【コラム】共通テスト対策としてのNEW TREASURE活用法

投稿日時:2022年5月27日

 

 

拙稿では、共通テスト、特にリーディング対策をNEW TREASUREを用いていかに指導するのかという一つの試みを紹介したいと思います。ただ、私自身が使用していたNEW TREASUREはFirst Editionになりますので、Third Editionとは内容、ページ数などが一致しないところがあることを最初にお断りしておきます。

 

 

1.共通テスト英語リーディングと「発問」

2021年1月に、それまで30年続いていた大学入試センター試験に替わり、大学入学共通テストが実施されました。その記念すべき第一回共通テスト(英語リーディング)の第1問は、「発問」という観点で見ると非常に示唆に富むものでした。

〈令和3年度(2021年度)大学入学共通テスト 第1日程 英語リーディングより〉

●第1問A

意識にせずに解けば、それほど難しくもない、平易な問題ですが、この問1と問2には問題作成者たちのテスティングの研究の叡智を垣間見ることができます。そのためにはまず、リーディングの試験における作問の仕方について一体どういう研究が成されているのかを見てみましょう。

 

 

2.発問の3形式

読解に関して、理解力を測る発問形式としては、大きく分けて①事実発問②推論発問③評価発問の3種類があります。以下は『英語リーディング事典』からの抜粋です。

読解発問は,その質問内容により,①事実を問うもの,②推論を促すもの,③応用としての評価読みを促すもの,に大別できる。一般的にこの順番に認知負荷 (cognitive load) も高くなる。
また,①と②はふつう適切な答えが存在する収束的質問 (convergent questions) であり,③は回答者独自の異なった答えを要求する拡散的質問 (divergent questions) である。

高梨庸雄・卯城祐司編『英語リーディング事典』(研究社出版)より

また、『推論発問を取り入れた 英語リーディング指導』(田中武夫・島田勝正・紺渡弘幸著/三省堂)では、①事実発問を「テキスト上に直接示された内容を読み取らせる」、②推論発問を「テキスト上の情報をもとに、テキスト上には直接示されていない内容を推測させる」、③評価発問を「テキストに書かれた内容に対する読み手の考えや態度を答えさせる」とそれぞれ定義しています。

では、具体的に違いを見てみましょう。

例)Hearing her remarks, Bob banged the desk with his fist and left the room without saying a word.
(彼女の発言を聞いて、ボブはこぶしで机をドンとたたき、一言も口をきかずに部屋を出て行った。)

【事実発問】
(1) Did Bob bang the desk with his fist? ⇒Yes.
(2) Did Bob say anything when leaving the room? ⇒No.

【推論発問】
(3) How did Bob feel when hearing her remarks? ⇒He felt angry.

【評価発問】
(4) What would you say to Bob?

【事実発問】である(1)と(2)は、例文に明示的に書かれている内容についての質問なので、読み手ははっきりと答えを出すことができます。しかし、【推論発問】である(3)は、例文では明示的に述べられていない内容についての質問であり、読み手は推測するしかなく、最も妥当な、もしくは多くの人の理解を得られるものを解答するしかありません。そして、【評価発問】である(4)は、例文の内容に関して、読み手の意見を問うものであり、これに関しては正解・不正解を確定させることすら難しくなります。

当然【事実発問】→【推論発問】→【評価発問】の順に客観的→主観的となり、【事実発問】の方が解答者にとっても作問者にとっても易しいものとなります。【評価発問】は読み手次第で答えが変わってくるため、いわゆる「開かれた質問」であり、正否を設定するには相当の技量が必要となります。

 

 

3.発問形式から見た共通テスト

上記3つの発問形式の種類を確認した上で、改めて先ほど1.で提示した共通テストの問題を見てみましょう。

〈令和3年度(2021年度)大学入学共通テスト 第1日程 英語リーディングより〉

●第1問A

問1に対する解答の根拠となるのは、最初のJulieの発言の5行目にCan you bring my USB to the library?と書かれている箇所で、正解はだと判断できます。この場合、解答の根拠が明示的に書かれているので、【事実発問】であるとわかります。一方で、問2は「あなたならどう返信しますか」というあなたの考え・意見を問う、【評価発問】であることがわかります。正解としてはの「それを聞いてほっとしたよ」が一番妥当だと考えられますが、あくまでもこれは消去法的に浮かび上がってきた結果に過ぎません。人によっては、うっかり者のJulieに怒りを覚えている人もいるでしょうから、が正解だと言われてもしっくりこない人もいるでしょう。あくまでもは「最も妥当」であるに過ぎず、絶対的に一つに導かれる解釈ではありません。【事実発問】と【評価発問】ではこれほどに正解に至るプロセス、着眼点が異なります。言い換えるならば、問1と問2では問われている(測られている)学力が異なるわけです。

 

次に【推論発問】を見てみましょう。2022年度の共通テスト英語リーディング第3問からの抜粋です。

〈令和4年度(2022年度)大学入学共通テスト 英語リーディングより〉

●第3問A

まず、注目するべきポイントは問2の問題文です。ここではmost likely(最も可能性が高い)と設問設定が行われています。問1のように「~である」と言い切り、断定するのではなく、「一番妥当そうなのは」というぼかした言い方になっています。これはこの問いが問題本文に明示的に書かれている内容ではなく、あくまでも読み手が推測するしかないということを示しています。こういった問題が【推論発問】であり、多くの場合、問題文がshowやsayなど言い切り型の動詞ではなく、implyやindicateといった「暗に示す」「含意する」といったぼかした動詞設定となっています。

問2の解答の根拠となるのは、問題本文の第2段落の2行目、Some people were laughing, but somehow I didn’t find it funny. It may be because I don’t know much about Japanese culture.(中には笑っている人たちもいたが、私はどういうわけか落語を面白いとは感じなかった。それはおそらく日本の文化を私がよくわかっていないからだろう。)とあります。正解は confused(混乱した・困惑した)ですが、Emilyは「面白くは感じなかった」と述べているだけでconfusedしたとは明言していません。ただ、自分が面白いと思えないのに、周囲の人が笑っていれば、おそらくEmilyは困惑したであろうことが推測できます。このように、文章にちりばめられたヒント情報を結び付け、一番妥当な解答を推測するのが【推論発問】の特徴と言えます。

 

このように、共通テストには一見すると同じように見える選択型読解にも、大きく分けて3種類の発問形式があり、解答に至るプロセスも異なることを見てきました。生徒たちに共通テストの過去問や演習問題を解かせる際に、こうした求められている読解力の違いを理解させておくことは有効でしょう。指導者としてもやみくもに過去問や類似形式の問題を解かせるだけではなく、どのような読解力を養うべきなのかをはっきりさせた上で、日ごろから指導していく必要があります。

 

 

4.共通テストを意識したNEW TREASURE活用法

では、具体的にNEW TREASUREを用いた指導法を紹介していきます。ポイントとしては、一つの文章・対話文を取り上げた際に、【事実発問】【推論発問】【評価発問】の段階で、質問を掘り下げていくことです。

 

【NEW TREASURE First Edition Stage2 Lesson2-4】

上記の文章を解説・活動した後で、以下の順で発問していきます。

【事実発問】
(1) Why did Yumi come home early?
⇒Because she felt sick and tired.

【推論発問】
(2) How did Mrs. Baker feel when she saw Yumi come home early?
⇒She was surprised (to see Yumi come home early).

【評価発問】 授業中は自由回答にし、試験では選択肢を用意する。
(3) (あなたがYumiだったとして)What would you reply to Mrs. Baker’s last remark?
(4) (あなたがMrs. Bakerだったとして)What advice would you give to Yumi?

定期試験など評価のために客観性を持たせるためには当然、(1)のような【事実発問】であることが望ましいでしょう。しかし、生徒たちに深い読み込みを求めるためには、(2)のような【推論発問】を組み込むことで、表面的な浅い読み飛ばしを防ぐ効果が期待できます。また、選択肢をつくるとなると、作問上の手間はかかりますが、(3)・(4)のような【評価発問】を出題し、問題慣れ、出題の意図を理解する訓練をしておくことで、普段の授業の中で、共通テストを意識した指導をすることができます。

 

 

5.まとめ

共通テストに関して言うと、上記の内容以外にも、図表やグラフを用いた情報統合型の問題が出てきます。こういった、いわゆるTOEFLやIELTSなどで言うところのCross Reference系の問題もまた、共通テストでは強く意識しておかなければなりません。ただ、こういった問題はそもそも素材を用意することが大変です。それに対して、上記の出題形式に着目した指導は、普段の授業の素材を少し工夫することで、簡単に行うことができます。しかも、こうした問題設定は意識して注目しなければ、同系統の選択肢型読解問題として混同してしまいがちです。我々教員も試験で長文から問題を作成する際に、どうしても【事実発問】の出題に傾倒してしまいがちです。しかし、【推論発問】を組み込んでいくことで、生徒たちには和訳だけではなく、思考しながら読解するように促していくことができます。また、【評価発問】を設定することで、生徒たちは単なる読解作業から発話活動へ、InputからOutputへと転換することができ、1つの素材で複数の技能を鍛え、かつ共通テストを見据えた受験指導も行うことができます。

近年、コミュニケーション中心の授業が展開され、文法訳読式の授業が軽視される傾向があるように感じています。難関大学の入試問題に取り組むには、どうしてもオーラル活動の時間をどこまで抑えて、受験指導に入っていくか、というような【受験英語(学習言語)VS日常英語(生活言語)】といった単純な二項対立の関係性に議論が収束しがちです。しかし、一言で読解問題と言えど、テスティングの研究が進んだ現在では「訳して終わり」という出題のされ方はしていません。同じ選択肢型の読解問題であっても【事実発問】【推論発問】【評価発問】といった、形式の違いがあり、共通テストではそれらを組み合わせて問題が構成されています。そうした観点を意識すれば、普段の活動の中で、受験指導も兼ねて授業を進めることができます。言い換えるならば、共通テストをしっかりと分析しておけば、受験英語と日常英語は対立するものではなく、互いに補完し合うものにできるはずです。

 

 

 

プロフィール

村山 翔大(Murayama Shodai)

奈良学園登美ヶ丘中学校・高等学校 英語科教諭。大阪大学文学部卒。教員歴18年目。
(※画像は勤務校のマスコットキャラクター「なとみん」です。)

 

 

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