【コラム】日常生活における活動を授業でも活かしてみましょう ~ディクトグロスの効果的な実践法②~

投稿日時:2023年2月24日

 

1.自己紹介

こんにちは。神奈川県にあります、私立桐蔭学園高等学校で英語科の担当をしております、村上と申します。今回、私が授業でおこなっている実践報告をする機会を頂きました。以下にその報告を述べたいと考えています。

 

 

2.日常生活とメモ

普段の授業において、私は生徒にメモをとることを伝えています。授業中に教師の何気ない一言が、生徒にとって興味の持つことのできる内容である可能性もあると考えられるからです。それだけではなく、メモをとることは日常生活でも頻繁におこなわれております。例えば、学校内であれば、我々教師は生徒の保護者と電話での応対でメモをとったりしていることでしょう。また、生徒が将来会社に入社し、上司や同僚からの伝達事項があった際も同様で、それらを全て正確に頭に記憶しておくことはほぼ不可能と思われます。そうした状況に対応できるために、日頃からメモをとる習慣を我々教師同様、生徒にも身につけてもらいたいと私は考えております。もちろん生徒には、最初からうまくメモをとることは難しいので、徐々にうまくできるようになっていくと伝えています。

メモの中身ですが、通常メモをとる場合、全てを書くわけではなく、重要な内容を主に書き留めると思われます。また、メモをとる場所ですが、用意しているノート、教科書に直接書き込む、もし付箋やメモ用紙を準備しているのであれば、そちらに書くように生徒には伝えています。

それでは、日常生活においてその伝達事項を別の方に伝える場合、どのようなことをすべきでしょうか。通常、会話の内容全てをそのまま覚えているはずがないので、書き留めたメモをもとに、聞いた話を復元し、先方にお伝えすると思われます。この作業を授業の中でもおこなうことができないかと考えていました。

この作業に加え、グループワークを取り入れたいと考え、そのどちらの活動も含まれるものとして、ディクトグロスの手法を用いてみました。

 

 

3.実際のテキストを用いて

2021年6月のコラムで、ディクトグロスの詳細を述べました。ディクトグロスの詳細はそちらをご覧頂ければ幸いです。

『NEW TREASURE』コラム「日常生活における活動を授業でも活かしてみましょう ~ディクトグロスの効果的な実践法~」
記事はこちら 

今回は、同じような方法でリスニングの部分に焦点を当て、さらに前回とは別のクラスで実施してみました。
今回使用したテキストは、NEW TREASURE Stage 5のLesson 1 READING Section 1です。高校2年生を対象におこないました。
 

テキスト(NEW TREASURE Stage 5 Lesson 1 READING Section 1)

 

生徒の書いたメモを以下に示しておきます。生徒は、今回のテキストの内容や語彙、文法などの情報は事前には知らされていません。これは、生徒たちが今後模試や英検などの英語資格試験を受ける際、事前に内容を知らされることは当然ないからです。また、グループワークをおこなう前に情報を与えると、生徒自身が、どこまで語彙を知っているのかを判断することができないのではないかと考えたためです。

 

画像①:生徒のメモとグループワークをしながら作成した英文(その1)

画像②:生徒のメモとグループワークをしながら作成した英文(その2)

 

画像①のメモですが、前半部分は該当生徒が一人でメモしたものであり、走り書きをしているので、読み取ることは困難であります。
数行下に書かれた英文は、この該当生徒を含め、四人一組のグループワークで作成した英文になります。

画像②のメモですが、前半部分のメモはこの生徒が一人で作成したものです。こちらの生徒のメモも画像①のメモと同様、メモの部分を走り書きで書いているので、読み取りが難しい箇所もあります。
一方で、数行下に書かれた英文は、文法的に誤りが見られますが、画像①と同様にこの該当生徒を含め、四人一組のグループワークにおいて作成した英文になります。

 

 

4.生徒のメモを分析する

画像①の生徒のメモと英文をみてみると、mergeとemergeの意味を混同してしまっております。しかしながら、大まかな要旨は捉えられているように思われます。また、単語の綴りにも不安な部分があるからか、同じ単語を複数箇所にわたって書いています。英文を再構成するにあたり、聞いた英文をそのまま書こうとせず、要旨を捉え、自分の言葉で書いているように思われます。

画像②の生徒のメモと英文をみてみます。この生徒の英文の第一文は、動詞が複数ある英文になってしまっています。また、この生徒も画像①の生徒と同様、単語を正確に覚えきれていないところはあります。ただ、こちらの生徒も、英文の要旨は捉えられているように思われます。画像①と②の生徒は、別グループで英文を作成しましたが、似たような英文ができあがっています。

 

 

5.生徒の感想など

生徒全員からの声を集約はしていませんが、授業終了後に数人の生徒から、テキストの背景知識があれば、少々聞き取ることができない部分も内容理解の一助になるのではないかというコメントが聞かれました。今回扱ったテキストは、南アフリカの国歌に関する話でしたが、この話を知っている生徒は皆無であり、事前の情報なしで聞くのは、困難であったと考えられます。

また、この活動への意欲が高まり、自習でおこなってみたいと話す生徒もいました。今回のようなディクトグロスの手法を用いて、例えば過年度で使用した教材を用いて、その英文を聞くだけでなく、メモした内容を自分の言葉で再構成してみるような学習方法もかなり効果的ではないかと思われます。

 

 

6.まとめ

今回扱った英文は、テーマや英文を事前に知らせずにおこなったため、生徒にとっては難しい作業であったものと思われます。しかしながら、生徒はリスニングに集中して英文の要旨を理解し、キーワードのメモをとり、その内容を英文で再構成する、という活動をおこなうので、メモを作成するためのリスニングの力、英文を書くことによるライティングの力の確認が各自でできると考えられます。同時に、日常生活でもおこなうであろう、メモをとる力も身につけさせることができます。さらに、生徒自身が聞き取ることができなかった箇所、つまり自身の弱点を把握することもでき、その箇所をグループワークという形で補うことも可能です。

ディクトグロスとは、本来文法力を身につけることを目的としたものです。そこから考えると、今回扱ったテキスト部分ではなく、別の箇所でおこなう方が効果的であったかもしれません。しかしながら、新年度の始めに生徒に現在の自分の英語の力を把握してもらい、今後の英語学習の一助になることを願い、このような形で実施しました。

今後は、リスニングの観点にとどまらず、ライティングなど他の観点に焦点をあてながら実施し、効果をはかりたいと考えています。

 


《参考文献》
Wajnryb, R. (1990). Grammar dictation. Oxford University Press.

 

プロフィール

村上 右一 (Murakami Yuichi)
桐蔭学園高等学校英語科教員。
筑波大学大学院人文社会科学研究科在籍後、複数の学校を経て、現在の学校に赴任、現在に至る。英語の授業のみならず、探究の授業も担当している。

 

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