子どもたちを誘う美しい満月

ー前略ー
つきが のぼった!
まつのきで、ふくろうが めを さます。
ねこが でてきて、にわを ぐるっと まわって、
きどから でていく。
ユードリーの詩のようなテキストは、とろんと眠くなる夏の夕暮れから始まります。月を背景にほのかに発光する黒ねこは、愛嬌のあるユニークな顔立ち。さあ、やわらかな光を放つ満月に誘われて、子どもたちが家から出てきました。『THE MOON JUMPERS(原題)』は、月に向かって飛び上がるものたち、といった意味です。
センダックの作品には、子どもたちが浮遊する場面がたびたび描かれます。『うちがいっけんあったとさ』や『まよなかのだいどころ』、『おふろばをそらいろにぬりたいな』など、小さな手足をひらひらさせて幸せそうに男の子が踊っています。この重力から完全に解放された状態は、想像と現実を自由に行き来できる幼い人のエネルギーの象徴だと私は感じるのです。五感をまるごと目に見えるかたちで表現してきたセンダック。どんなものにもなれるし、ファンタジーは目をつぶって手を伸ばせばすぐ届くところにあると、子どもたちに向けて繰り返し語ってきました。
この『ムーン・ジャンパー』でも、子どもたちの原始的な生命力が全編に満ちています。明るく月が照らす芝生の上で、子どもたちは思い思いにダンス、でんぐり返し、寝ころんで逆立ち、歌をつくって木に登って休む。
みんな ジャンプする、とびあがる、
なんども なんども、たかく もっと たかく。
でも だれも、おつきさまに さわれない。
心も体も自由になる悦びが、センダックの幻想的な色彩で美しく具現化されています。私は『かいじゅうたちのいるところ』を思い出しました。昼間のように明るい月と星空の下、原っぱを踏み鳴らしながらかいじゅうたちと遊びに興じるマックス少年。文字の無いページから、ヴィヴィッドで躍動的なリズムが絶えず聞こえてくる感覚も同様です。こうした物語に触れるとき、わき出る感情を言葉に置き換えた瞬間、鮮烈さや驚きが薄まるような気がしてしまいます。その煩わしさを排した、静かで、でもスパイスの効いた見応えのある無音のページ。センダックの描く白い月は、魔法の力を帯びて、型にはまらない独自のときめきを呼び覚ますのではないでしょうか。
ジャニス・メイ・ユードリーとセンダックが組んだ本は他に『きみなんかだいきらいさ』があります。こちらは絵もストーリーもガラリと変わって現実的ですが、全身にみなぎらせた感情を発散する子どもたちの一途なやりとりに、まっとうな健やかさを感じます。
吉田 真澄 (よしだ ますみ)
長年、東京の国語教室で講師として勤務。現在はフリー。読書指導を行いながら、読む本の質と国語力の関係を追究。児童書評を連載するなどの執筆活動に加え、子どもと本に関する講演会なども行う。著書に『子どもファンタジー作家になる! ファンタジーはこうつくる』(合同出版)など。