大阪府の公立トップ校であり、また、大阪府が指定する進学指導特色校「グローバル・リーダーズ・ハイスクール」の1校でもある大阪府立北野高等学校で、高校生が将来、飛躍する下地となる学習を積み重ねている恩知忠司・前校長に、新大学入試に向けて保護者の方へのアドバイスをいただきました。前編と合わせてお読みください。
◆「課題研究」を通して、探究する態度や論理的思考力を高める
北野高校では、大阪府が進学指導特色校として府内の公立高校のうち10校を指定しているグローバル・リーダーズ・ハイスクールの1校として、2年生が「課題研究」に取り組んでいます。これは、少人数のグループで、1年間テーマを決めて深く研究し、その成果を発表会で発表し論文としてまとめるという取り組みです。試行錯誤して追究する態度や、深く考える力、わかりやすくプレゼンテーションし文章にまとめていく能力、論理的思考力などを高めていくことをねらって2011年から始まった、グローバル・リーダーズ・ハイスクール10校共通の取り組みです。
この取り組みを通して、個々の生徒の資質として伸びるものの一つが主体性です。主体性というと、自ら進んで何かをすること、すなわち「自主性」とも言えるようなものだと発想される方もいらっしゃるかもしれませんが、むしろ、「見通しを立てて何かをする」ということだと私は解釈しています。
その点で、従来の課題研究は、課題を先生が決め、子どもたちは方法論を考えることに重きを置かれがちでしたので、2018年からは、課題設定に時間をかけることを目標に据えました。というのは、今の世の中は課題そのものが見えづらくなっているため、「課題がどこにあるのか?」を見つけ出すことが重要だと考えたからです。こうして生徒たちが自ら課題を設定し、仮説を立ててアプローチ方法を考える過程で試行錯誤し、熟考していくことで、主体性が生まれてくるはずだと考えています。
また、大阪府が「10校合同発表会」をはじめとして、10校の生徒が集まり、ポスターセッションを通して発表する、発表を聞く、質問するといった経験ができる機会を年に複数回作っていることも、生徒たちにとって大きな刺激になっています。これまでだと、他校の生徒と切磋琢磨し合える場は部活動しかありませんでしたが、それを勉強の場においても作ることができました。
◆新大学入試に向けて保護者の方ができること
新大学入試に臨むことになる新高1生、高2生の保護者の方は、例えば、次の点を心がけてお子さんに接されるとよいのではないでしょうか。
1つめは、お子さんが「ほんまもんの勉強」をできるよううながすこと。「ほんまもんの勉強」とは、物事の本質を探究することです。ただ解答欄を埋められればいいという勉強ではありません。お子さんの「なんで?」「ほかには?」といった問いと、その問いに基づいて本質を探究する姿勢を大事にしていただきたいですね。
探究するにあたっては、Webの検索サイトやアプリといった便利なツールもどんどん使えばいいと思います。ただし、検索結果を見ておしまいにするのではなく、調べて生まれてきた「なんで?」「ほんとうに?」「ほかには?」などの疑問をさらに調べていくことが大切です。
2つめは、物事に対して疑問を持たせる雰囲気を家の中に作ること。例えば、時事問題を題材にしたテレビ番組を一緒に見る、保護者の方が読んだ本をお子さんの目につくところに置いておく、家族が皆、新聞を読む習慣を持つなど、お子さんの「なんで?」を生み出せるような、あるいは「なんで?」という疑問を探究できるような雰囲気をつくることも、保護者の方ができることだと思います。
3つめは、英語の外部検定試験を早めに受け始めるよう促すこと。さまざまな議論はありますが、おそらく、今後外部検定試験の活用は広がっていくでしょう。その準備として、高3の本番に向けて、早くから慣れておくことが大事です。また、それ以上に重要な意義として、「国際基準で認められた英語のスコアを持つことで、勉強へのモチベーションが上がる」と私は考えます。
普通に高校生活を送っていると、お子さんが持つ英語のスコアは学校の定期テストの得点くらいです。それだと、国際的な基準で見てどのくらいの英語の力量があるのかということはわかりません。英語力というのは学校の中で息づくものではなく、世界の中で息づくもの。世界の中で自分の発信力がどれくらいなのか、4技能の中でどの技能の力はあって、どの技能の力はないのか、といったことが、CEFR(※)の中で位置づけられたときにわかってくれば、学ぶことへのモチベーションにもなるはずです。
※CEFRとは、「その言語を使って何ができるか」という言語能力の熟達度をはかる国際的な尺度のこと。
北野高校では、2018年度は、1年生全員に、ある検定試験を受けてもらいました。次年度には、3種類くらいの外部検定試験を紹介して、希望するものを受けてもらおうと思っています。
◆家族に合った距離感で、子どもに付き添う
最後、4つめは、お子さんの様子をよく見て、適切なタイミングで助言をすることです。よく「本人のことは本人に任せる」と子どもを放っておかれる保護者の方がいらっしゃいますが、それは無責任だと私は思います。「親は自分に任せてくれてんねん」と言ってる子どもには、一人で悩んでいる子どもが少なからずいます。それぞれのご家庭なりにできる方法で、お子さんに付き添っていただきたいですね。
とはいえ、本人が話したがらないのにしつこく話を聞くのはよいことではありません。いかにして付かず離れずの距離でお子さんに付き添い、お子さんが今どこを歩んでいるのかに注目して、大事なときに信ぴょう性の高い助言ができるかが大事ではないかと思います。例えば、工学部を目指しているお子さんが「電子がええかな?機械がええかな?」と悩んでいるとき、「お前の偏差値は今なんぼやねん?どっちが合格しそうなんや?」ではなく、「そういえばあの大学には電子機械工学科があるで」などと、将来のことを考えてアドバイスできれば、お子さんにとっては相当な助言になると思います。
ただ、1つ、気をつけていただきたいのは、保護者の方がお子さんを自分の分身やミニチュアのようにとらえることはよくないということ。ある程度付き添ってあげることは必要ですが、必ずどこかで自分で羽ばたかせてあげないといけない。親のコントロール下に収まる子どもには、それ以上の道はありません。
プロフィール
恩知 忠司(Tadashi Onchi)
英語教師として大阪府立高校の教壇に立ち、大阪府教育委員会(現大阪府教育庁)指導主事、参事、大阪教育大学教職教育研究センター教授などを経て、2017年より大阪府立北野高等学校校長。
大阪府立北野高等学校Webサイト
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