Column 19年01月 あなたの「バリュー」は何ですか? ~ FLL 東日本大会レポート~

プログラミング講座の教材開発担当が,2018年12月に行われたロボット競技大会「FLL」東日本大会に審査員として参加してきました。その様子をレポートします。(Z会プログラミング講座 with LEGO® Education 教材開発担当 鶴見)

FLLとは?
FLL(FIRST LEGO League)とは,アメリカのFIRST (For Inspiration and Recognition of Science and Technology)という団体が行っているマインドストーム® EV3の大会です。 対象は9歳から16歳で,さらに低学年向けにはWeDo 2.0 を使った FLL Jr. が行われています。世界98カ国から32万人もの子どもたちが2人から10人のチームで参加する,そして世界各国で行われる予選を経て複数都市での「世界大会」が行われるという,少し変わった世界最大規模のロボット競技会です。

実は2018年の夏には,FLL Jr.の世界大会のひとつが名古屋で行われました。その様子もこちらでレポートしており,さらに下記リンク先ではその様子やFLLの「しくみ」についても紹介していますので,ぜひご覧ください。

FIRST® LEGO® League Jr. International Open Japan 観戦レポート

INTO ORBIT
2018年-2019年のテーマは「宇宙」。FLLでは「INTO ORBIT」をこのシーズンのテーマとし,大会が行われます。

FLLは「ロボット競技会」でありながらプレゼンテーションを重視しており,今回は「ロボット競技」が400点満点,プレゼンテーションが600点満点で競われました。さらにプレゼンテーションは「プロジェクト」「ロボットデザイン」「コアバリュー」の3パートそれぞれで発表する必要があるため,ロボット以上に準備が求められます。

「プロジェクト」と「コアバリュー」
FLLの特長は,「プロジェクト」と「コアバリュー」にあるといっても過言ではないでしょう。くり返しになりますが,ロボット競技会ですから,ロボット競技があるのは当然です。そしてその内容についてのプレゼンテーションがあることも不思議ではありません。しかし「プロジェクト」とは何でしょうか。「コアバリュー」とは何なのでしょうか。

プロジェクト
「プロジェクト」とは,その年のテーマの下で社会が抱えている問題を研究し,科学的な解決策を提示するという「調査・研究」のミッションです。今年であれば,公式サイトに次のように書かれています。

INTO ORBIT シーズンではチームは宇宙に旅立ち、人類が宇宙で暮らすための調査・研究を行います。私たち人間が長期間にわたり宇宙空間で生活するには何が必要なのでしょうか? 物理的・精神的・社会的な観点から課題を見つけ、その解決策を提案します。

参加チームは,例えば「宇宙食」についての調査・研究を行うかもしれません。例えば「宇宙でのストレス解消」についての調査・研究を行うかもしれません。例えば「宇宙で筋力を低下させないための運動」についての調査・研究を行うかもしれません。大切なのは,調査・研究を行わねばならないこと。インターネットでWikipediaの記事を検索して終わり,では点数になりません。「こんなモノがあったらいいな」という妄想を書くだけでも点数になりません。課題を設定し,適切な手法で調査を行い,専門家に意見を求め,一つの「解決策」として提示できる状態にまで持って行かねばなりません。あるチームはJAXAに問い合わせのメールを出すかもしれません。あるチームは大学の先生と面会の約束を取りつけるかもしれません。あるチームは食品メーカーの広報に手紙を書くかもしれません。そしてその成果を,わかりやすく発表しなければなりません。大変なことですが,大変だからこそ審査の対象ともなるのです。

コアバリュー
FLLへの参加は「2人から10人のチームを作ること」が条件です。チームを作る以上,誰もが役割を持っているはずです。チーム内での衝突もあるはずです。大切にしてきたことがあるはずです。そして,この活動を通して得た「何か」があるはずです。それが,「コアバリュー」です。

保護者の皆様は,ご自身の小中学校時代を思い出してみてください。部活動に打ち込んだ経験があれば,あるいはチームで何かをした経験があれば,そのときのチームの「コアバリュー」が何であったかを考えてみてください。その活動を通して得た「何か」があったことは間違いないことでしょう。しかしその「何か」を言語化することがどれだけ大変なことか,その「何か」を人に伝えることがどれだけ大変なことか。大人になってからでさえ大変な「コアバリュー」のプレゼンテーション。9歳から16歳の子どもたちは,どのような発表をするのでしょうか。

FLL東日本大会

2018-2019シーズンのFLLの日本国内予選には東京で行われる東日本大会,名古屋で行われる西日本大会,福岡で行われる九州大会の3大会があり,筆者は東日本大会に「コアバリュー」の審査員として参加してきました。

東日本大会の会場は東京工業大学。指定された集合時間は朝8時。日曜日のその時間であれば,東工大のある大岡山の駅も静かなものだろう……。そう思いながら大岡山で降りてみて,びっくり。日曜朝に似つかわしくなく,結構な人数が駅前にいるではありませんか。この日の参加チーム数は44。チームの構成メンバーと引率者,応援の家族などを含めれば,おそらく1000人を超える人が大岡山に集まったはずです。

開会式を経て,8時半から早速審査が始まります。

コアバリューの審査
公式サイトには,コアバリューの発表内容として次のような記載があります。

チーム紹介、チームワークの良さ、FLL活動(主にプロジェクト)でチームが学んだことなど

「コアバリューとは何なのか」に対する自分たちなりの答えを持っているチームでなければ,おそらくこのプレゼンテーションは「チーム紹介」で終わってしまうことでしょう。どのようなプレゼンテーションになるのか,わくわくしながら審査に入りました。

実際に審査員としてプレゼンテーションを見ると,自己紹介に終始してしまうチームも残念ながらゼロではありませんでした。しかし一方で,満点に近い点数がつくチームもあります。その違いは何だったのでしょうか。

コアバリューのプレゼンテーションについて,『ファーストレゴリーグ公式ガイドブック』(鴨志田英樹 著、KTC中央出版)には次のような記載があります。

  • チームの一員として,どのように関わり貢献できたかが重要
  • チーム全員が楽しんで発信しているかを注視
  • チームのアイデンティティと熱意,それを表現する力を審査

これは大切なヒントです。パワーポイントで作ったスライドを発表することが「プレゼンテーション」なのではありません。高得点だったチームを思い出すと,寸劇をするチームがありました。歌うチームもありました。大きな声ではきはきと要点を伝える,目の覚めるプレゼンテーションもありました。手法は違えど,どのチームにも共通していたのは,『ファーストレゴリーグ公式ガイドブック』で指摘されていたポイントを意識していたことでしょう。子どもたちの発想に驚かされると同時に,これが本当の意味での「自己アピール」なのだろうな,と考えさせられた審査でした。

ロボット競技
ロボット競技についても触れておきましょう。マインドストームを使った大会である以上,ロボット競技はやはり「大会の華」です。


どのようなことをするのかは「百聞は一見にしかず」でしょう。筆者も,実際に目にするまでは「何をするのかよくわからなかった」のが正直なところです。当日の様子は主催者が動画でYouTubeにアップしていますので,ご覧になってみてください。

FLL 2018 2019 into orbit 東日本大会 2018.12.16 第3ラウンド
(この動画中に筆者も映り込んでいます。さあ,どこでしょう?)

ほか,YouTubeには世界中の参加者がアップロードした「自分たちのモデル」がありますので,「FLL 2018」といったキーワードで検索してみると,どのような動きをするモデルなのかを見ることができます。

1日を通して
「ロボット競技会」というイメージだけで臨んではいけない大会なのだと改めて実感しました。先にも触れた通り,今回はプレゼンテーションが600点満点でロボット競技が400点満点。そしてこの東日本大会でのロボット競技の最高点は210点そこそこだったとのこと。つまり,課題解決のために「最良」と考えるモデルを組み立ててプログラムすることも大事ですが,それ以上に,自分たちが何をどのように考えどのように行動したのかが大切なのです。FLLと並んで世界的に参加者の多いWRO(World Robot Olympiad)というマインドストームの大会でも「オープンカテゴリー」という部門でプレゼンテーションによる審査が行われてます。単に「技術」があるだけでは足りず,いかに周囲と協力するか,いかに周囲に伝えるか,いかに自分たちを理解してもらうのか。こうした姿勢が求められているのだといえるでしょう。

Z会プログラミング講座受講者へのアドバイス
Z会プログラミング講座 with LEGO® Educationは,「テクノロジーに触れ、考え、実践しながら学ぶ経験」をご家庭でしていただくことを目的としています。そのため,こうした大会への参加を直接意識したものではありませんが,目指す方向は違ってはいません。

基礎編,発展編を問わず,ワークブック中には「説明しよう」という問題があります。あるいは,「おうちの方に伝えてみよう」という問題があります。これはいかに周囲に伝えるか,いかに自分たちを理解してもらうのかを意識した設問です。

「毎月のミッション」「冬休みのスペシャルミッション」もご覧いただいているでしょうか。学んだことを生かして,Z会プログラミング講座の担当者からの「ミッション」に取り組むこの課題。課題解決のために「最良」と考えるモデルを組み立ててプログラムすること,どのように考えたのかを伝えることが目的です。

そして,一部の地域の方のみにしか機会をご提供できませんでしたが,8月に東京で,11月に大阪で行った「開講1周年記念イベント」。

初対面の「お友達」といっしょに,ミッションに取り組みます。いかに協力するかが問われるこのイベント,大変好評をいただきました。2019年の開催は未定ですが,お近くで実施されるようであれば是非,ご参加ください。

Z会プログラミング講座 with LEGO® Educationは,単に「レゴブロックを組み立てるだけ」の講座ではありません。ご家庭によって,お子様によって取り組み方は違うでしょうが,背景にはこのような考え方があることを知った上で取り組んでいただければ幸いです。