【コラム】授業構成の軸

投稿日時:2022年7月29日

 

 

はじめまして。福岡大学附属大濠中学校・高等学校の奈良圭と申します。本校は中高一貫コースが4クラス、高校入学クラスが10クラスの比較的生徒数の多い学校です。私は中高一貫コースにて11年間、NEW TREASURE (以下NT)を使用した授業を担当してきました。本校の中学課程ではStage1~3、高1・高2でStage4・5を採用するのが通例となっています。

さて、本コラムでは私が日頃から授業づくりの指針としている「型」を紹介したいと思います。恥ずかしながら、本校赴任3年目までは自分の授業に確固たる軸もなく、「何となく上手くいった」「今日は生徒の反応がいまいちだった」というような、感覚に頼った授業づくりが中心だったと思います。授業の上手な先輩方から学ぶ姿勢はあったものの、その手法を単発的に取り入れるだけで、それを持続可能な形で自分のものにはできてはいませんでした。

転機となったのは本校赴任4年目。中高一貫コースの20期生を6年間担当することが決まった年です。担任はもとより、教科担当としても6年間の英語指導に責任を持つことになります。これを機に過去の指導内容を振り返り、初めて「授業の軸」を求めて深い試行錯誤を行いました。それまで授業内容のメモ作成とともに、生徒の反応を大まかに◎、〇、×で記録していたことから、これをもとに「生徒が関心を持ち、積極的に取り組んだ授業」の共通点を書き出す作業を行いました。正直「よくこれで授業をしていたなぁ」と生徒に申し訳なくなる授業案やプリントもたくさんありました。それでも、振り返りの中から出てきた◎および〇の共通点を整理すると、次のようなパターンが見えてきました。

非常にシンプルなフレームワークではありますが、これがその後の私の授業づくりの中心的な指針となり、その後の6年間を走る原動力になったと思っています。ここではNTのStageを問わず、私の指導実践例の一部を共有させていただければと思います。

 

 

指導実践例 1:単語学習

中1から高1課程まではWORD LISTと名付けた次のようなシートを作り、単語テストを実施しました。このWORD LISTは15個×6ブロックに分かれており、シート1枚でテストを計6回行います(1回10点✕6回=計60点満点)。単語テストを上記のフレームワークで実施することで、学年平均点は毎回54点(90%)前後を推移するようになりました。特に中学期は「自信を与える」ことが指導の主眼の1つになります。そのため単語学習に目に見える成果が伴うことは大きなメリットであると思います。

 

WORD LIST

 

[手順] 計10分程度の帯活動です。
❶ 知識 … 単語の読み確認 (教師に続いてリピート)
❷ 運用

… (1) サイト・トランスレーション(各自で1分間練習・日本語⇒英語)
… (2) クイック・レスポンス(ペアで1分交替・日本語⇒英語)
… (3) 文字トレーニング(綴りの最終チェック)

❸ 評価 … テスト(教師が英単語を発音し、生徒は綴りと日本語の意味を書く)

このWORD LISTにはNTで出てくる語彙を多く盛り込んでいます。直近のLessonの語彙から、1か月先のLessonで扱う語彙も(こっそりと)掲載しています。先取りの語彙については単語テストを通じてまず覚え、定期考査で復習し、その後のLessonでもう一度その語に出会う仕組みにしています。これによって新出語彙の導入時間が削減でき、「英語で授業」の形態も取りやすくなるというメリットがあります。
単語帳を用いた指導経験もありますが、覚える語彙が「本時の授業」の文脈から離れるために、生徒が単語帳と教科書本文の語彙を二重にインプットするという負担が生じます。作成にかなりの時間を要しますが、生徒がNTと深く親しむためのアイテムの1つとしてWORD LISTを活用しています。

 

指導実践例 2:英文理解

続いてNTの本文(Scene)とReadにおける実践例を紹介させていただきます。導入では教科書のイラストや写真をモニターに映しながら、英文の内容を推測させるQ&Aなどから入ります。内容理解については、本文であればペアでのサイト・トランスレーション(前半部・後半部で交替し、口頭で日本語に訳しおろす活動)を行った後、クラス全体でキーセンテンスの意味確認およびポイントの解説を行います。Readのような長めの文章であれば、内容に関するbig questionsを投げかけ、その答えを読み取らせる活動を切り口に文章全体の大まかな内容理解を進めます。ここまでを「知識」としています。

次に「運用」と「評価」についてですが、ライティングやスピーチといった表現活動ではなく、NTの英文素材の習熟を目的とした活動の紹介になりますのでご了承ください。

[例] Third Edition Stage1 L10 Read <Let’s Drink and Eat Water Bubbles.>
❶ 知識 … 内容理解
❷ 運用 … 本文の音読練習 (プリントA(下記参照))
❸ 評価 … 確認テスト (プリントB(下記参照))

 

プリントA

プリントB

 

このReadに限らず私は音読練習を「運用」に位置付けることが多く、生徒の英文インプットおよび音声面の習熟を目指すようにしています。特に中学課程では音読のようなclosedな活動のウェイトを高くし、まずは表現のための材料獲得を意識しています。昔はこの「運用」で授業を終えることがほとんどでしたが、「評価」としてプリントBのような確認テストを音読に続けて行うことで、生徒の音読が活性化することが分かりました。「評価」は数字で測る形態が有効です。上記のプリントBは比較的簡単な問いで、10点満点で設定しています(負荷は生徒の状況に応じて調整します)。音読直後にさっと取り組み、落ち着いた雰囲気を取り戻しつつ、「できた!」という採点後の達成感に満たされた雰囲気の中で授業を閉じることができます。音読という「運用」だけで、その先の評価設定がない場合は、「どうして何度も読むの?」という生徒の疑念を生じさせかねません。普段から音読の有効性を説明していても、です。音読の声が小さくなるときは、音読の行き着く先が生徒に見えていないときだと考えています。

 

指導実践例 3:英文要約

英文を正確に読めているか - この確認は生徒のアウトプットを通じてのみ可能となります。私の授業では、生徒は読み取った内容を「キーワード」や「記号」を用いてシンプルに表記しています。授業ではこれを「要約チャート」と呼んでいます。

[例] Second Edition Stage3 L10 Read <Friendship between Turkey and Japan>
❶ 知識 … 単語の知識・背景知識
❷ 運用 … 英文を読み、要約チャートを作る。
❸ 評価 … 要約チャートを元に、ペアでRetelling活動を行う (メモを見ながら、英語で内容を説明する)。要約チャートを教師が3段階で評価する。

 

要約チャート:生徒例1

要約チャート:生徒例2

 

「運用」段階では要約チャートの作成から、その要約チャートを用いてのRetellingを行います。その後教師は回収した要約チャートを3段階で評価し、返却します。Perfect, Almost Perfect, Not Trueという基準を作り、誤りがあれば該当箇所に下線を引いて返却するというシンプルなものです。左の生徒例1のプリントは成績上位の生徒、右の生徒例2のプリントは中位の生徒のものです。英語が苦手な生徒は記述量が少なくなりがちですが、量ではなく、書いた内容が合致しているかどうかで評価をするため、ほぼ全ての生徒がPerfect または Almost Perfectに該当します。基本的に授業では前向きな評価をしてあげたい、という考えから設定した評価方法です。

 

 

まとめ

若いうちは熱意で生徒を引っ張り、それだけでも生徒は授業に臨んでくれたと思います。しかし6ヵ年の付き合いとなると、学力保証の観点から生徒、保護者ともにシビアな目で我々教員を見るものです。
どのようにすれば学力がつくと納得してもらえ、授業がマンネリ化せず、新鮮さを失わずに興味関心を持ち続けてもらえるか。大げさなようですが、この職責を果たすにあたりNEW TREASUREという5年間の課程を横断する安定感のある教科書とともに、この「知識」→「運用」→「評価」というフレームワークは私の重要な指導の拠り所として機能しています。

本コラムで紹介させていただいた3つの実践例は教科書内容の習熟を目指すというclosedな性質のものですが、ライティングやスピーキングといった表現活動も「評価」の設定次第で、大いに活性化する余地を含んでいます。活動の意図と目標を学習者と共有し、見通しを持ってもらう。これを可能にするのが「評価」の役割であり、運用活動の活性化につながります。
さらにこのフレームワークは、既存の教材をどのように扱うべきかという視点も与えてくれます。一般的な文法参考書であれば「知識」、暗唱例文集は音読や筆写による「運用」、問題集は解く・丸つけをすることから「運用」と「評価」というように捉えることができ、教師が「知識・運用・評価」のうち欠けている部分を補うように使う。これによって生徒の当該教材への関わり方を活性化することができます。

最後になりますが、私とNEW TREASUREのつながりはこれからも続きます。他の先生方の実践もたくさん参考にさせて頂きながら、本教科書の魅力をさらに引き出せるよう工夫と努力を重ねていきたいと考えています。今回の私の実践例が少しでも参考になれば幸いです。ありがとうございました。

 

 

プロフィール

奈良 圭(Nara Kei)

福岡大学附属大濠中学校・高等学校 教諭。教員歴15年。
大学卒業後一般企業に3年間勤めた後教員の道へ。
中学バスケットボール部顧問を務め、生徒と一緒にたくさん走っています。

 

 

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