Yes, please. (  ①  )
Yumi:  Yes, I ‘d like to. That’s a good idea!
Kevin:  Great. Will you call Ming?
Yumi:  OK.
Kevin:  The ball game begins at seven o’clock. Let’s leave home at six thirty.

★初級
問.空所に当てはまる適切な英文を次のア〜エのうちから一つ選びなさい。
ア.I don’t want to go to the ball game.
イ.Shall I invite Ming, too?
ウ.Would you like to stay home, too?
エ.Would you like to invite Ming, too?

★中級
問.空所に入る英文として適切なものになるよう、空所に適切な語を入れなさい。
Would you like to (  ) Ming, too?

★上級
問.空所に入る適当な英文1文を完成させなさい。

上記の問題を解く際に生徒に意識させたいのは、京都大学の出題意図にある「前後の文との一貫性が維持されているか」という点です。空所①の後にはYes, I’d like to.とあるので、Would you likeから始まる疑問文が入ることが文法面から推測されます。また、toの後に省略されている動詞句を推測し、次文のThat’s a good idea! そしてWill you call Ming?との内容面での整合性を取れる英文を考えればよいのです。対話文型の英作文の導入期であれば、「初級」や「中級」形式の問題から取り組んでみるとよいでしょう。こうした形式の問題に慣れさせておくことで、受験期の過去問演習時にスムーズに入っていけるでしょう。

 

また、接続詞に続く表現が求められる問題もあるので、次のような活用方法もあります。

【NEW TREASURE Stage2 First Edition Lesson 2-4】

Mrs. Baker:  Oh, Yumi! You came home early.
Yumi:     Yes. I left school early because I felt sick! I feel so tired!
Mrs. Baker:  Would you like a glass of water? Or something to eat?
Yumi:     No, thanks. I’d like to go to bed right now though it’s early. If I sleep, I’ll feel better.
Mrs. Baker:  OK. You went to bed late last night. Sleep well, Yumi.


《出題例》
Mrs. Baker:  Oh, Yumi! You came home early.
Yumi:     Yes. I left school early because (  ①  )! I feel so tired!
Mrs. Baker:  Would you like a glass of water? Or something to eat?
Yumi:     No, thanks. I’d like to go to bed right now though (  ②  ). If I sleep, I’ll feel better.
Mrs. Baker:  OK. You went to bed late last night. Sleep well, Yumi.

問.空所①、②に入る適当な英文1文を完成させなさい。

 

以上の例はNEW TREASURE Stage2から引用しましたが、英文がより高度となるStage3であれば、より京都大学の入試問題レベルに近いものとなるでしょう。意見論述型はテーマを設定すれば作問は比較的簡単ですが、対話文完成型は素材文を用意するのが大変です。ただ、NEW TREASUREを用いればAuthenticな対話文を豊富に用意できる上、書かせたい文法項目も絞った上で作問できるので非常に重宝します。また、自由英作文でありながら、解答の帰着点をある程度集約させ、その後の解説においても、ポイントを明確することができるので、京都大学の入試問題に向けて導入としても使い勝手が良いと感じています。

私は現在は高校2年生を担当していますので、生徒たちもStage2やStage3の英文内容をはっきりとは覚えていません。そのため、既習内容の復習も兼ねて、敢えてStage2やStage3の対話文を再利用しています。

 

 

おわりに

これまでの英文法の教育では「正確性(accuracy)」や「流暢さ(fluency)」といった観点にスポットライトが当てられてきました(少なくとも私にはそう感じられました)。コーパス研究が進むにつれて、CEFRといったフレームが作成され、伝わる英語からより自然な英語に、すなわち「真正性(authenticity)」を重視した英語教育へとシフトしてきたように思います。そんな中で、京都大学が発表している出題意図を見れば、単に英語というのは伝わればよいということではなく、TPOに応じて「適切に」英語が運用できる力が求められていることがわかります。したがって、話し言葉、書き言葉に代表される「文体」(あくまで「真正性(authenticity)」の下位カテゴリではありますが)にもっと目を向ける必要があるでしょう。

NEW TREASUREは緻密に体系化された文法配列に加え、読者の知的好奇心をくすぐる英文が掲載されています。また、検定教科書よりもはるかに明示的に示された音声指導、Critical Thinkerを養う活動項目など、そのままLesson通りに進めていっても、多様な英語力を養うことができる優れた教材だと思っています。しかしながら、「文体」という観点に関してはあくまでも暗示的な扱いとなっていますので、指導側が意識的に生徒たちに教授しなければ見過ごされてしまいます。これはあまりにもったいないことだと思いますので、生徒たちには京都大学の出題意図に触れ、「文体」という観点を意識した学習に臨むよう指導していけば、NEW TREASUREをより一層活用できるのではと思います。

 

 

 

プロフィール

村山 翔大(Murayama Shodai)

奈良学園登美ヶ丘中学校・高等学校 英語科教諭。大阪大学文学部卒。教員歴17年目。
(※画像は勤務校のマスコットキャラクター「なとみん」です。)

 

 

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