お母さんのぼうけん

出たばかりの新刊から保護者にも懐かしい名作まで、児童文学研究者の宮川健郎先生が、テーマに沿って子どもの本を3冊紹介していきます。 
今月のテーマは【お母さんのぼうけん】です。

 

『おはなしはどこからきたの?』中面画像
『おはなしはどこからきたの?』より

一家(いっか)は、くらくなっても、まだねるには(はや)いというとき、たき()をかこんで、おしゃべりを(たの)しみました。
そのうちに、()どもたちが、いいだしました。
「ねえ、お(かあ)さん、なにかおはなしを、きかせてよ」
マンザンダバは、(かんが)えに(かんが)えましたが、おはなしはひとつもうかんできません。

 

さくまゆみこによる「あとがき」には、こう書かれている。

アフリカ大陸(たいりく)(おお)くの地域(ちいき)で、「おはなし」はとても(おお)きな意味(いみ)()っています。(なが)(あいだ)文字(もじ)()たなかった人々(ひとびと)は、「おはなし」を(かた)ることによって民族(みんぞく)風習(ふうしゅう)歴史(れきし)(つた)え、自然現象(しぜんげんしょう)宇宙(うちゅう)のなりたちを解釈(かいしゃく)し、()どもたちに()きる知恵(ちえ)をあたえてきました。「おはなし」が文化(ぶんか)土台(どだい)になっていたのです。

亀が海底の世界へつれていく「浦島太郎」も、古くから語られてきた伝説である。今回は、中世の物語集『御伽草子』の「浦島太郎」を読んでみよう。大岡信『おとぎ草子』は、原文の味わいの残る現代語の「おはなし」だ。

 

おかあさんと おとうさんは むすこたちを まちつづけましたが、かえってはきませんでした。それから 何年(なんねん)もたって、いちばんしたの(おんな)()が おおきくなりました。
ある()のこと、(おんな)()は、おかあさんと おとうさんに いいました。
「わたしが にいさんたちを たすけにいきます。」 

 


 

『おはなしはどこからきたの?』書影

南アフリカのむかしばなし『おはなしはどこからきたの?』
さくまゆみこ 文、保立葉菜 絵 
BL出版、2024年 
王は、マンザンダバに「陸の上がどんなふうなのか、どんな人たちがいるのか、目で見えるように、おしえてもらいたいものだ」という。マンザンダバは、また来ると約束して、もう一度、ウミガメの背中にのるのだ。

 

『おとぎ草子』書影

『おとぎ草子』
大岡 信、さし絵 梶山俊夫 
岩波少年文庫、2006年 
「浦島太郎」のほか、「一寸法師」「鉢かつぎ」など、全部で7編が収められている。
この本は、現在、手に入らない。図書館でさがしてください。

 

『日曜日生まれの女の子』書影

『日曜日生まれの女の子』
中脇初枝 再話、さとう ゆうすけ 絵 
偕成社、2024年 
巻末の中脇初枝「おはなしについて」より。――「日曜日は、キリスト教徒にとっては、神の祝福をうける特別な日です。キリスト教徒の多いドイツでは、「日曜日生まれのこども」(ゾンタークスキント)という言葉は、「幸運児」という意味で使われ、祝福をうけた存在とされます。」(カッコ内原文)「昔話の主人公は、どんな形であれ、祝福をうけている存在で、まわりから助けられ、成功します。」「そういう意味では、何曜日生まれでも、女の子でも男の子でも、だれもが祝福をうけた「日曜日生まれのこども」であり、「幸運児」だといえるのです。」

 

宮川先生プロフィール写真

宮川 健郎 (みやかわ・たけお)


1955年東京生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。現在、武蔵野大学名誉教授。大阪国際児童文学振興財団理事長。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『子どもの本のはるなつあきふゆ』(岩崎書店)、『小学生のための文章レッスン みんなに知らせる』(玉川大学出版部)ほか、著書・編著多数。

 

親と子の本棚の記事一覧はこちら