心の遠きところ

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【心の遠きところ】です。

 

『しょうがっこうの、いやなところ…』中面画像
『しょうがっこうの、いやなところ…』より

 なに するんだろう?
 きょうしつの うしろには、ランドセルを いれる ロッカーが ならんでいる。その はしっこに、そうじどうぐを いれる せのたかい ロッカーが ある。そのロッカーと かべの あいだに すこしだけ すきまが ある。(あし)が 一本(いっぽん) はいるくらいの すきま。
 たかとくんは、その すきまに、ちょっとずつ からだを すべらせている。みるみるうちに、たかとくんは、すっぽり すきまに おさまってしまった。

 

 

「母ちゃんは? いる。いる。」そこでまた三四(けん)よちよちすすみました。母ちゃんは? いた。いた。ですが、よく見ると、母ちゃんをもうこんなに遠くはなれてしまいました。
「母ちゃアん。」と、さけんで、正太は小走りにもどって来ました。

 


 

『しょうがっこうの、いやなところ…』書影

『しょうがっこうの、いやなところ…』
作 山本悦子、絵 佐藤真紀子 
あかね書房、2026年 
同じ作者、同じ画家の本に『しょうがっこうが、きらいです!』(あかね書房、2024年)がある。主人公は、1年生のマユだ。「わたし、学校、いきたく ないみたい」というマユのひとことから作品がはじまる。胸のなかがモヤモヤするのだ。
このマユが『しょうがっこうの、いやなところ…』にも、ちょっとだけ出て来る。どちらにも、ねねちゃんや、みさきちゃんや、ぎんちゃんが登場するし、二つの作品に描かれたのは、同じ教室のようだ。

 

『うらがわ ともだち』書影

『うらがわ ともだち』
河原久美子 
BL出版、2025年 
むらさき色のパーカーのその子は、図書館も好き。虫たちのことをもっと知りたいからだ。図書館で、やっぱり虫の本を読んでいる子を見つける。
第41回「日産童話と絵本のグランプリ」絵本部門の大賞受賞作品だ。カバーのそでに推薦文を寄せた絵本作家の高畠純さんは、主人公を「内面をみつめる子」と呼び、「ひそかに自分の世界、自分だけが知っている世界を大切にする」と述べる。

 

『心の遠きところ はじめての坪田譲治』書影

『心の遠きところ はじめての坪田譲治』
坪田譲治 作、山根知子 編 
小峰書店、2026年 
「坪田譲治文学賞」創設40周年を記念して、岡山市が企画した作品集である。小説家であり童話作家でもあった譲治の名を冠した、この賞は、「大人も子ども共有できる世界」を描いた作品に贈られる。
「母ちゃん」は、最初、児童雑誌『赤い鳥』(1931年8月)に発表された童話。「心の遠きところ」を描き出した及川賢治のカバーの装画が楽しい。

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

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