投稿日時:2023年9月29日
こんにちは、久留米工業高等専門学校にて英語の教員をしている白井と申します。私立の中高で10年間勤務したのち、大学院進学を経て高専にうつりました。こういった経緯から、今は中高の先生と協働して色々な学校で共同実践をやらせてもらっています。
NEW TREASUREの長文って、内容が本当に良いんですよね。今回このコラムを執筆するにあたり編集の方ともやりとりをしたのですが、やはり長文の内容にはこだわって編集をされているとのこと。独自性のある内容について深掘りして取り上げられているため、検定外教科書を使用する醍醐味を体感できると私は思います。
せっかく素晴らしい内容で書かれている英文ですので、これに対して生徒が考えたり感じたりしたことを英語でアウトプットさせたいですよね。そのために最適な手法がCLIL [Content and Language Integrated Learning: 内容言語統合型学習]であると私は考えます。(「ウチの生徒たちはNEW TREASUREの難しい英文を理解するので精一杯で、内容について考えたりするのはムリ!」と思われる先生もいらっしゃるかもしれませんが、その場合の対応策についても後述致します。)
CLILは英語学習だけでなく、内容学習の実現も目指す授業についての考え方です。言い換えれば、「英語を学ぶ」ことだけでなく、「英語で学ぶ」ことも目指すのがCLIL授業です。「英語を学ぶだけで精一杯なのに、内容学習も目指すなんてハードルが高い!」と思われるかもしれません。これは「英語」と「内容」を「足し算的」に捉えている考え方ですが、CLILでは「英語」と「内容」の関係について、単純な足し算の関係にはないと考えます。「内容」が豊かだからこそ「英語」で読みたい・話したいと思いやすくなり、結果として「英語」が身につきやすくなるし「内容」学習も深まる、というような認識がCLIL的な考え方です。つまり「内容」と「英語」はもう少し密接に絡み合っているので、両方を指導対象とするのが自然である、という認識がCLIL的だと言ってしまってもいいでしょう。
「なんだかよくわからないなぁ」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。説明がヘタクソで申し訳ないです…。日本CLIL教育学会発行のnewsletterをご覧いただくと、中学・高校での実践報告がありますので、イメージがつきやすくなるかもしれません。よろしければ下記ウェブサイトをあわせて御覧ください。
日本CLIL教育学会 J-CLIL Newsletter https://www.j-clil.com/newsletter
話を戻して、「内容」が豊かだからこそ「英語」学習がより豊かになる、というのがCLIL的な考え方です。だからこそ、「内容」が素晴らしいNEW TREASUREの長文がCLILにうってつけなのです。
では次に、NEW TREASUREの長文を活用して、どのようにCLILを実施したかを以下に示します。実践にあたっては、上智大学の和泉先生が『SOFT CLIL and English language teaching: Understanding Japanese policy, practice and implications』(Routledge 第1版(2021年))という本の中で書かれていたRound-based Soft CLIL classを参考にしました。
授業の流れは、長文内のパートごとに以下の通りすすめていきます。
① 本文に関係する比較的平易な問いを提示し、それについてペアで英会話
② ①を導入として、英文の読解を以下の手順で行う
a. 本文の大筋を問うT / F問題をとかせ、平易な英語で答え合わせ
b. 本文中の新出単語を日本語で示し、その意味に対応する英単語を本文から探させる→発音練習
c. 本文をチャンクごとに区切ったワークシートを配布し、英→日の翻訳をペアで行う
③ 本文の核となる概念知識を抽出し、その定義を図などを用いながら説明する
④ ③の用語と生徒たちの生活文脈と関連づける問いを示し、ペアで英会話
③の「概念知識」が最もわかりづらいかと思います。「概念知識」の定義は様々ですが、私は (1) 単語やフレーズで示せること (2) 時代とともに意味が移り変わることなく、定義に普遍性があること (3) 様々な知識や経験と関連づけられること という定義をよく意識しています。たとえば、国語であれば修辞法、社会であれば民主主義、数学であれば微分積分、理科であれば酸化、などが「概念知識」にあたります。このような「概念知識」を長文内の各パートで扱うことによって、長文全体の内容を要約しつつ理解できるだけでなく、生徒たちの知識や経験と関連付けながら内容について考えることができるようになります。なぜなら「概念知識」は、「(3) 様々な知識や経験と関連づけられる」からです。
たとえばStage3 Lesson2 Read(書道家 金澤翔子さんの物語)では、以下のような概念知識と問いを扱うことができます。これらの問いについて、授業内で対話したことをもとにwritingをすることを宿題として課すのも良いでしょう。
各パートの要約 | 概念知識 | 問いの例 |
---|---|---|
小学校低学年の金澤翔子さん | inclusive | あなたの小学校はinclusiveな学校でしたか? |
書道との出会い | well-being | あなたは今、well-beingを感じていますか? |
翔子さんの書道作品に込められた思い | potential / social cohesion | あなたの友達の良いところを話して下さい。それはその子のpotentialですか? |
金澤翔子さんのさらなる活躍 | social participation | 身の回りの大人は、どのようにしてsocial participationを果たしていますか? |
これらの活動を終えたのち、上記の概念知識を統合して考えられるような問いを設定し、それについてスピーチをさせます。評価基準で「授業で扱った概念知識を複数使うこと」を求めれば、授業内容との統合もすすみ、発表活動にまとまりが出やすくなります。以下がスピーチのお題となりうる問いの例です。
(1) What do you want to do in the future to make Japan more inclusive?
(2) What can we do to make a better society?
(3) How can we enhance the well-being of all the people in Japan, including people with disabilities?
上記のような授業展開によって、生徒は本文の内容をふまえて「インクルーシブな社会」について考えを深められるようになります。この形式の授業を展開するためには、各パートからうまく概念知識を抽出してくる必要がありますが、NEW TREASUREの長文はこれが比較的やりやすいと感じています。
概念知識の抽出については、Matthew Davis先生が『SOFT CLIL and English language teaching: Understanding Japanese policy, practice and implications』で書かれていますので、よろしければあわせて御覧ください。
ここまでNEW TREASUREの長文を用いた内容学習と言語学習の両立を目指すCLIL授業について書いてきましたが、「ウチは言語学習で精一杯!」という学校もあるかと思います。そのような現場では、昨年度や前期の授業で扱えなかった長文を使って上記のような授業を行うのが良いでしょう。言語学習的にも良い復習素材となり、高い学習効果が見込めます。
Stage 3 Lesson 2 Read(書道家 金澤翔子さんの物語)の授業案の一部を、実際にフェリス女学院中学校にて実践させていただきました。以下がその授業を一緒に実践してくださった先生のご感想です。
Third editionを中1から使っている学年で、白井先生のご支援を頂きながら週1コマCLIL授業を実施しています。Readは内容が充実していて、これまでも楽しんで取り組んできましたが、CLILの授業では、生徒たちの思考がよく動きます。そして、考えるから英語で発したくなる、考えを共有するからまた考える、という循環が生じています。また、教材の内容を、身近なことに落とし込み、どのような問いを設定するかが授業の胆であると感じています。授業では、ペアワークの多用は、取り組みの質を向上させ、教えあいが自然と生じています。
今回の教材では、感想の中に、「他者への愛」、「potentialを発揮すること」などへの言及も多く、内容をしっかりと捉えられていました。生徒たちは、英語で話し続けること、英語で書くことを繰り返し、少しずつ自信をつけているようです。
NEW TREASUREをお使いの学校で、CLILを実践したいと考えている先生方がいらっしゃいましたら、協働で授業案を考えることもできますので、ぜひご連絡ください!
プロフィール
白井 龍馬 (Tatsuma Shirai)
慶應義塾大学卒。神奈川県の私立中高にて10年間勤務したのち、大学院進学を経て、久留米高専の助教に就任。専門はCLILで、様々な学校と共同実践するかたわら、CLIL普及のため研究会や教材執筆に取り組む。勤務校では高専の学生たちが持つ科学技術の知識や技能が転移するようなCLIL授業ができないか実践研究中。趣味のバスケは今や「見る専」になってしまったが、2023年度のW杯は絶叫しながら観戦し、大いに燃えた。