『リンガメタリカ』改訂秘話インタビュー(全5回連載)
③ 厳選された長文・単語とテーマの重要性(1月中旬公開予定)
④ 4名の著者の共創でよりパワーアップしたリンガメタリカ(1月下旬公開予定)
⑤ 著者が語る「最大のこだわり」と「英語学習者への熱いメッセージ」(2月上旬公開予定)
4名の著者のご紹介

木村 哲也(きむら てつや)
【プロフィール】
SEG講師。上智大学大学院外国語学研究科修了(言語学)。著書:『研究社英文法・語法問題集』(研究社)、『全問正解するTOEFL ITP TEST文法問題580問』(語研)、翻訳:『英語前置詞の意味論』(研究社)、辞書執筆:『ライトハウス英和辞典』(研究社)ほか。趣味はバッハを聴く、映画を観る、星空を眺める、など。
本書では第1章、第2章、第8章、第10章の背景知識を担当。

松木 尚一(まつき しょういち)
【プロフィール】
SEG講師、元河合塾講師、東京大学工学部建築学科卒 同大学大学院工学系研究科修士課程修了(建築学専攻)。執筆:『クラウン受験英語辞典』(三省堂)ほか。趣味は入試問題研究。温泉巡りなど。
本書では第3章、第4章の背景知識を担当。

小原 弘行(おはら ひろゆき)
【プロフィール】
SEG講師、上智大学法学部国際関係法学科卒。大学受験向け精読授業に加え、英語多読指導に参加。趣味は読書。自他ともに認める bookwormで、コミックから学術論文まで乱読。
本書では第6章、第9章の背景知識を担当。

日永田 伸一郎(ひえいだ しんいちろう)
【プロフィール】
早稲田大学国際教養学部卒。SEG、湘南ゼミナール、駿台予備学校、逆転コーチングにて英語を担当。英検1級、TOEIC 990点、TOEFL117点、IELTS 8.0などを保持し、資格試験への造詣も深い。著書に『極めろ! TOEFL iBTテスト リーディング・リスニング解答力 第2版』(スリーエーネットワーク)。
本書では第5章、第7章の背景知識を担当。
「鮮度」と「深度」を両立したテーマの再構築
—古いテーマを漫然と残すのではなく、最新内容との繋がり等も考慮し、一からの再検討を行っていった
ロングセラーの書籍だからこそ、リンガメタリカの変えない価値・変化させる部分、つまり「不易流行」のさじ加減が必要だったと思いますが、
原稿を作成される際に苦労された点や工夫された点はどういったところだったでしょうか。
日永田先生 そうですね。やっぱり膨大な内容を厳選していくというのが一番苦労しました。特に第7章の「言語・教育・文化」は範囲が広すぎて、かつ多分大学入試で一番出てくるテーマで、正直1章分、背景知識部分だけでいうと6ページですね、そこに納めるのが本当にしんどかったです。テーマの大本となるところはあるので、そこから始めていって、現代の社会が抱える問題に繋げていくというふうに構成していきましたが、その構成を考えるのは最初かなり苦労しました。
書籍となるとページ数が決まっていますもんね。
日永田先生 そうですね。 でもこの分野は試験にもよく出てくるのでしっかり書きたいなと思いました。「言語の格差と消滅」なんかのテーマは、これだけでも多分1冊書けるぐらいの密度があるので、その中でもとくに高校生に読んでほしい切り口で原稿にしました。
この章については、人類社会のすべての大本のようにも言うことができるかなと思ったので、言語の起源という人間全体に共通する普遍的なベクトルと、あとは個人レベルの言語習得という社会全体の視点と、個人の視点、マクロの視点とミクロの視点でなんとかまとめられないか…というふうに頑張りました。
まさに「不易と流行」ですね。その中でも特に「これは高校生に知ってほしい」というトピックや単語はありますか?
日永田先生 トピックでいうと、やっぱり入試でよく出てくるのが言語と文化の関連性。 あとは言語格差の部分、第7章の背景知識 7-3と7-4ですね。しっかり読み込んでほしいです。
「言語がなくなる」という話に関しては、最近の入試だと本当によく出ています。特に面白かったのは、数年前に出た内容…、言語習得のアプリ等のテクノロジーが発達することによって、少数言語を学ぶ機会が減っていって少数言語は淘汰されていく…のような話ですね、そういったものはホットなテーマかなと思いますね。
情報のアップデートは大切だけれど、根本から体系的におさえていくことも大事なんですね。
日永田先生 大事ですね。ベタなテーマは意外と何度も入試に出るので。

他に、「不易と流行」という視点で、原稿を作成される際に苦労された点はおありでしょうか。
小原先生 私が担当した章というのは、そもそも「最新」という言葉とは縁遠い分野ではありましたが…。例えば「(ユニバーサル)ベーシックインカム」をテーマとして扱うかどうか問題となったときのことなんですけど。
「ベーシックインカム」について、はじめはもう過去のものになりつつある概念なんじゃないかと思ったんです。でも、今 AI が発達して、生産性も非常に上がるけれど、その一方で人の仕事がなくなっていくのではないかという話も出ていますよね。そうなったときに、では一体どんなシステムが社会を構成するんだろうと考えていくと、意外と「ベーシックインカム」の考え方は今後の社会構造の基盤の一部となり得るんじゃないか。
社会的実験からもしかしたら実装まで行くんじゃないかなどと連想していきまして…。そういったことを考えて、これについてぜひ書かせてもらおうと考えるようになりました。
一見古いと思ったものも実はそれこそホットトピックになるということがあるんですよね。
松木先生 私も、不易な部分と最新の情報というのは別に切り離されているわけではないということを思いました。 今の技術というのは、やはり今までの積み重ねの上にあるんですよね。今回の改訂も、現行版があったからこそ、そこからアップデートしていったわけですし。
例えば私は、「医学」「医療」の章を担当しましたが、現行版でも取り上げていた内容から始めていって、その流れの上に最新情報を乗せるようなかたちにしました。だから自然と一本の線に繋がったなと思います。
その他は、例えば英文の中に、「臓器提供の意思があるかないかのオプトインとオプトアウト」という話題を選んでいます。 臓器提供以外にも、最近はいろいろなものを買う際にも話題になりますよね。注意をしていないといらないものを買わされるかもしれない、ということも起こり得ますから。そういったあたりも意識して、賢い生き方をしないといけない、という日常的な内容にもつながっていきました。
医療から日常の生き方の話題に繋がっているのですね。
松木先生 そうですね。ひとつのテーマからいろいろと広がっていくんだろうと思いましたね。
木村先生 私の担当のうち、第2章「テクノロジー」の解説は、最新の部分を書きすぎると、逆にすぐに古くなってしまうという懸念があって、むしろ根っこの方をちゃんとやっていったほうがいいと思って構成しました。書き始めた頃と今では、既にAI の状況が全然違いますし。
AIを信用しすぎるとよくないというのは、ハルシネーションの問題もよく知られていますが、絶対に信用できる情報であるとは限らない点ですよね。
ちょっと横道にそれちゃいますが…、私は将棋が好きなんですけど、将棋も今はプロが一手指すごとにAI が判定を出すんですね。
だけど今のAI が「この手が一番いい」と判定しても1年後のAIは違うことを言うかもしれない。
おそらく今一番強い AI が、1年後の AI と戦ったら百パーセント負けるんですよ。つまり今の AI は最強でも何でもない。
だから、今のAIが「これが最善だ」って言うことは、実は決して最善ではない。 人間が指して AI がダメって言った方が実はいい手の可能性もあるんです。新バージョンのAIはまた全然違うことを言う可能性もある。将棋以外の分野でも同じことが言えます。
だから私は「最新」をあまり信じていないんです。そういうこともあり、この分野に関しては「最新」や「最先端」にあまり振り回されすぎないように気をつけました。
本当に、変化が目まぐるしいですもんね。そんな時期に、最新版リンガメタリカを書くというのは、本当に先生方のご苦労があったと思います。
木村先生 第10章の人口動態のデータなどは最後までアップデートしましたが、それだってまた来年の今頃には状況が変わっているでしょう。 少子化の問題などで、「人口は、今何人」というデータ自体はそんなに重要性を持つものではないですが、それでも減少傾向にどこで歯止めがかかるかとか、そういったことは大事ですよね。そういった部分に敏感になってもらえることを意識して書きました。
先生方がすごく迷いながら書かれたというのが、お聞きしていて伝わってきました。書き直しも相当されたのでしょうか。
小原先生 最初に書いた文章は、もう跡形もないです(笑)
そうなんですね…。そこは先生方のお話し合いの中で新たな気づきがあって書き直す…というようなかたちだったのですか?
小原先生 それもありますが、例えば…
倫理・社会の背景知識のテーマを考える際に、「差別」というテーマを最初に出したんです。
この場で、言ってもいいのかわからないのですが、私、最初はボツになると思ったんですよ。
「差別」というテーマはどう書いても賛否両論あるし、学習参考書としてはリスクが大きいだろう、「これは書き換えてください」というふうに編集者さんから戻ってくるだろうな、と。
でも、それはそれでいいや、こういった考え方もあるという例で出してみようと。
そう思っていたら、通ったので意外でした。 恐らくリンガメタリカという単語帳でなければこういったテーマは絶対ありえないと思います。
Z会編集部 編集部の中での線引きみたいなものがあって、書いていい言葉、書いてはいけない言葉という…そういったものはやっぱりあるんですけど。
今回の場合は、このぐらいの分量でしっかり説明ができれば、学習者への誤解も生じないだろうという判断をして採用しました。
ただ、編集部内でも相当相談はしました(笑)
小原先生 ですよね(笑)
Z会編集部 1行2行でさっと済ませてしまうような小さい解説だと、やはり読み手にどう届くかがちょっとわからないので「変えてください」とお願いしてしまうこともあります。
小原先生 私もそれが非常に心配でした。今回取り上げた問題っていうのは、いろいろな意見が出てきていて、それこそ炎上するような可能性もあります。だからこれは書き直してくれと言われると思ったんです。
いくつか手直しはもちろんありましたけれども、コンセプトそのものは通ったっていうのは個人的にすごく感動しました。

小原先生 もちろん、一番書きたかったことではあったんで、ボツです、と言われた時には、じゃあどうやったら受け入れられる形になるんだろうというのは、やりとりする中で少しずつ変えていくつもりではあったんですが。
今の高校生に「このトピックは絶対に読んでもらいたい」という思いがあったからこそ、なんですね。
今回のお話、Z会 編集部も初耳だったということで貴重な裏話をありがとうございました。
松木先生 トピックについては、とにかく最初は、あとから削ればいいだろうからって、どんどん思いつくまま書き出していきました。初案の中には、「終末期医療」というテーマの中で「安楽死」を積極的に勧めた医師に関するエピソードも出ていましたが、それは最終的にはバランスを見てカットしましょうかということになりましたね。
とりあえず最初はどんどん案を出して、そして検討して考えて、どんどんいいものに絞られていった形です。専門的すぎるという指摘もありましたし、最終的にいいものにまとまっていったなと思います。満足していますね。
木村先生 医学関係は、言葉だけが上滑りしていて、実際には皆よく理解していない…という言葉もたくさんあります。「免疫」なんていう言葉もそう。 今回の背景知識解説の中ではかなり深くとりあげてありますが、一方であまりにも深く掘り下げると、医学書みたいになっちゃうんですよね。
だからそのあたりのバランスはかなり調整しました。
ありがとうございます。先生方が「鮮度」と「深度」のバランスについてかなり配慮されたというのが本当に伝わってきました。