【コラム】NEW TREASUREで始まる対話的な授業②

投稿日時:2022年6月30日

 

はじめに

皆さん、こんにちは!かえつ有明中・高等学校でサイエンス科・プロジェクト科の主任をしております、田中理紗と申します。

かえつ有明中・高等学校ではサイエンス科・プロジェクト科の授業を中心に全教科で対話的な学びの展開を目指しております。私がサイエンス科・プロジェクト科の主任をしておりますので、今日はサイエンス科・プロジェクト科についても、少し紹介させてください。

かえつ有明中・高等学校は、嘉悦女子中高という100年近くの歴史を持つ学校が約17年前に東雲に移転・共学化し、スタートいたしました。その時からオリジナル教科のサイエンス科を中学で開講しております。サイエンス科と申しましても、理科ではありません。ご存知の通り、scienceには「体系化された知識や経験の総称」という意味合いもあります。かえつ有明中・高等学校では「学ぶ」「探究する」「考える」ために必要なスキルやマインドがあると考えており、サイエンス科ではそのスキルやマインドについて学びます。これらのスキルにはもちろん個人の得意・不得意はあるかもしれませんが、本校ではこれは環境や機会によって後からでも身に付けることができるスキルであると捉えています。これらを学ぶのがサイエンス科という教科です。そしてその高校版がプロジェクト科にあたります。

さて、前回こちらのコラムを執筆させていただいた際には、「NEW TREASUREで始まる対話的な授業」という記事で本校の「スパイダー討論」の実践について紹介させていただきました。こちらの「スパイダー討論」の実践は、本校では英語の授業ではもちろんですが、サイエンス科の授業やプロジェクト科の授業でも同様に展開されております。実は、サイエンス科・プロジェクト科の授業をハブにしながら、あらゆる教科の授業の中で対話的な授業が展開できるように、教員も生徒も共に学ぶというスタイルを取り入れております。

では、今回は、「NEW TREASUREで始まる対話的な授業②」として、NEW TREASURE Third EditionのActionパートにご活用いただける対話的な授業実践について紹介させていただきます。

 

 

NEW TREASURE Third Edition Actionパートに関して

 

<例:NEW TREASURE Third Edition Stage1 Lesson3 Actionパート>

 

皆さまもご存知の通りNEW TREASUREのThird Editionでは、アウトプットを中心に据えたActionパートが新たに設けられています。Actionパートは、Prepare、Share、Discussの3段階の構成になっています。Stage1のDiscussは、日本語で行うことを前提にしながらも、Shareのステップでは英語で表現する活動につながっているので、生徒の習熟度によってはそのまま英語で展開することも可能になっています。このフレームワークは本校の授業のスタイルにもフィットしていると感じていて、例えばサイエンス科の授業で、日本語でテーマについてディスカッションをした後に、英語で自分の意見をどのように伝えるか考えることもできそうです。反対に、英語の授業でシェアした知識を基に、よりディスカッションを深める活動として、サイエンス科で日本語で議論していく展開もできると感じました。このように、コンテンツの扱い方によっては、道徳や総合的な学習の時間、生徒の探究活動につなげることができるところも魅力だと感じています。

今回はこのActionパートでも使える対話的な授業実践として、フィッシュボウル・ディスカッションを紹介させていただければと思います。

 

 

対話的な授業への展開
~フィッシュボウル・ディスカッション~

フィッシュボウル・ディスカッションというディスカッションの形態をご存じでしょうか?こちらは家族療法分野で注目されている「オープンダイアローグ」という支援方法の考え方や手法の一部としても知られているディスカッションの形態です。私自身もフィッシュボウル・ディスカッションという形態自体は、以前からアメリカの学校の実践として見たことがありました。Youtubeでも、アメリカの学校でのさまざまな実践が紹介されていました。本格的にフィッシュボウル・ディスカッションを学ぶきっかけになったのは、「オープンダイアローグ」の理論的主導者であるセイックラ氏と、オープンダイアローグの派生型ともいえる「未来語りダイアローグ」を開発したアーンキル氏が共同執筆した『開かれた対話と未来―今この瞬間に他者を思いやる―』という書籍を読んでからでした。

フィッシュボウル・ディスカッションでは、外側の円と内側の円という二重の円の形で生徒は着席します。そして、外側の円に座っている人たちは内側の円を観察します。その観察している様子を金魚鉢を眺めている人たちになぞらえて、フィッシュボウル・ディスカッションと呼んでいるようです。

フィッシュボウル・ディスカッションには大きく2つのスタイルがあるように思います。1つは、ディスカッションにおいて、外側の円に着席している人たちと内側の円に着席している人たちが随時入れ替わるスタイルと、もう1つは、ディスカッションの時間が終わるまで外側の円に着席している人たちと内側の円に着席している人たちが入れ替わらないスタイルです。
私の英語の授業では前者のディスカッションに参加する生徒たちが随時入れ替わるスタイルを採用しています。というのは、自分のタイミングでディスカッションの円の中に入るという意思が生徒の中から湧き上がることが大切で、その瞬間を待ちたいと考えているからです。

 

以下のようなグランドルールを用いています。

RULES FOR FISHBOWL DISCUSSIONS
1. Only one person speaks at a time.
2. Participants must use cues such as body language and eye contact to determine when it is appropriate to speak.
3. If two people start to speak at the same time, one must yield.
4. All participants look at the person speaking.
5. Questions can be asked to other participants in the inner circle to motivate them to join in.
6. Disagree politely.
7. State your ideas and support them with evidence.
8. Respond to the comments of other participants by agreeing or disagreeing and offering additional evidence.
9. Record notes that other participants say and your ideas.
10. The teacher does not participate in the discussion.

 

また以下のルーブリックに基づいて自己評価をします。

RUBRIC FOR FISHBOWL DISCUSSIONS
1~2 : – Sitting in the circle and taking notes.
3~4 : – Actively listening to the discussion. Taking detailed notes about the discussion.
5~6 : – Not only actively listening and taking notes, but also entering the inner circle and tried to speak out.
7~8 : – Not only actively listening and taking notes, but also entering the inner circle and contributing to the conversation.
9~10 : – Not only actively listening and taking notes, but also entering the inner circle and leading the discussion and helping others to join and talk in the discussion.

上記のルーブリックにも記載がありますが、生徒たちはディスカッションの間にメモを取ります。全くディスカッションに参加しない生徒も聞くことに熱心に取り組んでほしいと思っているためです。聞くことへの徹底が、ディスカッションの場の安心安全につながると考えています。メモの様子やディスカッションへの参加の度合いをルーブリックに基づいて自己評価をしてもらいます。

 

<ディスカッションに取り組む生徒たちの様子>

 

振り返りをするときには、ディスカッションを観察していた教員も交えながら、生徒たちもメモに基づいて、自ら振り返り、またお互いにフィードバックをしていきます。

本校ではこのフィッシュボウル・ディスカッションを、スパイダー討論をある程度経験した次の段階として、英語の授業やサイエンス科・プロジェクト科の授業で展開します。そうすることで、大人数の中でも、日本語だけでなく英語でも対話していく力を養っています。

 

生徒からのコメント

以下がフィッシュボウル・ディスカッションに1学期間取り組んだ中学校1年生の英語中級クラス(Advanced Class)の生徒たちからのコメントです。

  • I should speak a little more but I think it is fine right now.
  • My friends gave me a chance to talk, although I couldn’t talk like my other friends.
  • I thought that I couldn’t really speak up in the discussion today. I had some ideas that I wanted to say at the end but there was no more time so I couldn’t say it. I thought that I should let other people get in the discussion more because some people weren’t able to speak up today.
  • I didn’t research for the topic so I had to prepare for the topic.
  • I think I didn’t speak as much as the last time I did the fishbowl discussion. I think the reason for this was because the topic was hard but I think if I did a little bit more research it would have been easier to discuss.
  • I could only speak a little bit at the end. Next time, I would like to join the discussion at an earlier stage.

 

上記のコメントからは、自分自身や議論を俯瞰して見ることができていることが分かります。また、生徒たちのディスカッション中における葛藤を読み取ることができます。対話的な授業が成り立つためには、生徒一人ひとりがディスカッションで起こる出来事を自分事としてとらえられることがとても大切だと感じています。それにより、自分自身や相手についての理解が深まったり、成長を感じたりするきっかけになることがあるからです。その意味で、スパイダー討論も、フィッシュボウル・ディスカッションも、継続して取り組むことがとても大切で、何度も取り組んでいく中で、一人ひとりの意識が変わり、お互いに成長し、結果としてディスカッションが成熟し、深まっていくという現象が起きてきます。

 

 

終わりに

本校では、スパイダー討論、フィッシュボウル・ディスカッションだけでなく、帰国生クラスのPhilosophyの授業、哲学対話やディベートの授業、傾聴の授業、インタビュー等も取り入れ、対話的な授業を実践するためのさまざまな工夫をしています。さまざまなテーマで対話する機会を通して、生徒たちが他のクラスメイトの新たな一面を知るだけでなく、自分自身や身の回りのこと、世界についても新たな発見をしていくことができると感じています。

ぜひ機会があれば、本校の英語の授業やサイエンス科・プロジェクト科の授業を見学に来ていただき、これからの対話的な授業の在り方について一緒に考える機会をいただけるととても嬉しいです。NEW TREASUREを用いた新しい対話的な授業の在り方を一緒に考えていきましょう。

 


 1 ヤーコ・セイックラ,トム・アーンキル(2019)『開かれた対話と未来―今この瞬間に他者を思いやる―』医学書院

 

 

プロフィール

田中 理紗(Tanaka Risa)

1986年東京生まれ。9年の海外経験を持つ帰国生。私立かえつ有明中・高等学校教員。日本一帰国生に温かい学校づくりを目指し、現在4人に1人が帰国生という学校に。同校オリジナル科目サイエンス科、プロジェクト科において、生徒のワクワク感を大切にしながら、思考力・表現力育成のためのスキルやマインドを育成するための授業を目指す。2018年には東京学芸大学教職大学院教育実践創成専攻で新学習指導要領と国際バカロレアのTOKの趣旨を踏まえた授業づくりに関する研究に取り組んだ。「社会課題解決 総合学習ノート」ネリーズ出版(2018)、執筆協力。「ピア・フィードバック」新評論(2021)、共同翻訳。

 

 

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